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かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.3
『かみさまがくれた休日シリーズ』の世界を舞台にした短い短い島人の物語。
(登場人物)
・僕・・・(役場の職員)
・アイ・・・ホテルろんぐばけーしょんのオーナーさんとおかみさんの娘さん
「こんにちは」
「アイちゃんは今日も海?」と僕はアイちゃんに聞く。
「うん。今日も海。今日はね。イルカさんがやってくるの」
「へー。そっか。それは楽しそうだね」
「うん。やっぱりイルカさんと遊ぶのは楽しいよ」と言って、彼女はビーチの方へ向かって歩いていく。
この島には海水浴場というものはない。そもそも観光客が楽しむような人が集まるような場所がない小さな小さな島である。
ただ、ところどころに自然にできたビーチがあって、白い砂浜が数十メートル、数百メートルある場所もある。
アイちゃんはいつもビーチで遊んでいる。彼女はまるで魚のように泳ぐ。だれに教わったわけでもなく、その泳法を覚えたのだ。
昔、「どうやって覚えたの?」と質問したことがあったが、
「魚さんが教えてくれた」と普通に答える。そんな子どもである。
そして、彼女には動物のしゃべっている言葉がわかるのか、イルカたちとしゃべっているように見えることがある。心を通わせていることはたしかだろう。イルカと一緒に遊んでいることも多い。それはただ慣れているというだけでは説明ができないのではないかと思う。
時々「あ、イルカさんが鳴いている」と、僕ら大人たちには全く聞こえない音を拾ったりするのである。それはただ耳がいいというだけではなく、彼らの言語というか、何か通信を拾っているのではないかと思える時が多々あるのである。
アイちゃんはとてもとてもやさしい子である。ちょっとやんちゃだけど、とても素直でいい子なのだ。島のみんなからも愛されている。本当に名前通りの子なのである。
今日の巡回の終えて(僕の仕事は雑務ばかりで、役場で待っているよりも相手の家に行ってしまった方が早いことも多いので、家を回っていることが多い)、アイちゃんのことを思い出してビーチの方へ行く。
海では水飛沫が上がっている。よく見るとイルカがいる。そして、アイちゃんも時々海の中から顔を出している。いつか自分もあんなふうに泳げるようになったらいいなと思うが、僕は全然うまく泳げない。
眺めていると、アイちゃんが僕に気がついて陸の方へ上がってくる。
「まだ泳いでいたんだね」
「うん」
「楽しそうだね。いいなー」
「泳いだらいいのに」
「でも、うまく泳げないんだよね」
「じゃあ、イルカに捕まったら?」
「え?」
そう言って、アイちゃんは僕の腕を掴んで海の方へ引っ張っていく。僕は普通の格好だったので、「ちょ、ちょっと待って」と言いながら、どんどんと服を脱ぎ捨てていく。ズボンを脱ぐわけにはと思ったが、ズボンを履いたまま泳げるとは思えなくて、考えていたところ、
「大丈夫」と言われて、そのまま引っ張って水の中へ入っていく。
もう、服はびしょびしょになってしまっている。まあ、洗濯すればいいので、それはいいのだが、本当に大丈夫だろうかと不安になる。
「おいでー」とアイちゃんが言うとイルカたちが近くまでやってくる。
僕もこの島にいながらもなかなかこんな間近でイルカを見る機会というのはない。
「じゃあ、行こう」と言ってアイちゃんは潜ってしまう。
僕はどうすればいいのかわからなかったがとりあえず、その場に潜ることにする。
そうするともう目の前にはイルカがいて驚いた。
イルカがこっちへ来いと言っているのか、僕を誘っているのがわかる。
言葉も音も聞こえないのに不思議なものである。
僕はイルカの方へ向かっていく。うまくは泳げないのでとりあえず手足をバタバタさせてみる。
イルカが違う違うという感じに首を振っているように見える。そして、こうだよ、というようにまた泳いで見せる。そんなことをなんどか繰り返していると、いつの間にか自分の足がつかないところまできていることにきがついてちょっとパニックになる。
