テニス・2025年全豪オープン)

男子シングルス決勝は第1シードのシナーと第2シードのズベレフの対戦でした。

若干23歳のシナーは、昨年この全豪オープンでグランドスラム初優勝を飾り破竹の勢いで2024年シーズンを圧倒的な強さで駆け抜け、再び全豪の決勝に凱旋。

対するズベレフは昨年を世界ランク2位で終え、充実したシーズンを過ごしてきました。過去2回、グランドスラムの決勝で負けた経験もあり、3度目の正直、捲土重来といった感じで気力体力とも充実させての決勝進出。

僕の試合前の予想は、

「シナーのフィジカルの調子が悪く、それに対して絶好調のズベレフがビシビシサービスエースをとりまくって、なんとか勝負になる感じ。それでも6:4ぐらいでシナーが有利かな」

…というものでした。

とにかく現在世界1位のシナーのストロークのクオリティは過去のどんなプレイヤーをも上回るものだと思います。全盛期のジョコビッチの守備力、ライジング能力に加え、ナダル並のスピン量による安定度とミスの少なさ、そしてフェデラー並かそれ以上のフォアの決定力を兼ね備えているぐらいのものがあると僕は感じます。

ズベレフもかなりの威力と安定度を誇る非常に完成度の高いストロークを持っていますが、シナーと比較するとバックハンドは張り合えてもフォアの決定力と全体的なタイミングの速さではシナーに一歩劣ってしまう。ラリー戦になるとシナーが有利なのは間違いないと分析出来てしまうのですね。

なのでズベレフが勝つにはサービスエースを量産し、サービスゲームをなんとかキープし続けてタイブレイクに持ち込み、そこで大事な1~2ポイントで勝負をかけて自分からポイントを奪いにいくしかない。勝てるとしたらそういう展開だろうな…そんな予想を立てましたが、いやはやシナーの強さはもう僕の予想のずっと上を行くものでした。

試合序盤こそややシナーに慎重さがみられ、ズベレフの思い切った攻撃が効果的に決まる事もありましたが、第1セットを先取してから更にギアを上げたシナーのプレイのスピード感にズベレフはついていけなくなっていきます。結果的にストレートでシナーが勝利。2連覇を決めたのでした。

◆    ◇    ◆

それにしてもシナーのテニスはまさに盤石。

まずもってズベレフ相手に無理をしない。落ち着いてすべての攻撃を受け止め、じっと反撃のチャンスを伺う王者の風格が既にあると感じました。

自分のボールの威力に自信があるからなのでしょうね。

ベースライン同士のラリーを組み立てる段階でシナーはライン際にほとんどボールを打たないのです。リターンからセンター深くを狙い、自分が一発でエースを奪うことはない代わりに相手に3球目攻撃をさせない。そのことでまずイーブンな状況にしてズベレフのサービスゲームの有利さを無効化してしまいます。

そして長いラリーに持ち込みつつもライン際の際どいコースには打たず、自分のボールのスピードと威力、タイミングの速さで徐々にズベレフの余裕を奪い、最後にはシナーのボールの勢いに押されてズベレフがミスをしてしまう展開が数多く見受けられました。

しかしながらこの日のズベレフは確かに今までのズベレフとは違って、自分から勝負をかけて積極的にポイントを奪おうとする姿勢がみられました。以前は大事なポイントで「待ち」のテニスをする事が多く、そのことで相手がリズムを取り戻し、せっかく自分に傾いていた流れをみすみす相手に譲ってしまうような事もしばしば見受けられたのですが、

「今度こそグランドスラムを勝ち取るんだ。そのためには自分からもっと攻撃を仕掛ける必要がある!」

…と心を決めきったかのように迷うこと無く先手を切って攻撃を仕掛けてはいたのです。

しかしそのズベレフのものすごいハードヒットのストロークの数々をシナーは淡々と打ち返してくる。顔色ひとつ変えず、声も出さずに冷静かつ非常に速いタイミングで返球し、ズベレフの時間を徐々に奪ってくる。そしてズベレフがふっと攻撃の手を緩めた瞬間に、一気にそれまで以上の強打をしかけて主導権を握りエースを奪う。

そうするとズベレフとしては、もっと強く打って、もっと際どいコースを狙わざるを得なくなる。そしてミスを重ねる。徐々に精神的に圧迫されて、ラリーの支配権がシナーに行ってしまう…そんな展開でした。

もしもその展開に少しでも変化を与える可能性があったとすれば、ズベレフにもう少しネットプレイの選択肢ががあれば…という事かもしれません。

シナーのセンター深くを狙ってくるリターンや、セカンドサーブでポジションを下げる戦術に対して、所々でサーブ&ボレーも交える(深く打つリターンに対してはボレーがしやすい傾向もあるし、下がったポジションのリターンをするとファーストボレーもより前でしやすくなる)ことが出来たら…もう少しシナーにリターンゲームで迷いを生じさせる事ができたのかもしれない。

ベースラインに居続け徐々に威力で圧倒されてしまう展開から、サーブ&ボレーを仕掛けることでシナーに際どいコースを狙わせる事ができたり、ミスを誘うことが出来たかもしれない。もちろんそれだけで勝てるほど甘くはないですが、展開に変化を与える可能性はあったのかもしれないな、とは思いました。

しかし本来ズベレフはあまりネットプレイを得意とはしていません。この試合でもラリーの中からチャンスがあれば前に行く素振りも見せてはいましたが、そもそもラリー戦でズベレフを追い込むこと自体が難しい。だから一度ラリーになってしまえばネットに出るチャンスもかなり少なくなるわけです。

だからこそ意外な場面でサーブ&ボレーを効果的に混ぜる事ができたら…とは思いますが、プレッシャーのかかった場面で、世界最高レベルのリターナーでもあるシナー相手にそれを実行するのもまた難しいのでしょうね。

見方を変えると、世界2位の選手に対して安全策で無理せずストレート勝ち出来てしまう今のシナーのテニスを崩すのは、並大抵のことでは無いとも言えるわけです。

あの組み立て段階でのラリーにおいて、シナーのクオリティを上回るプレイヤーは今現在はいないのかもしれないですね。

だとすると一か八かの強打を1試合入れ続けるか、サービスエースをとりまくって絶対ブレイクさせないか、ギャンブル性の高い戦術をかなりの確率で成功させるしかなくなる。ならば尚のこと、年間通してそれをできる選手なんているわけもなく、シナーのランキング1位は揺るがないものとなって行くのかもしれません。

ハードコートを得意とするシナーが、今年の全仏とウインブルドンでどういう戦い方をするのかが非常に興味深い。そこで万全の状態のアルカラスとの試合を是非見てみたい。そんなふうに思います。

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