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「リハ1〜5年目向け」根拠のある関節運動を提供しよう ー 基本を制する ー

関節可動域訓練。なんとなくでやってませんか?


こんにちは作業療法たくです。
ビジネス、リハビリ、スポーツ観戦に取り組んできた私ですが、
1つ気がついたことがあります。

それは『基本が一番大切』ということ。

セラピストがリハビリで行う基本的なアプローチは何か??

そう『関節可動域訓練:以下ROMex』がありますね。ただ、ROMexってなんとなくでやりがちでは無いですか?

「1日10回動かせば良いのかな?」
「何日固定したら拘縮するのかな?」

今回は文献をベースに関節やROMexについて記述していきたいと思います!

関節構造のおさらい

引用:看護rooHP

関節はこのような構造になっており、それぞれ役割があります。名称ごとに解説していきます。※これから先を理解するために必要な最低限の説明

・関節包(下記2点から構成される)
線維膜:骨膜の表層から続く丈夫な線維性の膜。
滑膜:血管に富む柔らかな膜。

・関節軟骨
関節面を覆っており、関節同士の衝撃を和らげる。摩擦を少なくする。
(氷同士の摩擦よりも摩擦係数が少ない)

・関節腔
滑膜から分泌される滑液で満たされている。滑液は関節軟膏に栄養を与える。

・靱帯
関節を補強する。一般的に関節包に癒着して、関節の過度な運動(脱臼するような)を阻止して損傷を防ぐ。

関節の神経事情

神経は関節包と靱帯、骨膜に分布していて痛覚線維と深部感覚線維が存在する。つまり痛みの受容や体の位置、運動の情報を中枢神経に伝える。

『重要』関節の栄養事情「血管等」

関節軟骨(軟骨細胞)には血管が分布していないため、滑液から栄養をもらいます。滑液はどこから来ているのかというと、滑膜から滲み出て来るのです。また、古くなった滑液は滑膜から吸収されて循環していきます。

滑膜には血管が豊富に分布しており、血液の一部が滑液になります。滑膜から滑液をこし出すためには滑膜の伸長、収縮刺激が重要です。(関節運動)つまり関節運動をすることで滑液の循環は良くなり、関節軟骨に栄養が行き届きます。

また、関節軟骨に滑液を染み渡らせるために、関節への圧迫刺激(膝関節でいう歩行のような)が重要と言われています。逆に言うと関節の不動は関節軟骨の機能低下を引き起こす可能性があります。

※老化した関節軟骨
老化した関節軟骨は保有する水分量が少なくなり、圧迫による強度が減少します。それにより圧迫の際、軟骨下骨に生じる力を分散させることができなくなり、骨関節炎を助長します。実際に変形性関節症では軟骨下骨に微細な骨折がしばしばみられるとか!


関節機能の低下について。何週間でどのように関節は拘縮する?


ここからリハビリらしい話になっていきます。どれくらいで拘縮がはじまるのか様々な文献で多少違い(固定法や固定部位により)はありますが、ここではまず大まかに抑えていきましょう!


・4週間の固定 筋肉性による可動域制限(拘縮)
※2週間時点で関節構成体に組織的変化あり。

・8週間の固定 関節性による可動域制限(拘縮)
※16週の固定では関節頭と関節窩の間に線維性結合が見られる。

参考:関節可動域制限に対するストレッチおよびモビライ ゼーションの効果―ラット膝関節不動化モデルを用 いた検討 著者:渡邊 晶規ら

次に1日に何時間の関節固定で拘縮を招くのかを見ていきます。


 ラットの膝関節を使った研究。1 週間連続固定する G 1,1 日 12 時間固定する G 2, 1 日 8 時間固定する G 3 および 1 日 4 時間固定する G 4 に分けた.固定時間以外における右足関節の動きは自由とし た。1 週間後,固定を除去した時の右足関節の背屈角度を測定した.〔結果〕背屈角度の有意な差が Group 4 のみに 認められた。〔結語〕関節拘縮発生予防のためには,20 時間 / 日の関節運動が必要である.。

参考:関節可動域制限の発生を予防するために必要な関節運動時間の検討 小野武也ら


そして↓こちらの研究では12時間の関節固定で関節拘縮ができるのか検討しています。こちらもやはり12時間の関節固定で関節拘縮が起こることを支持しています。


 右後肢を実験初日から最終日まで一日当たり12時間の足関節固定を行う「12時間固定肢群」とした.実験期間は1 週間である.〔結果〕一日当たり12時間の関節固定は関節拘縮を発生させた.