「そろそろ息が……」と水面に上がって息を吸おうとするが、顔は出せたものの、うまく顔を出し続けることができてなく、水を飲んでしまう。なんとかある程度空気を吸ってまた潜るが十分に空気が吸い込めていないので、これはまずいと思って、陸の方へ引き返すことにする。
しかし、イルカがそっちじゃないよ、という感じで、僕の目の前に現れて邪魔をする。どけてくれ、と思うが、イルカはだめだめという感じで首を振り、そこに立ちはだかる。そして、僕が息がそろそろ続かなくなることがわかると、イルカはまず自分が海の上へ顔を出し始める。
後ろのヒレだけで、顔を出している。きっとこういう風にしろということなのだろう。でも、僕には2本の足があって、そんなに器用に振ることはできないと思うがが、それでも、息が苦しかったので必死に真似をする。
もちろん、真似をしたところでうまくいくわけもなく、またなんとか苦し紛れに空気を吸い込んでまた海の中へ入る。本当にそろそろやばいと思って陸に戻ろうとするが、イルカはまた邪魔をする。
なんてスパルタなイルカなんだと思うが、イルカとしてはただ遊んでいるというだけなのだろう。僕はもう一度海の上へ顔を出すことにする。イルカがそれを察知してまた先にそれを実践する。
もうとにかくやらないと息がもたないということで、必死で足をバタバタさせると、今度はその足にイルカが突撃してくる。なんだ、と思うが、きっと足のバタバタさせかたが悪いのだろう。なんどかぶつかってきて、そのあと、ぶつかってこなくなった時には、もう自分はずっと海の上に顔を出すことができていた。
それほど必死にバタバタさせるわけでもなく、ちゃんとうまく足をかくことができれば、こんなにも浮いていられるのかと僕は驚く。
それを覚えたあとはある程度余裕ができてきたので、今度はイルカの真似をしながら泳いでみるのであった。でも、あまりにも下手くそだったせいか、またイルカに体当たりされる。本当にこのイルカはスパルタだと思う。
そろそろもう体力の方が限界だと思って、頼むから陸へ戻らせてくれと願ってそっちを向くともうイルカは邪魔をすることはなく、振り返ってみるとバイバイと言っているのか、手を振っているような感じでヒレを振っていた。
僕は安心してようやく陸へ上がる。もうその頃にはかなりへとへとになっていた。
アイちゃんも陸へ上がってきて、イルカに手を振っていた。
「泳げるようになったね」とアイちゃんが言う。
「結局引っ張ってくれなかったね。なんだかなんども体当たりされたよ」
「うん。あまりにも下手くそなので、つかまれたら大変だったから、違う方法にしたんだって」
「そ、そうなんだ。でも、おかげで少しは泳ぎがうまくなったような気がするよ」
「うん。また一緒に練習しようね」
「うん。ありがとう。またよろしく」と言って、その日は二人はそれぞれの家に帰った。
また、後日、巡回の途中でアイちゃんと出会う。
「こんにちは」
「またビーチかい」
「うん。今日も」
「この前の続きやろうかな」
「うん。やろうやろう」とアイちゃんが喜ぶので、その日も仕事が終わったあとにそのままビーチへいく。
今日もまた先生を呼んであるからとアイちゃんが言って、海に入っていく。
僕もまた服を脱いで海へ入っていく。
またイルカに会えるのかと楽しみに思っていたら、目の前にはサメがいた。
別にすべてのサメが人を襲うわけではないのであるが、さすがに慣れていないとサメは怖い。
引き返そうかと思ったが、相手は睨みをきかせている。
僕は心の中で、今日はあなたが先生ですか?と問いかける。
相手はイエスと言ったのか、首を縦に降る。
そのあと相手はぐるぐると僕の周りを周りはじめる。早く泳いでみろと言っているようだ。
僕は恐る恐る泳ぎ始める。
あまりにも緊張して変な泳ぎ方になったからか、近くにきて、「こうだ!」みたいな感じで手本を見せる。
お願いだから僕は近くにこないで欲しいと思って、必死にその真似をする。
しかし、また近くまでやってきて、それを修正しようとする。
その日を境に僕はかなり泳げるようになったが。もうあまり海で泳ぐことはなかった。
「こんにちは」
「こんにちは。今日もビーチへいくの?」
「一緒にいく? 今日はお魚さんがきてるよ」
「いや、今日はやめておくよ。あはは。魚さんによろしく」
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