身体と脳に効く話 どこか遠くへ行ってみる (一般財団法人郵政福祉「りんりん」第217号(2015年3月1日発行)に掲載されました。)
「子どもが暴れまわって困っている」
そんな相談がありました。
「自分を分かってくれない」とイライラする息子。
しかしその反抗期は、息子が体験した一人旅を経て、家族がお互いを思いやるきっかけへとつながったようです。
骨をポキポキ鳴らす癖
もうそこまで春が来ている頃でした。「息子が首や背中が痛いといって辛そうだ」という依頼がありました。連絡をしてきたのは40代の女性です。中学生の息子さん、K君は首や背中の骨をボキボキ鳴らす癖があるようです。さらに話を聞くと母親はK君の反抗期に悩み、「すぐに暴れて困る。男の子の子育てがわからない」とこぼします。
お宅に伺うと、争った跡でしょうか、壁のあちこちに傷があります。居間で待っていると奥から母親とK君のやり取りが聞こえます。そしてドアを強く閉める音。やがてK君だけがやってきました。「こんにちは」と言う顔つきは幼さが残っていて、暴れる姿が想像できないくらいです。
「首や背中が痛いって聞いたんだけど。ボキボキ鳴らすとスッキリする?」
「そうですね。でも身体に悪いような気はしています。」
K君はうつむいてしまいました。3分ほど沈黙が続いたあと、突然フッと顔をあげ、まっすぐに私を見て言います。
「ストレスで首や背中をボキボキ鳴らさないと気が済まなくなったんです。毎日イライラして苦しいんです…」
母親が過干渉で束縛されていること、父親がいかに子どもに無関心か、たまっていた思いを吐き出すように、一気に話し出しました。特に家族での食事中は勉強から部活動、はては学校での人間関係に至るまで「自分のすべてを批判される」そうです。
そのストレスは友人に向かいました。親友に対して心にもないことを言ってしまい、無視されているそうです。確かに両親からとはいえ批判ばかりされていたら、誰かを批判したくなるでしょう。自分の価値を認めることが難しくなり、だからこそ他人の価値も認めたくない。その結果、親友でさえこき下ろしてしまう。
「旅に出る」という決断
こういう時は、つい辛そうな子どもの肩を持ちたくなるものです。しかし私は黙って聞いていました。では母親はどんな気持ちでK君に接しているのか。K君にとって父親はどんな存在なのか。そもそもK君はストレスを晴らす努力をしているのか ー 様々なことに思いを巡らせます。
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