作品は生み出すものではなく、生まれてくるもの

思い描いた瞬間からその作品には生命が宿る。魂といったらいいのか、感情といったらいいのか、意識といったらいいのか、その人によって言葉は変わるかもしれないけれども、そういうものが宿ると思うのである。

そして、生まれたいという思いの強いものはやっぱり世の中に生まれてくるのである。それはもう作者がどうこうというものではなく、そのもの自体が生まれたいという意思を持っているのではないかと思う時がある。

作者はそれが生まれるのを助けるだけである。それは、人間が女性の体から生まれてくることに似ているのではないかと思う。その女性が生むのではなく、その女性の体を借りて「生まれてくる」のだ。

もちろん、お蔵入りになってしまっている作品、アイディアだけで何も進んでいない作品、途中まで書いて放置されている作品、たくさんの作品がある。それらにも大なり小なりたしかに生命は宿っているのかもしれないけれども、生まれる前に生命が失われてしまうものもある。
それもまた、生命というものなのかもしれない。

小説を書いていると、だんだんとその小説に出てくる人物たちに感情移入してしまうことがある。そこにいる人たちがとても愛おしくなってくるのだ。だから、たとえ、本の中の架空の人物であっても、世の中に出てきて欲しいな、生まれて欲しいなと思うのである。
そして、そういった作品がやっぱり完成するものになるのである。

何かを生みだそうと力んでもなかなか生みだすことはできない。それは、人間の子どももそうで、セックスをしたからと言って必ず子どもができるとは限らないし、こちらがどんなに頑張っても生まれてくるかどうかはその子どもにかかっている。

でも、宿った生命に対しては、生まれてくることを助けることはできるし、そもそも生命力が強いものはもうほとんど勝手に生まれてくるといっても過言ではないのではないだろうか。

作品をつくっているとそういうことを感じることがある。僕という媒体を通して、それは生まれようとしているのだ。僕はただ、僕という器を貸して、それが生まれてくることをお手伝いするだけ。
時々そんなことを思うことがある。

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