趣味について
「趣味はなんですか」
誰かから聞かれてずっと困る質問でした。
基本的に、ライブ現場以外は楽器屋レコード屋古着屋本屋があれば全世界どこでも機嫌良く生きていける、本当に趣味がないのでどうしたらいいもんかと。
一時期はレコード収集(でもこれもDJで使うから)、ビンテージのメガネに凝ったり(これも日常で使うから)、本を読み返したり(文章を書くのも仕事のうちだから)、バンドマン時代にはビンテージドラムを収集していたけど、27歳の時に「バンドやめた!」ってなってしまった時に全部処分してしまったビンテージドラムをまた集めたり(って言ってもそもそも楽器店ドラムフロアー店員だったから…)
ある意味ありがたいことに非常に幸せに暮らしてはいるのですが、みーんな趣味ありますよね。サッカー観戦が好きだとか、麻雀、スキー、サーフィン。
ある日、横浜7th AvenueでDJをする事になって、ちょっと間があったので、近所のコンビニに買い出しに出たら、隣にある横浜スタジアムから大歓声が聞こえてきたんですよ。
野球。小学生の頃、どうしてかわからないけど、地元横浜の大洋ホエールズが好きでした。その当時、大洋は最弱。いつも5位か最下位。地元っていうのもあるんですが、横浜の小学生の中でも大洋ファンっていうのは実に異端で、みんな巨人ファンばかりでした。実はたまたま、同じマンションに当時の大洋のスラッガーが住んでおりまして、サインを無理矢理ねだったり、夜、ちょっとうとうとした頃に「ボボボボ」って物凄い外車の音で目が覚め、「ああ、試合が終わって帰ってきたんだ」とまた眠りに落ちる、そんな小学校時代でした。
一応自分でも地元少年野球チームに入団して、やるにはやったんですが、それほど才能もなく(アスリートの才能あるやつっていうのは圧倒的なんですよね、そんでもそのチームからプロになったやつはいない、っていう…)ちょこちょこ親に連れていってもらったり、友達と一緒に横浜スタジアムの外野席に行って煙草のケムリとおっさんのヤジと、ビールの匂い、シューマイ弁当売りのバイト君のかけ声、ブーテキ(正式な楽器名的にはカズーですよねあれ)、そして当たり前のように負ける試合、帰り道の市庁前バス停に向かう時、Y字型の照明に向かって「バカヤロー!」と叫んで泣くという、もうなんていうか、だったら巨人ファンになった方が良かったんじゃね?っていう…なんていうか、ガンズだったらハノイロックスっていうか、ピストルズじゃなくてニューヨークドールズ大好きっていうか……ちょっと違うけど。どっちも好きだけど。ただ「多勢にアンチしたくなる病」っていうのは小学生で発病してた気もします。
いつしか横浜スタジアムには足を運ばなくなりました。というか、野球じゃなくなりました。ロックが来た。ロック黒船来襲。ビートルズが来た!12歳で鮮烈なビートルズ旋風を20年ぐらい遅れで体感、ドラムとギターとバンドしか周りになくなりました。伝説の98年、横浜が優勝した時はなんとバンド車で横浜の選手が出てくる瞬間に出くわしましたが(スタジアムのぐるりを人が取り囲んでお祭り騒ぎ、大渋滞だった)「へえ、優勝したんだ」ってな感じで。
そんな横浜スタジアム。高校生バンドコンテスト「ホットウェーブ」でしかその後訪れなかった横浜スタジアム。行ってみるか。
折しも、「横浜大洋ホエールズ時代のユニフォーム復刻!」っていう企画があるらしく、「これは欲しい!」あの、田代が、山下が、高木豊が、長崎、屋敷、遠藤が平松が、斎藤明夫が着てたYOKOHAMAのユニフォーム。親戚のおっさんに(名古屋在住中日ファン)「横浜はユニフォーム格好いいのに弱いのお」と言われ悔しい思いをしたあのユニフォーム。
GWに無理矢理内野立ち見のチケットを入手、行きました。例によって負け。なんでや。でも横浜ユニフォームは買えた。つうか、自宅からスタジアム近い。むっちゃ近い。子供の頃はたいそうな距離な気がしてたけど、行ってみたら近いよな。そりゃそうだよな、7thやFAD、関内ユニオン近いもん。
翌日。また見に行った。昨日負けたから。梶谷という外野手が1軍に戻ってきたらしい。いきなりホームスチール!勝った!すげえ、勝ったぞ!
横浜スタジアムには、おっさんの口汚いヤジも、煙草のケムリもビクトロンもなく(通路や座席の狭さは相変わらずだが)、新たなファンたちが連日詰めかけていました。大洋ホエールズを知らない人達が。まさか横浜スタジアムでメタリカが流れると思わなかったし。
以降。
2016年はいいシーズンでした。時間を無理矢理見つけては横浜スタジアムに行き、CSが決まる試合も雨の中見て、隣のあんちゃんと「東京ドームで会いましょう!」と激励しあい、敵地東京ドームで迎えた初CS、1st突破の試合もはせ参じ、試合が決まった瞬間、座席が近かったおそらく大洋時代からの古参ファンのおじさんとお互い号泣しながら抱き合い喜ぶというていたらく。おじさん、ずっとオレがいない間も応援してたんだね。よかったね。
2017年はまさかの日本シリーズまで到達。「ハマスタ(いまだにこの呼び名がしっくり来ないので、「横浜スタジアム」「スタジアム」って呼んでます)で日本シリーズを!」という悲願が達成され、日本シリーズをスタジアムで体感する事が出来ました。
筒香のホームラン。「バキャッ!」って球場に鳴り響く打撃音と共にスーッと放物線が夜空に描かれて外野スタンドに吸い込まれて行く瞬間。内野の前の方からどんどん打球に導かれるように人が座席から立ち上がっていき、入った瞬間の大歓声。知らないおっさん、隣のOLさん、家族連れ、みんなで大喜び。夢のある子供たちの想いを乗せて、オレみたいなオッサンたちの想いを乗せて、横浜の空高く。
常勝チームは嫌いだ。そうじゃなくて、それぞれが個性があって、良いところもダメなところもあって、時には腹が立って仕方ない試合をして、時にはこいつら本当にカッコいいよ!え、野球史初じゃないの?って奇跡を起こして、すったもんだしながらシーズンを勝ち抜いていく姿。それはどこか、自分の人生に似ているのかも知れない。
やっと趣味ができました、これからは胸を張って言えると思います。
今年も頑張れ、DeNA 横浜BAYSTARS。