【1-3】ハンコって何の目的で使っているの?
唐突ですが、問題です!
答え:
…
……
………
1.本人が( 本人 )であることを証明するため
2.本人の( 意思 )を表示するため
皆さん正解できましたでしょうか?
それでは、現代の印鑑の使われ方の前に、過去の日本での使われ方を見ていきましょう。
奈良時代の官印は「内印」と「外印」に分けられ、前者が天皇の印である「天皇御璽」、後者は前々回にも示した「太政官印」でこれは政府の印となります。
そして「内印(天皇の印)」は五位以上の位記に捺し、六位以下の場合は「外印」を用いられました。印章の観点からも五位と六位の間には明確な違いがあったんですね。
また、面白い話が1つあります。
「天皇御璽」は広く知られていますが、公式令の最初の条に「天子神璽」という言葉が存在するのをご存知でしょうか?具体的には「践祚の日寿璽、宝にして用いず」とあり、「天皇御璽」の他にもう一つの天皇の印が存在するように読めます。この印は宝物であり、使われてはいなかった。すなわち、神器だったと考えられています。
もう少し踏み込んで推察すると、佐藤厚子氏の「『建武年中行事』雑考」に記されている、摂政関白藤原忠実の語録『富家語』においては、
「神璽の筥の中身は印」だと記されています。「神璽」とは三種の神器の一つである八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)
とされています。
しかし、ひょっとすると神璽は「印章」なのかもしれません。藤原氏語録ですから真偽のほどは分かりませんが。
中国においても、秦の始皇帝が「伝国之璽」を作り、高祖(劉邦)に渡り、以降代々の皇帝に受け継がれたという話を聞いた事があるかと思います。その後、三国志などでも出てきますよね。
画像引用元:『三国志 Three Kingdoms』
これは、始皇帝が天下統一後、楚国の文王から宝玉を得て、それを磨きあげ、玉璽を作り、宰相の李斯(篆書の名家)に「受命于天 既壽永昌(命を天より受け、寿(としなが)くしてまた永昌ならん)」と彫りつけさせたと言われています。
印章文化は中国から伝わっているだけに、「神璽」を作る際、日本でも中国にならい「玉」を勾玉の形ではなく、「天子神璽」即ち印章の形にしたという説は十分に有り得る話のように思います。
もちろん反対意見もあり、誰も実物は見たことがないとされているため、その成否は分かりませんが、連綿とつながる歴史に思いを馳せる事自体、とてもワクワクしてきませんか?
ちなみに西洋では、国璽の事を「グレートシール」と呼び、封蝋として使用されています。主な使用国は、イギリス、フランス、アイルランド、カナダ、アメリカ合衆国です。
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それでは話を現代に戻しましょう。
1.本人認証:本人が本人であることの証明
これを一般的に、「実印(印鑑登録制度)」と呼んでいます。
この制度は、ハンコを第三者(個人:地方公共団体、法人:法務局)に事前に届け出をしておき、この「印鑑」と、印鑑が本人のものであると証明する「印鑑証明書」の2つがあることで、本人自身であるという推測が強く働くという仕組みになっています。
実印がない場合、本人を確認する行為って、かなり面倒なんですよね。
メリットとしては、
・本人同士が立ち会う必要がない
・本人であることの信憑性の担保が容易
・確認をする側が身分証明書の顔写真で判断するよりも安全
逆にデメリットとしては、
・印鑑証明書の有効期間が定められている
・印鑑カードと実印の物理的なセキュリティを自分で担保する必要がある
・実際にモノ(印鑑)を作っておく必要がある
-----例)-----
裁判官:2人の佐藤さん、この権利書はどちらのものですか?
佐藤Aさん:私のものです。
佐藤Bさん:いや、私のものです。
役所職員:この権利書に押されている「佐藤」という印鑑は「佐藤Aさん」が平成〇〇年〇月に登録されている印鑑だと公的に認めます。
裁判官:佐藤Aさんの権利書であることを認めます。
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2.意思表示:ある事柄について「認めました」「同意しました」「承認しました」と本人の意思を表示する目的
この使われ方は一般的なのでイメージが容易につきますよね。
上げるときりがないほど、使用されています。
行政関係の手続き、会社内部での手続き、個人対会社などなど。。
いずれにしても、本人自身がその行為を確認して納得しているという「意思の確認」のために用いられています。
-----(例)-----
郵便配達員:「荷物を「受け取った」記しに、ハンコを押してください」
家人:「はいはい、(ポン)ご苦労様でーす」
部下:「この内容で問題がなければここに「承認した」印に、ハンコをお願いします」
上司:「よかろう(ポン)」
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まとめると、
・金額が高額など社会的に重要な取引で厳格な本人確認が必要な場合は①
・相対的に簡易な意思確認で済む場合には、②の使われ方
となるかと思います。
ここをごちゃ混ぜにしてしまいますと、今回のテーマである「ハンコ不要論」の議論が空中分解してしまいますので、ここはしっかりと抑えておいていただきたいポイントとなります。