参考:一日12時間の関節固定がラット足関節拘縮発生に与える影響 吉永龍史ら

1日4時間以上の関節の固定は拘縮のリスクになるんですね。
最後に関節の固定期間に応じて関節がどのように変化していくのかを調査した研究をご紹介します。

ラットの膝関節を対象にギプスを使い固定してどの様な組織的な変化がみられたのかを調査した研究です。


2週固定群:関節前方の脂肪細胞の萎縮

4週固定群:関節半月板周囲で線維組織が増殖。半分の標本で関節軟骨と周囲組織が癒着。これにより関節腔が狭小化

8週固定群:線維組織の増殖で関節半月板と周囲組織の境界が不明瞭になる。全ての標本で関節軟骨と周辺組織が癒着している。関節の狭小化は4週目よりも進行していた。

16週固定群:関節軟骨と周辺組織の癒着が8週目よりも強まる。1つの標本では脛骨と大腿骨の間にはっきりとした線維性の結合が見られた。関節の狭小化が一層進行

32週固定群:脂肪細胞がほとんど見られず、線維組織に置き換わっていた。脛骨と大腿骨の間の線維性結合は強固なものが観察される。関節腔は著明に狭小化した。

参考:関節拘縮における関節構成体の病理組織学的変化 ーラット膝関節長期固定モデルを用いた研究ー 渡邉昌規ら


関節腔が狭小化するということは関節可動域が制限されることは想像できますよね。

関節腔は関節を構成する骨が副運動(転がり、滑り)を行うスペースです。
上記を見ると、4週目で関節腔が少し狭くなっていき、その後も順々に狭くなっていきます。
徐々に関節腔が狭くなっていくことと比例して関節的な要因で可動域制限が大きくなることがイメージできます。

どれくらいの関節の固定期間で拘縮が起きるか理解したところで、それに伴うアプローチをみていきましょう!!


リハビリにおける関節のアプローチについて


関節の固定をしたラットに対してアプローチした2つの文献を紹介します。

 4週間の不動ではストレッチで改善を示すが8週間の不動ではストレッチのみでは改善が乏しい(8週で拘縮を作ったラットを自由運動させる群とストレッチ群の有意差が見られなかった)これは4週の固定では筋肉を主体とした関節拘縮であるためストレッチが効くが、8週固定では関節組織による拘縮もあるため、筋肉へのアプローチでは難しい。そして8週の固定ではモビライゼーション(関節包の伸長アプローチ)が効果的である。

参考:関節可動域制限に対するストレッチおよびモビライゼーションの効果ーラット膝関節不動化モデルを用いた研究 渡邉昌規ら

 本研究では,ラットを用いて関節固定期間中に「1 日に1 度,1 度に5 回のROMex」を週あたりの実施日数を変えて行うことで,ROMex実施頻度の違いが固定関節の関節可動範囲の減少,関節内組織の変性に与える影響を検討した。ラットは無作為に,①無処置群,②ROMexなし群,③ROMex週1日群,④ROMex週3日群,⑤ROMex週5日群の5群に分けた〔結果〕ROM exの週あたりの実施頻度が多いほど,関節可動範囲の減少が抑制される傾向にあった。しかし,週に5日実施する条件でも関節可動範囲の減少を予防することはできなかった。組織学的評価では,ROMexなし群,ROM ex週1日群で関節腔内が結合組織により充填されていた。ROM ex週3日群,ROMex週5日群では軟骨表面に少量の結合組織の増殖像が確認され た。

参考:固定関節に対する異なる頻度の関節可動域運動が関節可動範囲に及ぼす影響 龍田 尚美ら

なお2つ目の文献は関節固定期間は5週間で固定2週目からROMexを開始しています。

まとめ

ここからは作業療法士たく的に解釈していきます。
関節固定2週目、4週目と固定が比較的浅い期間でも関節組織には変化が起きてくる。ただし、関節可動域制限を引き起こす程の変化ではないことが多い。

つまり、関節固定期間が浅い2週、4週目では筋肉が主な関節拘縮の原因になる。よって筋肉へのアプローチを目的としたストレッチが臨床的に効果を出す。

一方で固定期間が長い8週以上の固定ではより関節構造の組織的な変化が大きいので、筋肉へのアプローチを目的としたストレッチでは臨床的な効果が現れにくい。そのため、8週以上の長期間の関節固定でのアプローチでは関節の副運動(転がり・滑り)を意識したモビライゼーションが効果的である可能性が高い。

しかし、関節固定32週で見られた関節の構築する骨と骨の線維組織の結合は強直状態であり徒手療法での治療は難しい。

『最後に』ROMexは優しくね♡

ここまで固めな文章で書いていきましたが、不動とROMexに関して1つ体験談を書いていきます。

私は訪問看護ステーションで働いており、セラピストや看護師さんがチームで在宅医療を支えていきます。
ある時、在宅で寝たきりの利用者がいました。その方は看護師の介入のみでした。利用者さんが「関節が硬いから動かしてほしい」という要望があり、看護師さんが「ヨイショっ」と
股関節と膝関節を曲げると強い痛みが発症。翌日も発熱するという出来事。

不動期間のある関節はデリケートです。(疼痛閾値も上がり関節機能も低下するため)
じっくりゆっくり利用者さんの反応を見ながら動かしましょう。

補足

今回、関節に関して記事を投稿するにために関節に関する文献を漁りました!
この記事を読んでお気づきかもしれませんが、関節に関する文献は「ラット」を使用したものが多いです!まあ、倫理的に人で同じような関節拘縮を意図的に作ることは出来ませんよね!ただし、動物(人間以外)を使った研究で得られた知見のエビデンスレベルは少し落ちるようです。仕方がないことですよね!

最後まで記事を読んでいただきありがとうございました!
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また次の記事でお会いしましょう(^^)

参考書籍
・解剖学講義改訂3版 伊藤隆 高野廣子


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