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かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.12
「かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.12」
短編小説『かみさまがくれた休日シリーズ』の世界を舞台にした短い短い島人たちの不思議な物語。
「私とアオくん」
(登場人物)
・私・・・本島からやってきた看護師
・アオ・・・ホテルろんぐばけーしょんのオーナーさんとおかみさんの子ども
アオくんはちょっとミステリアスな男の子だ。
アイちゃんのお兄ちゃんでしっかりもの。
自分の体よりも大きなクーラーボックスを抱えて釣りにいく。
なかなか時間が合わないので一緒に釣りに行ったことはないのだけど、
時々大きな魚を釣ってくるらしい。
あの小さな体のどこにそんなパワーが眠っているのだろうか、
と思ってしまう。
アオくんは、島そばが好きだ。島で唯一の食堂では、よく島そばを食べているところを目撃する。
というか、それ以外のものを注文していることは見たことがない。
そんなによくしゃべるわけでもなく、
そんなに活発というイメージでもないけど、
よく周りのことを観察していると思う。
時々、私のいる診療所にふらっとやってくることがある。
「どうしたの?」と聞くと、
「◯◯のおばあがなんか元気がなかったんだよね。病気ではないと思うんだけど」
「ふーん、どんな感じ?」
「ちょっとふらふらしているような気がした」
「うーん。ちょっとそれは怖いわね。あとで私見てくるわ」
「うん。それがいいと思う」
それだけ言ってアオは出ていってしまう。
私は、そのおばあのところへ行く。
そうすると、たしかにちょっと様子がおかしかった。
でも、島の人たちは本当に元気で、なかなか病気になるという人は少ない。
聞いてみると、朝からずっと炎天下の中畑仕事をしていたらしい。
「それはきっと脱水症状ですね」と私が言うと、
「そーけー、そーけー。畑仕事に夢中になりすぎてしもうたね」
とおばあさんは笑顔で答える。
そして、ぐいっと冷たい麦茶を飲む。
「これで安心さー」と言って、また畑仕事を再開しようとする。
「いや、今日はゆっくり休んだ方がいいですよ」
「そうかね? じゃあ、今日はゆっくり休もうかね。ありがとう」とまた笑う。
島の人たちはとても素直な人たちだ。
私の言うことをちゃんと聞いてくれる。
でも、このあと私が帰ったらやっぱりまた畑仕事を再開するのだろうけれども、
それは知らないふりをする。
あるとき、またアオくんがやってくる。
「この前はありがとね。おばあさん脱水症状だったわ」
「そうでしょ。変だと思ったんだ」
「今日はどうしたの?」
「◯◯のおじいがなんだかおかしいんだ」
「おかしいってどんな感じ?」
「うーん。顔が赤いんだ」
「お酒の飲み過ぎとかではなく?」と私は冗談を言う。
その人はお酒飲みのおじいさんだったからだ。
「えー、そんなこと言っていいの? おじいに言っておくよ」
「え、うそ、うそ、冗談よ」と私は言う。
「そんな冗談いっちゃダメだよ」とアオはちょっと意地悪に言う。
私はアオくんにからかわれているのだ。それもなんだか愛らしい。
「そうよね。ごめんなさい。あとで見てくるわ」
「うん。よろしくね」
そう言って、アオくんは行ってしまう。
私は、そのおじいのところへ行く。
もう夕方で、日も落ちてきている。
「こんにちはー」と言って勝手に玄関に入っていく。
この島では、もうこれが当たり前なのである。
「おう、おう。いらっしゃい」
「体調は大丈夫?」
「体調? はて、さてなんのことやら?」
「元気そうね。アオくんがうちに来て、おじいが顔が赤いって」
「ああ、朝から飲んでいたからかのう」わっはっは。と元気な声で笑う。
様子を見るからには大丈夫そうだ、と私は思った。
「さあ、中に入りなさい」
「いや、でも、大丈夫そうなら、私はこれで…」と言うが、
「いいから、いいから」と言って、もうおじいは先に居間の方へ向かっていってしまうので、しょうがなく、私も中に入る。
そして、居間の中へ入ると、
「パン、パン」と音がなる。
「え、何!?」と私は驚くが、よくみるとたくさんの人たちが集まっている。
手にはクラッカーを持っている。
「え、みんなどうしたの?」
「誕生日おめでとう」
「え、もしかしてサプライズ?」
「そうじゃ、そうじゃ、さぷらいずじゃ」とおばあが言う。
そして、その中でアオくんが笑っている。
「アオがお祝いをしようと言ったのじゃ」とおじいが言う。
「そうなのね。アオくんありがとう」と私が言うと、
アオは「大成功だったね」と言いながらもどこかとても照れている。
そのあとはいつもの宴会となる。私の誕生日お祝いということだったけど、村からたくさんの人たちが集まって、もうなんのお祝いなのか、宴なのかわからない宴会となる。
でも、それでいいと思うし、私はそっちの方がいい。
アオくんが縁側のところに座っているので、そっちへ行く。
「今日はありがとうね」
「いや、別に…」と照れている様子である。
頭を撫でてあげると、無言でさらに恥ずかしそうにする。
男の子は可愛いなと私は思う。
きっとこの子は大人になったらきっとかっこよくなるんだろうな、なんて思いながら。
そんなことを思うと、ああ、私もおばさんね、と思っておかしくなるけど、
「そんなことはないよ」とアオがボソッと言う。
「え?」
「お姉ちゃんはきれいだよ」と照れながら小声でいう。
「ありがとう」
<短編小説「かみさまがくれた休日シリーズ」>
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