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かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.4
『かみさまがくれた休日シリーズ』の世界を舞台にした短い短い島人の物語。
(登場人物)
・僕・・・役場の職員
・店長・・・島の食堂の店長
「こんにちは」
ガラガラと横開きのドアを開ける。
しかし、建物の中には誰もいなかった。
ここはこの島で数少ない飲食店のひとつである。というか、もう飲食店と呼べるのは島にはここしかないと言っても過言ではない。あとはちょっとしたスナック的なものがあるくらいで、本格的な食事ができるのはここだけである。
この食堂の店長は、もともと本島の方でシェフをしていたという。この島に来てからの彼にしかあっていないので、あまりそんな貫禄を感じることはないが、でも、料理が美味しいことは間違いない。
この食堂は島のみんなの憩いの場であり、交流の場となっている。毎日のように誰かしらはここへ遊びにきている。そう食事にきているというよりは遊びにきている。飲みにきている。という方が正しいのではないかと僕は思っている。
「まだ釣りにいっているのかな」と勝手にお店の中にある椅子に座る。この島ではどこもたいていは鍵がかかっていないので、そのまま入って勝手に待っているなんていうことは当たり前にある。それが食堂だとしても。
ぼー、と椅子に座っていると、おじいさんが二人組でやってくる。食事にでもきたのだろうか。
「あら、店長いないの?」と暗い店内を見渡して僕に話かける。
「ええ、まだ釣りにでも行っているんですかね」
「そうか、そうか」と言って、二人も勝手に店の椅子に座る。
僕は勝手キッチンの中に入ってピッチャーに水を入れて、氷を入れてグラスを持って行く。おじいさん二人に水を渡して、ピッチャーを置いて、自分もグラスをひとつ持ってまたカウンター席の椅子に座って水を飲みながらぼーとする。
今度はおばあさんがひとりやってくる。
「あれ、店長いないのかい?」
と言って、そのまま、おじいさんたちが座っている席に入っていく。
そうすると、僕はまたグラスに水と氷を入れておばあさんに出す。
そんなことが何度か続いてお店はいつの間にか7、8人くらいの人たちで賑わっていた。
「おい、ビール飲もうぜ」と、おじいさんが言ったので、僕はまたキッチンに入って、冷蔵庫からビールを出して栓抜きでフタを取って、ビールとビールグラスを持っていく。
「あ、おつまみも欲しいな」と言わると、僕は冷蔵庫から惣菜が入っているタッパーを取り出して、皿に盛り付ける。
「おかわり」という声があれば、新しいビールを持っていく。
すっかり、食堂の中は宴会騒ぎになっている。
そして、いったい僕は何をやっているのだろうか。いつも下っ端の僕はよく店の手伝いをさせられるというか、もう店長が忙しい時はみんなが勝手に自分たちでビールを取り出したりするようなお店なのである。
「あれ」と言って、無精髭が生えた髪がもじゃもじゃで黒縁の丸眼鏡をかけた一人の男が入ってくる。
「あ、店長おかえりなさい」と僕が言う。「勝手にやってます」
「ああ、ありがとう」と何も驚くこともなく、店長はクーラーボックスを持ってキッチンに入っていく。
「今日はなにが釣れた?」とおじいさんが声をかける。
「ふふふ、いいものが釣れましたよ。今から捌くので楽しみにしていてください」と店長が答える。
「おお、いいねー」と会場は盛り上がる。
「ちょっと手伝って」と言われて、僕は「はい」と言って、キッチンに入って店長の指示に従って手伝い始める。
「あ、ビールなくなった」
「はーい」
「あ、お水頂戴」
「はいはい」
「あ、つまみとって」
「は、はい」
「あ、これ洗って」
「はい」
昼ごはんを食べにきたはずの僕は、島の人たちに昼ごはんを提供する側になっていた。一体何をやっているのかわからないが、これも島の人たちへの住民サービスということだろうか、と僕は考える。
とっくにお昼が過ぎて、みんながいなくなってからようやく、店長に島そばをつくってもらう。そばと言ってもどちらかというとうどんに近い麺で、スープも醤油系のスープである。それがとても美味しいのだ。
食べ終わると「ふー」と一息つく。
「おつかれさま」と店長が声をかけてくれる。
「あ、そういえば今日は荷物が届く日だった。フェリーターミナルに行かなくちゃ」と言って、店長は慌てて出て行ってしまう。
「あ」と声をかけそびれてしまう。
僕は、自分の使った器とそしてシンクに溜まっていた食器類を洗って乾かしておく。
そして、テーブルを拭いて片付けて、電気を消してガラガラと扉を閉める。
「うーん」と大きく背伸びをする。
今日もよく働いたな、と思う。
食堂の前で清々しい気持ちになっていると、役場の職員が通りかかる。
「あれ、何やってるの?」
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