かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.13

「かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.13」
短編小説『かみさまがくれた休日シリーズ』の世界を舞台にした短い短い島人たちの不思議な物語。

「店長さんは忙しい？」

（登場人物）
・私・・・本島からやってきた看護師
・店長・・・島で食堂をやっている店長

「こんにちは」と言って、ガラガラとお店のドアを開く。
でも、そこには誰もいない。
と思ったら、小上がりの方に片腕をダラッと伸ばして倒れている人がいる。

「大丈夫ですか？」と私は駆け寄る。
揺すっても反応がない。
脈を取る。
正常だ・・・。

よーく耳を澄ますと、寝息が聞こえる。
「もう、店長ったら・・・」と私は呆れる。

店長の料理はとても美味しいが、たまにこういう感じの時がある。
こういう感じというのは、朝、食材調達のために釣りに行くのであるが、
そのあとに昼寝してしまって、昼ごはんまでにお店が準備できなかったり、
そういうことがたびたびあるのだ。

「あれ、ここはどこ？」と店長が起きる。
「ここはあなたの店ですよ」と私が答える。
「ああ、ほんとだ」と寝そべったまま、あたりを見渡して確認する。
「今日はランチはお休みですか？」
「ああ、もうそんな時間か。何食べる？」と聞きながら、店長は体を起こす。
まだ、体がだるそうだ。

「こんにちは」とおばあさんたちが入ってくる。
「おう」と言っておじいさんたちが入ってくる。
みんなお昼ご飯を食べに食堂にやってきたのだ。

「なんだか暗いな。また寝てたのか？」とおじいさんが言う。
「ああ、すみません。準備しますね」と店長が言って、ようやくちゃんと起き出してキッチンの方へ向かう。

その後も続々と人が現れる。
でも、みんな店長の準備が遅れていることを見ると、勝手に水をついだり、ビールをついだり、冷蔵庫から惣菜を出したりし始める。

私も「しょうがないなー」と言いながら、キッチンに入って、店長の手伝いをし始める。

店長はエプロンをして、そして頭にタオルを巻いて汗をかきながら真剣に料理を作っている。
この瞬間だけは、店長はやっぱり料理人なんだ、という印象を受ける。

でも、ちゃんと準備していれば、そんなに忙しくなることはないのに、店長はのんびりとしている。この島の影響だろうか。
もともとは本島の方では有名なシェフだったらしい。
そういう噂を聞いたことがある。
料理はたしかに美味しいのだ。

でも、こうやって”わざと”準備を遅らせて、みんなに手伝ってもらいながら料理を提供する店長は忙しそうだけれども、楽しそうにも見える。

ほとんどの料理の段取りはすでにできているのである。でも、わざと忙しそうにして、みんなに手伝ってもらっているのだ。この島ではそういう塩梅がきっといいのだろう。

ついつい私も手伝ってしまうのだけど、でも、それがなんだか、楽しいし、それがなんだか当たり前な気がするのだ。

あっという間にパパっと料理を出して、私も手伝いを終えて、島そばをもらう。
「手伝ってもらっちゃってごめんね」といつもの言い訳を言う。
私も「ちゃんと昼寝するときは目覚ましかけておいた方がいいですよ」といつもと同じことを言う。
そんな鉄板ネタのコントのような、でも本人たちにしかわからないようなネタを披露するのである。

それがなんだか心地よい。
それがなんだか楽しいのだ。

そして、手伝った後に食べる店長の料理はやっぱり最高なのである。
「美味しいです」
「ありがとう」

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