第25回メディア芸術祭受賞作品展



第25回メディア芸術祭受賞作品展に行ってきたので、いくつか印象に残った作品について記載してみます。全般にコロナの影響もありリアルとバーチャルの境界を考えさせられる作品が多かった印象です。

平瀬ミキ《三千年後への投写術》

平瀬ミキ《三千年後への投写術》
といいつつ、いきなりリアルに全振りの作品。電磁的な記録は長く持続しないため、千年単位で残すための記録媒体という石を使うという発想は「三体」などでも扱われていました。誰もいない真暗な展示室に入った瞬間が、現在と切り離された異界の感覚でエモい。石の表面に微細な加工を施すことによって反射光が画像になる技術ですが、石の表面を見ても明確な画像が見えないというところも魔鏡に通じます。あらゆる物質に電磁的に記録が残っているというサイコメトリー的な妄想が捗ります。

YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE 制作チーム《YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA》

YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE 制作チーム《YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA》
ヒト、モリ、ウタを分解して再構築した現実。現実を観察する解像度を上げていくことが有理数を見つけるアプローチだとすれば、再構築される現実はその間に無限の無理数が広がっている感じです。2D作品ですが、片目による裸眼3Dで世界に没入する感覚が好き。(余談、以前から片目で見ることで脳が情報を補完して立体に見えると思っていたのですが、先日訪れた「とりっくあーとぴあ日光」で同様の記載を見つけ、我が意を得たりという感じでした)ちなみにウタが空間に満ちるクライマックスは終盤なので、是非そこまで体験して欲しい作品です。

森谷頼安《VR Sandbox》
Meta(Oculus) Questを使ったVR作品で、マインクラフトのように空間をエディットすることができます。空中に線を描く際に手を伸ばすことで奥にかけることに気がついて驚いたり、最後は自分がエディットした家を体験できたり。最初はコントローラに違和感がありますが、すぐに慣れるのであらためて脳の可塑性を実感します。理研のBrain Boxでも体験できる心理学の有名な実験で、偏光する眼鏡をかけることで視野がずれます。最初はそれに戸惑うのですが、すぐにずれた視野に慣れて身体が動くようになる。最後に眼鏡を外すと身体の動きがずれている、でもまたすぐに戻るというものがあります。なので、VRゴーグルにもすぐに慣れ、なんならリアルでも移動の際に無意識にコントローラで移動しそうになるだろうなと思いつつ、自宅にVRゴーグルが来るのを楽しみにしています。こうした作品を特別な施設だけでなく自宅でも体験できるというのはすごい時代ですね。

石川 将也/杉原 寛/中路 景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井 祥平《四角が行く》

石川 将也/杉原 寛/中路 景暁/キャンベル・アルジェンジオ/武井 祥平《四角が行く》
最初に見た時は調整中だったこともあり、白い箱の動きをはらはらして見つめてしまい、うまく壁をくぐれたときは思わず小さく拍手してしまいました。この全く生物には見えない物体にも、小さな子供を見守るような感じを受けてしまうのはアニミズムが根っこにある日本人的な感性なのでしょうか。もう一つのバーチャルにしか存在しない壁に対応する四角も面白い。生物と物質の境界、リアルとバーチャルの境界を考えさせられる作品でした。

花形槙《Uber Existence》


上記の《VR Sandbox》のようにVRでアバターを操る体験は可能になっていますが、ではアバターはどう感じるのだろう?という作品です。Uber Existenceとしてリモートで操作されることにより、普段なら話しかけない輩と話したり、操作者が喋ってくれないためにコンビニて気まずい、さらには(脳の可塑性で)操作が外れて自分自身に戻っても喋って良いのかの逡巡があるというのが、普段意識にのぼることのない「自分とは何か?」という問いに向かい合わせてくれます。


Theresa SCHUBERT《mEat me》
メディア芸術祭ってバイオアート好きだよなと思いつつ鑑賞。「牛は人間が食べるために神様が作った」といった信仰とは無縁とはいえ、やはり食べる側と食べられる側は無意識に区別しているので、こうした作品は自分の深いところに触られる感じがします。SDGsや動物保護の観点から人工肉に興味があってビヨンドミート社の株式を買っていたりしますが、VRが普及すれば栄養摂取自体は避けられないとしても、かき氷のシロップのように情報を補完することでソイミートを美味しく食べられるようになる時代が来そうな気もします。

MOON Joon Yong《Augmented Shadow – Inside》

MOON Joon Yong《Augmented Shadow – Inside》
本物の影とプロジェクションによる影の区別がつかないことを活用したインタラクティブ作品。影の動きから自分のすぐそばに誰かがいるように感じてびくっとするなど、色々とギミックが仕込まれていて楽しめます。とはいえ、個人的には影を利用した同様の作品としてはクワクボリョウタの一連の作品の方が純度が高くて好きです。アート部門で大賞を受賞したanno lab《太陽と月の部屋》もジェームズ・タレルにインタラクティブ性や音を盛り込んだように感じており(といえ、実際に体験したわけではないので、いつか大分の「不均質な自然と人の美術館」には行ってみたいのですが)、VRが発展して伝達できる情報量を増やしていける中で抽象表現のようなデジタルアートの価値について考えるきっかけになりました。

この2年半、片手で数えらえるほどしか出社せず、デスク(そもそもデスクももう会社にないですが)の上のボールペンすら動かすことなしに仕事を続けていると、自分がインプットされた情報をアウトプットするだけのブラックボックスに過ぎず、じきにAIにとってかわられると感じています。来年の受賞作品展も行くつもりですが、1年で社会と自分がどう変わっているか楽しみです。

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