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「かみさまがくれた休日を過ごす島で過ごす人 vol.5」
『かみさまがくれた休日シリーズ』の世界を舞台にした短い短い島人の物語。
(登場人物)
・僕・・・役場の職員
・おばあさん・・・島にある隠れ家カフェのおばあさん
「こんにちわ」と家の中に入っていく。特に返事は返ってこない。
しかし、僕はそのまま進み続ける。
廊下を歩いていると、左側には庭が見える。そして、その先にはおしゃれな部屋がある。どうおしゃれかというのは、なかなか僕のボキャブラリーでは伝えるのは難しいのであるが、椅子やテーブルなどはいろんな種類や高さのものが置かれており、視線が合わないようになっている。
ソファ席、テーブル席があり、種類も材質も違うのであるが、それでも、全体としてはとても違和感なくまとまっているのである。さらに、壁の方に並べられている食器類や調度品なども、いろいろな年代のいろんな国のものではあるが、どれも高級そうに見えて、とてもその部屋にマッチしているのである。
僕は庭側のテーブル席に座る。庭側はガラス張りになっていて、庭を眺めることができる。庭も綺麗に整備されている。
ふとテーブルの方でことんと音が鳴る。いつの間にかテーブルの横にはおばあさんが立っていて、これまたものすごく薄いおしゃれなガラスのグラスに水が入っている。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。本日はご来店ありがとうございます」
「ああ、ええ。今日もいつものでお願いします」
「かしこまりました。本日のスペシャルデザートですね」
「あ、あと、アイスコーヒーもお願いします」
「かしこまりました」と丁寧にお辞儀してそのおばあさんは、その部屋からつながっている厨房の入り口の方へ戻っていく。
なぜあんな忍び足で現れるのかわからないし、そして、やたらと丁寧なのが意味がわからないが、いつもこういう感じなのである。
数分すると大きなお皿にきれいに盛り付けられたカタラーナとアイスコーヒーをお盆に載せて現れた。
そして、それを出し終わると、だまって近くのソファー席に座り出す。
「あんたもひまじゃの」と、急に馴れ馴れしくなる。これが本来の彼女の喋り方なのであるが、注文を取るまでは丁寧なのであるが、それ以降は普通の話し方になる。
なぜ最後までちゃんと丁寧に接客しないのかは、島のみんなも謎に思っているが、だれもそのことを彼女に聞くことはできなかった。そもそも、だれも本気でそのことを知ろうとは思ってはいなかった。
このおばあさんは元々フランスでパティシエをやっていたとか、そういう話を聞いたことがある。もちろん、本人からではなくて、島人の噂としてだ。でも、このクオリティの高いスイーツを見ていると、本当のことに思えてくるのである。
「あ、いえ、暇というわけでは」
「じゃあ、なんでこんなところにおるのじゃ」
「いや、おばあに会いにきたんだけど。なんか困ったこととかはなかった?」
「あんたみたいな暇人が、島の役場の人間というのが一番困っておるわ」と笑って言う。
「いやいや、僕はちゃんと仕事をしに来ているんですよ。島のみなさんの困りごとがないか一軒一軒回っているんですからね」
「そうか、そうか。それは頑張っておるな」
「あ、信じてないでしょ」
「そんなことはないわさ。でも、うちに来ることが多くないかい?」
「え、それは・・・」
ガラガラっと音が鳴った。玄関の扉が開く音である。
「こんにちは」と明るい声が聞こえる。
おかみさんの声だ。
おかみさんは、この島でひとつしかないホテルのおかみさんである。ホテルという名前ではあるが、中身は民宿で、そこを切り盛りしていて、みんなからおかみさんと呼ばれている。
「お、今日もちゃんときたね」とおばあさんはにやりと笑って、おかみさんを出迎えにいく。
「いや、別に、その・・・」と言うが、言葉をすべて言う前におばあさんは立ち上がって行ってしまった。
もちろん、僕はおばあさんのことが心配でいつもここに来ているのだ。そして、ここのスイーツも美味しいので寄っているのだ。それも、おばあさんが喜んでくれるから、と思って・・・。
ガラガラとまた玄関の扉の音がする。
そして、おばあさんが戻ってくる。
そして、またソファー席に腰掛ける。
そして、またこっちを見てにやっと笑う。
「僕はおばあに会いにきたんですからね」とハンカチで額の汗を拭きながら、アイスコーヒーを飲むのであった。
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