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最初の生徒には金を払ってでも授業する:ピュタゴラス

※この記事は2022年2月11日にstand.fmで放送した内容を文字に起こしたものだ。


前回の放送で、多くの人が数学に興味が持てない理由、それは前触れもなく、唐突に計算や理論や定理を教えられるからという話をした。
それは小学校に入った時からすでに始まっていて、例えば四則演算を、具体的な応用面や、それ以上にこれを知ることで何がどう面白いのか?と言ったことを十分に説明もされないまま、ただ授業としてやらされるから面白くなくなる。
中学・高校に入ればそれは余計にひどくなって、何の役に立つかもわからない理論やら定理をひたすら厳密に教わるから、応用ができるという理由で楽しめていた人も次第にやる気を削がれていく。

これらは全て、数学という学問がどういう過程を経て今のような形になっていって、どこに注意を向けると楽しさが見えてくるのかが全く伝わっていないのが原因にあると僕は思っている。
歴史の場合は、自分と同じ人間が過去にどういう生き方をしてきたのか?、どういう思惑で人と社会を動かしてきたのか?それを少しずつ知ることで今につながるというストーリーがはっきりしてるから、学問の域を超えて、エンタメにも取り入れられいるわけだ。

だとしたら、数学の面白さをより知ってもらうためには、理論や定理を知るだけじゃなく、それらが、いつ、どこで、誰によって、どうやって完成されていったのか?そのストーリーを伝えることが重要だと僕は思う。
そもそも数学というのは、役に立つ立たないの次元で収められるような学問ではなく、人間の知を底上げして、より深い思考をする過程そのものに面白さの本質があるとまずは知ってもらうこと。そして、それを築き上げた数学者たちの生き様を知ってもらうこと。これができれば、今まで習ってきた理論や定理がどういういきさつで完成されたが分かって、より数学に親しんでもらえると思っている。
では早速解説していこう。

今回は、古代ギリシアの数学者ピュタゴラスについての紹介だ。どんなに数学に疎い方でも一度は聞いたことのある名前ではないだろうか?前回紹介したタレスよりは、より名前が知られていると思う。

・ピュタゴラスは紀元前584年から560年頃の間に、現在のトルコにあたるイオニアという町の沖合にあったサモス島という島で生まれたといわれている。このサモス島は、ピュタゴラスが生きた時代では港町として栄えていて、学問の中心地だった。
幼い頃は、前回紹介した数学者のタレスの指導のもとで数学と天文学を学んでいて、20歳の時には、エジプトとバビロニア(今でいうイラクのこと)へ旅行して、数学、天文学、哲学の勉強をした。

そして、ここからが個人的に一番面白いエピソードなのだが、ピュタゴラスは帰国後、教師として学問を教える職に就こうと考えていたそうだが、それまで教師の経験はなかったため、最初は学生を集めることができなかった。どうしても教えたいと必死だったあまり、路上で出会った少年に自分から金を払ってでも授業をしていたそうだ。
その少年とは毎日路上で会って、授業を終えたらその日の賃金を少年に渡すということをしていたらしい。
逆ビジネスのような行為していたことで、案の定、ピュタゴラスの貯金は底をついてしまい、少年にもこの授業は終わりだと伝える。すると、今度はその少年がピュタゴラスに、「お金を払うので続けてください」と言ったそうだ。

これが個人的に一番面白いエピソードだと思っている。今でこそ、誰もが知る数学者のピュダゴラスが、駆け出しの頃は自分でお金を払ってでも授業をしていたというのは、人間味に溢れてて個人的にはすごく興味を惹かれる。自分から金を払うという行為は、一見すると無意味に思えるが、たとえお金で釣ってでも人に授業を聞いてもらうことで、面白さも相手に伝わって、今度はお金を払って頼まれる立場になれたわけだ。彼が狙ってそれをやっていたは分からないが、人に知ってもらうためのこうした工夫は、現代でもすごく参考になると思う。

そうして、教師として動き出した彼の最も有名な功績といえば、ご存じ「ピュタゴラスの定理」だろう。「三平方の定理」とも呼ばれたりする。

彼はエジプトやバビロニアへ旅していたとき、三辺の長さが3、4、5の三角形は直角三角形になるという有名な性質を習う。この、3、4、5という長さは、3^2+4^2=5^2という等式で結びつく。当時のエジプト人は、「三角形の辺の長さをa,b,cとしたときに、それぞれの辺の関係がa^2+b^2=c^2なら、その三角形は直角三角形になる」という原理をよく知っていた。それを受け入れつつ、建築物の設計や農地の配置、道路計画などに応用していたそうだ。つまり、性質そのものはピュタゴラスが発見する前から既に知られていたのだ。

ただ、なぜそれが成り立つのか?その数学的な証明がまだできていなかった。それを実際に証明したのがピュタゴラスである。
彼は、すべての直角三角形の辺の長さについて、a^2+b^2=c^2の関係式が成り立つことを初めて証明してみせたのだ。のちにこの直角三角形の性質は、「ピュタゴラスの定理」と呼ばれるようになり、(3,4,5)の組み合わせに限らず、(8,5,17)など、等式を満たす三つの数の組みは「ピュタゴラス数」とよばれるようになった。

ピュタゴラスの定理は、現在の数学の世界においても最も重要な成果の一つとされていて、二点間の距離を計算する基礎であったり、円や楕円、放物線の方程式を与えるものとして利用されたり、三角法ではサイン、コサインの基本性質を説明するものとしてなど、あらゆる分野に応用されている。
当然、これらの分野は物理計算にも応用が効くので、実社会においても役に立つ。

長くなるので詳しい説明は省くが、ピュタゴラスが残した功績はこんなものではない。例えば、今では当たり前に使われている「偶数、奇数」の概念。これを初めて定義したのもピュタゴラスだ。

偶数、奇数を定義するということは、例えば確率計算を行ったときの結果を、厳密に区別できることになることを意味する。試行回数が偶数か奇数かによって確率の結果は違うので、最初にこれが定義できていないとまともな確率計算ができない。こういう数の性質を研究する分野は「数論」と呼ばれるが、その基礎を作ったのもピュタゴラスなのだ。

彼の残した業績はまだまだあるので、興味のある方はぜひ調べてほしい。

参考文献:『数学を生んだ父母たち―数論、幾何、代数の誕生 (数学を切りひらいた人びと) 』

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