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まいばすけっとにも思い出はあると思う(短編小説)

これおいしそう。

電車でお酒の中吊り広告を見て君がつぶやいた。

一目見てほろよいが1番おいしいと宣う君にぴったりのコンセプトとヴィジュアルの広告だなと思ったので

あぁ、たしかにそうかも。と返事をしたら

なにそれ?どういうリアクション?と笑いながら軽く怒られた。

まいばすで買って帰ろー
まいばすに売ってるかな?

なんて言いながら電車を降りる。

東京のまいばすけっとの店舗数は800店舗を越えたらしい。

帰り道、ふたりでよく使っていたまいばすけっとがいつの間にかなくなっていたことを思い出し、そのことを君に伝えたらなんだかとても悲しそうな顔をしていた。

そこの通りは謎の構造で、もう一本通りを奥に行ったところにもまいばすけっとがある。

そっちでいいじゃんと、当たり前に伝えたら君はこう言った

「まいばすけっとにも思い出はあると思う」

いやいやないだろ。まいばすけっとに思い出は。

どこの店舗でも変わらないからまいばすけっとはまいばすけっとなんだろ。

結局その日は寄らずに帰った。

後日、なくなってない方のまいばすけっとに行ってみるとなぜかめちゃくちゃ混んでいて、まいばすけっとがこんなに混んでることある?とひとりで笑った。

店員さんがとても忙しそうだったけど、広告で見た商品はやっぱりなかった。

見渡せば見渡すほどまいばすけっとはまいばすけっとでまったく変わり映えがしない。

置いてあるものを吟味する訳でもなく横目に素通りしながら、ほろよいと甘いパンだけ買って川沿いぷらぷら歩くぐらいの関係値でしかないと思ってた。

前の店がつぶれたからって特になんの思い入れも感慨もない。

「まいばすけっとにも思い出はあると思う」
この言葉の意味をずっと考えてる。


いや、どう考えてもないだろ!
セブンイレブンやすき家に思い出がないようにまいばすけっとにも思い出はないだろ!

わかってたつもりだったのに彼女のことが少しわからなくなった。

広告のお酒を大きめのスーパーで買って帰ろうと思います。

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