見出し画像

『ネット・プロモーター経営』ー顧客の本音を聞くための究極の質問

買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その16冊目。

SaaS事業を成功させるには、プロダクトを継続して使ってもらうためのマーケティングと、育てていくためのカスタマーサクセスが重要です。

そのマーケティングもカスタマーサクセスも、まずは「顧客の声を聞く」ことからスタートするわけですが、これが当たり前にやっていることのようでいて、実は相当難しい。具体的にどのタイミングで、どのような質問をすればうまく顧客の本音を引き出せるのか、誰も教えてくれないからです。

実は、その方法をクリアに教えてくれる本があります。それが本書『ネット・プロモーター経営』です。

本書の原題は、”Ultimate Question 2.0(究極の質問2.0)”。NPS=ネット・プロモーター・スコア)と呼ばれる、顧客のロイヤルティを計測するための顧客の本音を引き出す究極の質問とスコアリングの手法論について述べた本です。

0(ゼロ)〜10点で採点させる

その「究極の質問」とは、

Q1:「0〜10点で表すとして、この企業(あるいは、この製品、サービス、ブランド)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?」
Q2:「そのスコアをつけた主な理由はなんですか?」

この2つだけを聞き、

9または10点を付けた人=推奨者(プロモーター)の割合から
6点以下を付けた人=批判者(デトラクター)の割合を
引き算(ネット)する

という、単純明快なもの。

画像2

何より優れているのは、よくある1〜5点満点で行う満足度アンケートとは違い、「まあまあ満足」程度の中庸な意見や感想を排除できるという点です。5点満点法では反射的に「4・5」を付ける人も、よっぽどサービスに感動体験を覚えなければ「9・10」は付けないでしょう。

そして、そこから批判者の割合とネット、つまり相殺してスコアを求める点も非常に特徴的です。この点について、著者らはこう述べています。

私たちは、もっと単純に考えて、推奨者の比率だけを測定することもかなり検討した。しかし、以降の章で見ていくように、成長を目指す企業は推奨者の割合 を増やすだけでなく、批判者の割合を減らさなくてはならない。これらは、2つの異なるプロセスであり、それぞれ別に管理されるべきものである。たとえば、小売、銀行、航空会社などの企業は、ターゲットとする重点顧客に加えて、多種多様な顧客にもサービスを提供しなくてはならない。そうした非重点顧客の否定的な口コミは、ほかの口コミと同じくらい破壊的な力を持つので、防いでいく必要がある。一方で、非重点顧客を「喜ばせる」ための投資をしても、それほど経済的な見返りは無いかもしれない。このようにNPSは、顧客管理の最適化のために必要な情報をもたらしてくれるのである。

さらに細かな点で大切なこと。それは「0(ゼロ)」というスコアを設けているところです。これにより、「1」が一番Goodなスコアだと勘違いする採点者をほぼゼロにできるという、重要な効果があります。

NPSを徹底しリテールストアを伸ばしたApple

日本でこのNPSを導入した企業として、消費者としての私たちにとっても身近な存在と言えば、Appleのリテールストアでしょう。

画像1

Appleの製品やサービスを購入した後に「担当者○○の対応はいかがでしたか」から始まるアンケートが送信されてきた覚えがある方は、少なくないと思います。

スクリーンショット 2019-12-08 7.48.53

あのAppleの熱狂的な「信者」たちの口コミのパワーを、マーケティングとカスタマーサクセスに生かしたエッセンスは、このNPSにあったと言っても過言ではありません。

最近になってNPSをブーストしだしたLinkedIn

この本自体、米国の初版が2006年、改訂版が2011年ということで、NPS自体がもはや古い手法なのではないかとお感じの方もいらっしゃるかもしれません。確かに、本書が取り上げるAppleも、もはや使い古された事例です。

ところが、最近になってまたNPSが見直されはじめている気配があります。特にそれをブーストしていると思われるのがLinkedInです。

スクリーンショット 2019-12-08 7.57.59

ご覧のとおり、教科書どおりのNPSです。

企業の情報システムのSaaS化が本格化する中、日本企業にSaaSを取り入れさせるマーケティング手法が注目されたこの2019年。迎える2020年の話題の中心は、契約を更新・維持するために重要となる顧客満足度の確認の方法や、解約防止のための不満抽出の方法論が話題へと移っていくことが予想されます。

SaaSの本場米国とは違い、本音をなかなか表現することのない国民性が特徴でもあるここ日本において、顧客の声を聞き出す手法の引き出しは数多く持っておくに越したことはありません。


いいなと思ったら応援しよう!

仕事の道具note
サポートをご検討くださるなんて、神様のような方ですね…。