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アラビア数字が初めて世界に伝わる:アルフワーリズミー

※この記事は2022年2月17日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


今日も数学史の解説していこうと思う。数学はこれまで、理論や定理を何の前触れもなく、唐突に教わってきたので面白さが見出しにくかったが、歴史が過去のストーリーを伝えていくのと同じように、数学も理論や定理がどういう経緯で完成されていったのか?そのストーリーだけでも知ることができたら、より親しみやすくなると思っている。
その足掛かりとして、この解説が役に立てば嬉しい。


今回紹介するのは、9世紀に活躍したイラクの数学者アルフワーリズミーという人物についてだ。
当時のイスラム帝国のカリフ(つまり宗教的指導者)に学問の拠点だったバクダットに奨励されたことをキッカケに、彼は一流の哲学者や数学者などと一緒に古典著作のアラビア語翻訳の作業をしつつ、数学や天文学、地理など、幅広い分野で多くの功績を残していく。

彼の残した大きな功績の一つ。それが「アラビア数字の普及」だ。
アラビア数字は今でいう0,1,2,3という10個の数字の使った数のことだ。
「え?いまさら?」と思うかもしれない。そう、いまさらなのだ。ただこれがすごく面白い。

実は、古代ヨーロッパで数学が発展していた頃、当時の数学者が使っていた数字は僕らの今当たり前に使っている数字ではない。彼らはその当時、「ローマ数字」という形の数字で数を表現していたのだ。
よく作品のタイトルや描写の中で、アルファベットの大文字のIやXの形の数字を見ることがあるだろう。あれがローマ数字だ。古代のヨーロッパでは、このローマ数字を使って数学をしていたのだ。

ところが、ローマ数字には欠点がいつくかある。まず、ゼロを表す記号が存在しないこと。
前回の放送でもいったが、ゼロの表記は数学ひいては科学を発展させる上で非常に重要な概念になる。ゼロがないと、「存在しない」とか「原点に帰る」とか、数えられない対象などを表すことができない。
そしてもう一つの欠点は、桁が増えるごとにどんどんややこしくなっていくことだ。ローマ数字の1〜3はアルファベットのIを最初とする縦棒の数で表現される。そして4,5になるとVが出てくる、6〜8はVの隣に1〜3のローマ数字を添える、9〜10はXが出てくるという具合だ。
桁が少ないうちはまだいいのだが、桁が増えていくと、縦棒の多いIやXが連続して続くから非常に読みづらくなってしまう。これらが原因で当時のヨーロッパの数学者たちは、複雑な計算がしづらかったのだ。

ところが、アルフワーリズミーの著作によってアラビア数字による数の表記法が紹介されると、それがまずアラビア世界に広まり、少し後にその著作がラテン語に翻訳されて、ヨーロッパにも広まっていった。

いまさらだがアラビア数字の性質について改めて説明すると、0〜9までの10種類の数字と記号を使ってどんな数でも表すというもの。
桁が上がって10を表したかったら、1と0を横に並べて表現する。位が上がるときは左端にあった1が2に変わり、右端にあった9は0に戻る。この手順を三桁の数字でも四桁の数字でも同じように行うことで、十の位や百の位、千の位、それ以上の桁まで表現することができるのだ。
この表記方法はローマ数字よりも圧倒的に計算がしやすいということで、ヨーロッパ世界に衝撃を生み、一気に広まっていくことになる。

ところで、今では0〜9の10種類の数字をアラビア数字と呼んでいるが、元々の起源はインドにある。
今の0〜9の数字の形によく似た数字がインドのヒンディー教圏で初めて使われて、それがアルフワーリズミーによってアラビア世界に伝わり、その後彼の著作のラテン語訳によってヨーロッパに広まるという流れで、アラビア数字という名称はのちのヨーロッパでつけられたものなのだ。なのでアラビア数字のことをインド数字、もしくはヒンディー数字とも呼ぶこともある。ややこしいのだが、基本的には0〜9の数字のことはアラビア数字と読んでいいだろう。
ただ、元々の発祥はアラビアではなくインドだということは知っておいてほしい。

アルフワーリズミーの著作では、アラビア数字を使った簡単な四則演算の実行例や、分数の表記の仕方、平方根の概算など、実用的な方法を多く載せているので、それもアラビア数字が普及した要因の一つとなっている。

ちなみに、コンピュータ用語としてよく登場する「アルゴリズム」という単語があるが、実はこの単語は、アルフワーリズミーの名前が由来だ。
アルゴリズムとは、彼の名前のラテン語形を表している。元々は彼の功績を讃えて、アラビア数字で計算する方法を何でも意味する言葉だったが、今では数に限らず、問題を解くための筋道立てた方法のことを意味するようになった。
「アルゴリズムという単語はアルフワーリズミーという数学者の名前が由来である」というのが分かると、数学にも人間の歴史が詰まっていることが実感してもらえると思う。

彼の功績はまだまだたくさんあるので、興味のある方は是非調べてみてほしい。

参考文献:『数学を生んだ父母たち―数論、幾何、代数の誕生 (数学を切りひらいた人びと) 』

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