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【ドローンって何に使えるの?】農業編

ドローンが注目されるワケ

「ドローン」とは、人が乗らずに遠隔操作や自動操縦が可能な無人の航空機である。

1960年代から2000年代前半までは軍用機として利用される事がほとんどだったが、2010年代からリチウムイオン電池やジャイロスコープなどのテクノロジーが普及したことで民間機として市場に出回るようになった。現在ではドローン1基あたりの安さや騒音の低さ・操作のしやすさがますます上がり、ドローンを使ったビジネスを展開する企業も増えている。

「ドローン」という名前を聞いたときに、おそらくみなさんは、使い道が「警備」や「輸送」くらいしかないんじゃないか?と考えるかもしれない。ところが実際は、もっともっと幅広い分野でドローンは活かされている。

例えば2021年に行われた東京オリンピックでは、インテル製のドローンを使って新国立競技場の上空に東京オリンピックのエンブレムを立体的にライトアップするといった「演出」に活かされていたり、はたまた天然記念物として立ち入りが禁止されている島の自然環境調査をドローンによる空撮で実施したりといった「研究」にも使用された例もある。


1800台以上のドローンを使った立体ライトショー

このようにドローンにはさまざまな使い道があり、生活の豊かさに一役買っているのだ。
今回はそのドローンが「農業の役に立つ」という話をしていこう。

配送?警備?いいや、農業。

ドローンがなぜこんなにもいろんな産業に活かされるのか?その理由は以下のようなことが挙げられる

  • 作業効率化

  • 情報の見える化

  • 作業の生産性向上

  • 作業の安全化

  • 表現力の拡大

一つずつ簡単にまとめると、まず、ドローンは遠隔で操作したり自動操縦したりできるから作業を効率的に行えることが一つ。
また、ドローンで撮影した上空からの映像はソフトウェアを使えばリアルタイムで分析できるから、これまで把握しづらかった情報を見える化できるのが一つ。
さらに、ドローンは遠隔操作と自動操縦により人力よりも短時間で多くの作業がこなせるから生産性が上がることが一つ。同じように、人が立ち入ると危険な場所であってもドローンであれば無人なので安全に作業できることが一つ。
最後に、ドローンは基本的に上下左右へ自在に飛ぶことができるから上空で立体的なライトアップといった表現力の高い演出ができるのが一つ。

これだけのメリットがあるからこそ、ドローンは今、世界中で実用化が進められているのだ。そしてこれだけのメリットを兼ね備えているからこそ、農業への活用も着実に進んでいる。

農業への活用

先日、日本発からドローン事業を展開するテラドローン株式会社が、東南アジアを拠点に活動するArvitech(アヴィールテック)という農業テック企業よりドローンを使った農薬散布事業を買収した、というニュースが報道された。これの詳細について少し説明しよう。

東南アジアの国であるインドネシアとマレーシアは、パーム油という主に調理用の油や石鹸の製造などにも使われる資源の生産地として知られていて、世界の生産の約8割を占めている。しかし、環境への影響や労働力の不足などが問題でこのままだと生産を持続させるのが難しい状況にあるのだ。

農薬散布

そこでテラドローンは、Arvitechが持っていた農薬散布事業を譲り受けることで、パーム油の産業を持続させることに貢献するという発表を行った。すでにインドネシア・マレーシアの両方に拠点を設立していて、今後はこの農薬散布事業を最優先に実施していくとのこと。

これがまさに農業にドローンが活かされる事例の一つだ。農薬散布は主に害虫駆除を始めとする防除対策や作物の発育を促進したり調整したりすることを目的とする。この作業は今まで人の手で行われていたが、広大な畑の隅々に対し厶ラなく撒いていくのは非常に骨の折れる作業だ。しかもそれを赤道に近い東南アジアの地域でするわけだから、長時間作業すると暑さで熱中症のリスクも高まる。

ところがこの農薬散布をドローンが上空から撮影しながらムラなく効率的に撒いてくれれば、農作業をする人の負担は圧倒的に減る。テラドローンはそこに価値を見出して、今回事業を譲り受けたわけだ。

両社のビジネス戦略

事業の買収はビジネスである以上、今回の件でテラドローンとAvirtechの両社にどんなメリットがあるのかはやはり考えないといけない。悔しいことにこの両社は非上場企業で財務状況を詳しく知ることができなかったので、ここでは私なりにメリットを推測してみたいと思う。

