文章を書くということ・2
そのバンドを辞めた。
辞める直前に、今はもうなくなってしまったメジャー資本のレーベルからリリースの話があり、そのレコーディングを済ませて、ライブを何本かやってから辞める事になった。やっていたバンドと合わなくなった、というより、ドラムなんて半分見たくもなくなった。野球選手でいう「イップス」みたいな状態だ。そこまででも10年ぐらいやっていたし、音楽を演奏するという事は幼少期からやっていた事だから、半分見たくもないんだけど、もう半分は生気を失ったまま演奏自体も楽しくなくなってしまっていた。数年が経って、演奏自体を辞めた方がいいと思い始めていた。
ある日、辞めたバンドのメンバーから電話があった。バンド自体は存続していて、オレがドラム仲間に電話して引き継いだドラマーが在籍していた。話はドンドン大きくなり、メジャーのレーベルと契約して、すでに超有名になっていたバンドのディレクターが専属でディレクションするという話までになっていた。「なんかさ、林が昔作ったオレたちの資料あったじゃん、覚えてる?」「あったね」「あれ見たディレクターがさ、これ面白いね、誰が書いたの?って言ってて」「これ、最初にいた林くんが作ったんですよ、って言ったらさ、『林くん、ライターの才能あるんじゃない?』って言ってたよ」
本当か嘘か知らないし、ひょっとしたらメンバーが気を遣ってデッチ上げてくれた事なのかも知れない。実際にそのディレクターさんとお目にかかって言葉を交わした事もあるんだけど、好みの音楽の話だけで、一切その話は出なかったのだけど──のちのちに、お仕事も頂いたりしたので本当だったのかな──自信を全て失った状態の自分には光が見える言葉だった。
そっか、文章を書く才能があるのか。へえ。気がつかなかったな、そう言えば昔、ライブハウスのコラムに何か書いてみんな面白がってた事もあったし、ミニコミの取材が入った時もあんまりにもインタビュー原稿がメチャクチャだったからほぼ書き直して送りつけたこともあった、そっか、才能あるんだ、知らなかった。あまりに単純すぎるが、それを信じ込むぐらいしかその時は希望がなかったのだ。
続く