昔していた研究の話を少し - レーザ・電磁加速複合型プラズマ推進機 -

どんどん記憶がうすれていきそうなので、大学生のころの研究の話を少し。

毎回、知らない人に説明するのが苦労していたので、できるだけわかりやすく書きたいと思います。わかりやすく書くと言いながらおそらく雑多な文章です。

キーワードは

人工衛星、電気推進、プラズマ・レーザー推進

といったところです。

電気推進

地上の車だったら、ガソリンとエンジンで前に進みます。

ロケットは例えば水素と酸素を燃焼させて飛んでいきます。これを「化学推進」と言います。

人工衛星が前に進んだり姿勢を変えたりする方法の一つに、電気的に、電磁気学的に加速させる電気推進があります。

よく例にだされるのは小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン、これが電気推進の1つです。推進剤のキセノンガスをマイクロ波でプラズマ化してそのイオンを電場で加速させ推進力を得ます。地上ではコインのような小さなものですら動かすことは難しいですが、宇宙ような真空では累積で大きな推進力を得ることができます。

ただし電気推進には様々な手法があります。
私の研究していた推進方法は、レーザ・電磁加速複合型プラズマ推進機と名乗っていました。なんだかかっこいい名前ですね。

プラズマってなんじゃらほい?

小学生の理科では物質の状態として

固体、液体、気体

の3つを習います。が、本当は4つ目の状態があってそれがプラズマです。

固体、液体、気体、プラズマ

プラズマは気体分子のイオンと電子がばらばらになっている状態です。
これを推進方法に利用します。

プラズマとレザーとローレンツ力で遠くに行こう

レーザ・電磁加速複合型プラズマ推進機の推進器部分をとりだしてみてみるとシンプルです。

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2枚の電極の間に推進剤がはさまれている
(実際は推進剤の後ろにコンデンサなどの電気回路とつながっている)

研究していたレーザ・電磁加速複合型プラズマ推進機が、はやぶさのイオンエンジンと異なるのは、推進剤にガスではなくテフロンなどの樹脂をつかい、その表面に高出力のレーザーをあてて樹脂をプラズマ化します。

その後、電極間に高電圧(~5000V)をかけます。そうすると、プラズマを介して電極間で短絡がおこり放電電流が発生します。

そして、その周りに誘起磁場が発生して、放電電流と誘起磁場によるローレンツ力電磁気学的にプラズマ化したイオンを後方に加速させます。

スクリーンショット 2020-09-22 8.15.39

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発光

一瞬のプラズマ発光をとらえると綺麗

上記に複雑なことをつらつら述べているようですが、自動車のエンジンに比べたらとてもシンプルです。原理としてはこれだけです。

レーザーで推進剤をプラズマ化 → イオンをローレンツ力で加速

ざっくりした研究内容

この仕組みを応用して、より推進力を増大できるように工夫したり、加速特性や物理現象の解明のため実験したりするのが研究内容でした。

写真はのせられないですが、実際に実験で使っていた推進器はなんだか推進器っぽくてかっこいいです。

研究のエトセトラ

研究の小話を述べるとするならこんなところです。

・真空状態で実験をする必要があるので、機材(真空チャンバーやレーザーなど)の値段が100〜1000万円単位。

・真空状態をつくりだすのに半日かかる。朝から真空チャンバーの空気を抜き出して、夕方ごろに目標の真空度に達する。これは課金して良い実験機器を手に入れれば短縮可能。

・レーザーが日常生活でお目にかかることがないほど高出力、直視しようものなら、即失明。

・数千Vの高電圧を扱うので、感電のリスクに満ち溢れている。

真空チャンバー

上記が真空チャンバーです。
円筒形な形をしていました。写真の右側面が扉になっていて、そこから実験機器をいれてポンプで空気を抜きます。

画像5

レーザーは上記を使用していました。
レーザーの発振器以外にも水冷装置が台の下にあります。
このレーザーがよく調子をくずしていたので、修理に1ヶ月かかり費用もかかりよく泣かされました。

IoT実験機器

実験機器はお金がかかります。
が、ちょっとした実験機器は自作するというのは研究室あるあるですよね、きっと。

おわりに

プラズマ・レーザー推進器の基礎研究に携わっていましたが、かなり地道な実験の繰り返しでした。実験で得たデータをどう活かすのか、どう分析するのか、そういったところが難しかったように回想します。

そういった物理現象を考察するためにプラズマ物理学といった理学的視点とより良い推進器や実験機器の仕組みを工夫するための工学的視点、そのどちらも必要でした。

実用化への課題では、レーザーや推進器の小型化といった多々あります。
私的な工学的視点からみると、「目の前にある技術を実用化させてなんぼのもんじゃい」と思えましたが、基礎研究的・理学的視点からみると「現象を理解すればええやん」のように思えました。

その感情のギャップがどうにもこうにも埋められもやもやしていました。
このもやもやのチリが積もればなんとやらで、この研究から離れようと考えるようになった理由だと思います。

雑多に思い出したことを書いていたら、あまりまとまらなくなったので、これで書き終わろうと思います。





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