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TAKU LABO

「どう生きるのか?」よりも、知りたいのは「生きるとはどういうことか?」だ。 「自分(わたし)らしさ?」よりも、知りたいのは「自分(わたし)とは何か?」「なぜ自分(わたし)は存在し…
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#批評

分散の幸せ 『多拠点ライフ』石山アンジュ

石山さんは『シェアライフ』という本を書かれていますが、シェアする概念を広く普及させようと活動されている方です。今ではシェアリングサービスは当たり前になってきましたが、これはわりと最近のことで、テクノロジーが追いついてきたからこそ可能になったのだと思います。しかし、もともとは地域の中では、昔からシェアリングの概念はありましたが、テクノロジーを活用することで、身近な地域だけでなく、全国、全世界とシェアできるようになった点が非常に面白いと思います。 私は現在基本的にリモートで仕事

精神のはじまりは存在する『精神の考古学』(中沢新一)

『精神の考古学』(中沢新一) いつの時代も探究者を魅了してやまないのは「はじまり」である。宇宙のはじまり、人類のはじまり・・・と、人はその「はじまり」を想う。 そもそも、人の精神、心というものにも「はじまり」があるのだろうか。きっと誰もがあると思うだろうが、では、どうしてそれが発生したのか、そして、それがどう変わってきて、今、ここにいる僕たちの心はどうなってきたのか。 歴史学者は歴史から、物理学者は物理から、心理学者は心理からそのはじまりの探究を進めてきた。それは、宇宙

平和学の視点でエコロジー思想を考える 『イカの哲学』中沢新一、波多野一郎

『イカの哲学』中沢新一、波多野一郎 『イカの哲学』というタイトルを聞くだけで、何だそれは? と思ってしまうが、詳しくは実際の本を読んでみていただくのがよいだろう。そんなに長いものではなく、また小説の形式をとっているのでとても読みやすい。しかし、そこに描かれている発見は非常に面白い。 『イカの哲学』の著者である波多野一郎氏は、戦争で特攻隊に入り、出発の直前で作戦が中止された。その後はロシアに拘留され炭鉱での強制労働。そのような生死のギリギリのところを彷徨った経験がこの本を生

光を観てしまった人たち 『観光―日本霊地巡礼」(中沢新一、細野晴臣)

『観光―日本霊地巡礼」(中沢新一、細野晴臣) 中沢新一先生が初期の頃に書いた本が「観光」と言うタイトルだったので、どのような本かと思えば、非常にマニアックで、でも中沢先生の原点というか、本性というかそういうのがわかる本ではないだろうか。 観光というのは、一般的なイメージでは物見遊山的なものを考える人が多いだろうが、この本は違った意味で光を観てしまっているのではないかと思う。 初版は1985年に書かれた本なので、だいぶ昔に書かれた本なのであるが、今読んでもどこか新しさという

世界はどうして予言されうるのか 『予言された世界』(落合信彦、落合陽一)

 『予言された世界』(落合信彦、落合陽一) 要約『予言された世界』の著者、落合信彦と陽一の親子の視点から未来を探るこの本は、ただの家族談義に留まらず、現代社会の情報の取り扱いや日本の行く末に深い洞察を投げかけます。信彦の国際ジャーナリストとしての経験と陽一の研究者としての視点が、情報の真実性とその影響力を掘り下げます。一次情報の重要性や、個人の責任感について考えさせられる内容は、読者に現実を直視する勇気を与え、日本、そして世界の未来への深い理解へと導きます。この本は、ただの

映画『さまよえ記憶』(脚本・監督・プロデューサー:野口 雄大) 幸せな記憶というものがあっても、記憶の幸せというものはない。

映画『さまよえ記憶』(脚本・監督・プロデューサー:野口 雄大) 予告編を見た時に、主人公の結末はきっとそうなるだろうな、というのが伺えた。でも、この映画は結末を知ることが目的ではない。もちろん、エンターテイメントとしての要素としては、結末は大切かもしれないが、本当に大切なのは監督が、映画というものを通して伝えたかったことなのかもしれない。 なぜ人には記憶というものがあるのだろうか。僕なんかはいつも悪い記憶に苛まれる。別に自分が呼び起こしたいわけではないのに、悪い記憶ばかり

縄文というOSプログラミングするには?

『新版 縄文聖地巡礼』坂本龍一、中沢新一 僕たちが住む日本には、縄文というものが身近にある。日本中どこへ行ってもその痕跡を見つけることができるのではないだろうか。でも、遠い昔の出来事で、そんなことは現代に何の関係があるのだろうか? と思うかもしれない。 僕も以前はどっぷりと現代の資本主義、近代の思想に飲み込まれていて、極端に言えば、過去=古いもの、今のものよりも劣るもの、くらいに考えていた時期もあった。どうしてそういう思考になってしまったのか? と考えると、現代の消費主義

日本人とは何か。心の考古学から読み解く 『アースダイバー 神社編』(中沢新一)

『アースダイバー 神社編』(中沢新一) 僕たちはずっと知りたいと思っている。日本人とは何かということを。それは私は誰か、何者かということにも通じるのであるが、日本人とは何か? と問うときは、それとはまたちょっと何かが違う感じがする。それはただ哲学的な存在論の話ではなく、僕たちのこころというものに密接に関係しているからではないだろうか。こころとは何か? と問うと、なぜだか出てくる民族的な形式。形式と呼んでいいのかわからないけれども、でも、そういうこころの型や形みたいなものが現

生きる意味は無い 『未来のルーシー 人間は動物にも植物にもなれる』中沢新一・山極寿一

『未来のルーシー 人間は動物にも植物にもなれる』中沢新一・山極寿一 人類学者中沢新一、霊長類学者山極寿一の対談本。話は哲学者西田幾多郎や生態学者今西錦司などに及びそして、人類学はもとより、考古学、宗教学、生命科学、AI…と非常に広範囲な話となる。しかし、それらを横断的に語られることが本書の本質ではないだろうか。最後の方では中沢新一氏の「レンマ学」の話へと進んでいき、「華厳的進化」という言葉が現れる。レンマ的知性の観点から日本の知性を振り返りながら、今後の未来を模索する。

中沢学の道のはじまり 『森のバロック』中沢新一

『森のバロック』中沢新一 南方熊楠とは一体何者なのか? 世の中には天才と呼ばれる人たちはたくさんいる。歴史的にみればもう覚えられないほど多くの天才たちが世の中にはいるのである。でも、天才と呼ばれるものの中でも、それぞれ得意な分野があったりすることが多い。当たり前と言えば、当たり前なのであるが、でも、その中でも時に壮大な思想を考える天才も現れることがある。西洋と東洋の融合を考えた鈴木大拙やあらゆる世界の哲学・宗教の共通点、本質を解明しようとした井筒俊彦のような全体性や統合を考