まずテラドローン側のメリットについてだが、これはやはり事業の拡大だろう。
テラドローンという企業はこれまで日本国内で測量やインフラの点検などを行ってきたが、今回、海外の農薬散布事業を買収できたことで自社のドローンビジネスを海外に向けて展開できるようになる。これを継続して利益が出せれば会社として大きな実績になるし、これを足掛かりにまた海外へ事業を展開したり、大きな案件を受注できる可能性が高まる。だからこそ海外の事業が買えるこのタイミングで買収に踏み切ったのだろうと思われる。

では、一方のAvirtech側のメリットはどうか?これはおそらく「他に力を入れたい事業があるからそちらを優先したい」のだと予想する。
Avirtechという企業はテラドローンと違い、ドローン事業を中心に行っているわけではない。農園の情報を効率的に提供するための通信機器や作物を育てる上で必要な周辺地形のマッピングなど、他で様々な事業を展開している。農薬散布事業の売却に踏み切ったのは、そういう他の事業で収益を上げることに優先したいのが理由ではないかと読んでいる。公式HPによれば「農業をデジタル化する」ことが活動目的なので、農薬散布とは別の項目で農業のデジタル化を考えているのかもしれない。

日本での活用

さて、ドローンが農業にも使えることが分かったところで、最後に日本での活用についても少し考えてみよう。ここまで話してきたのはあくまで東南アジアの農業に向けたドローンの活用である。では、日本の農業にドローンを活用するとしたらどんなケースがあるのか?

農林水産省が発表している統計よると、日本で農業に従事する人の数は年々減り続けていることが分かる。しかも2020年時点で、農業に従事する人のうち約7割が65歳以上という結果も出ており、この割合も年を経るごとに上がっている()。
つまり、日本の農業に従事する人の数は年々減り続けていて、かつ従事している人の高齢化も進んでいる。この状況は今後も続くことが予想されるので、このまま対策を打たずにいると様々な農業の経営が引き継がれず技術が廃れていったり、農業の規模が縮小して納税額がどんどん落ちたりといった悪影響が次々と出てくる。


農業従事者は年々減り続けている
農業従事者のうち65歳以上の割合は69.6%(2020年時点)
2015年度と比較しても全ての年齢層で減少が見られる
直近の標本調査による推定値でも農業従事者は約5%減少(2023年時点)

農作業目的でドローンが活躍するケース

ここでドローンの出番だ。

いままで手動で行ってきた農作業をドローンに自動で任せることで作業負担を軽減するだけでなく、畑の状態を上空から撮影し、そこで得たデータをソフトウェアを使って分析することで効率化と生産性の向上にもつながる。

日本の食文化は世界の比べてもレベルが高いのはみなさんもご存知だろう。海外にあるラーメン店や寿司屋に行列ができるのは、それだけ日本食が美味しいことの証だ。豊かな自然環境で育った食材と長年の調理法によって作り上げられた日本の料理が、安く、どこでも食べられるのは日本に生まれた者として本当に恵まれていると言える。
なればこそ、日本食の全ての源である農業を維持していくことは私達の生活のためにも、日本が世界に誇れる産業をまもるためにも、非常に重要なことだ。

現在、農林水産省ではテクノロジーを活用した農業、いわゆる「スマート農業」というのを推進している。このテクノロジーは今回紹介したドローンに限らず、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)など、さまざまな先端技術が当てはまる。

人口が減り続けている日本において、いまから急激に人口を増やすのは難しい。そこから農業に従事するも人を呼び込むのは更に至難の業だろう。ならば現状を理解した上で、省力化・効率化できるとろはしていかなければならない。それが豊かな日本食を食べ続けるために必要なことだし、そのための行動を促すことができるのは、他でもない私たち国民だ。

テクノロジーを活用することで解決できる課題はたくさんある。まずはそれを一つ一つ「知る」ことから始めていくことが大事だ。
私も日々勉強し、こうしてみなさんに「知るための機会」を提供していく。

2020年の農業従事者は約136万人、5年前の2015年に比べておよそ40万人ほど減少、標本調査による推定値ではあるが、2023年時点の農業従事者は約116万人、3年間でさらに20万人減少。加えてこの農業従事者のうち約7割が65歳以上、こちらは5年前と比べて約5%上昇、つまり65歳未満の農業従事者は5年前と比較しても減少している。(①2020年農林業センサス報告書、②令和5年農業構造動態調査結果(令和5年2月1日現在)

参考文献:
テラドローン、Avirtechのドローン農薬散布事業を買収。農業事業に本格参入へ - DRONE
2020年農林業センサス報告書
令和5年農業構造動態調査結果(令和5年2月1日現在)
テラドローン株式会社公式HP
Avirtech公式HP


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