トップ対談-2

【PART1】泉大津市xタクトピアトップ対談〜街をあげたグローバル人財育成とは〜

国際ハブ都市を目指す大阪府泉大津市とグローカルリーダーの育成をミッションに掲げるタクトピア。泉大津市長の南出賢一氏とタクトピア代表長井悠の対談の様子を2回に分けてお届けします。

浅岡:泉大津市の南出市長とタクトピア株式会社長井によるトップ対談がついに実現しました。進行はタクトピア、ラーニングデザイナーの浅岡が務めさせていただきます。

南出氏(以下南出)・長井:よろしくお願いします。

浅岡:まず最初に、昨年度から協力関係にある両者ですが、お互いにどのような印象をお持ちか教えていただけますか。

南出:そうですね。タクトピアはグローカル*というキーワードを持ちながら、どうやって多様性の中で自分を発揮するか、という大事な教育を実践されている志高い企業だなと感じました。こういった教育文化や街の文化がもっといろんなところで展開されて、醸成されていくと、子供たちのこれからの幸せに繋がったり、多様性の中で自分の役割を見つける大きなきっかけになるんだろうなと思いました。

*グローカル=グローバル+ローカル

長井:私は国際ハブ都市というビジョンを持って泉大津市の地理的、歴史的背景を熱く語る市長さんが印象的でした。タクトピアとしては学校や非企業さん、自治体や教育関係の企業さん等いろんな方々と学びを創っているんですが、21世紀の学びで一番重要なのはその環境だと思っています。泉大津市とは一緒にそういった環境を丸ごと創っていけるような、未来のある大きな仕事ができるんじゃないかと思っています。

浅岡:お互い良い関係を築き上げられているようですね。さて、今回の共同事業は人財育成がテーマとなっていますが、そこでお二人が考える人財育成の理想、あるいは考え方を教えていただけますか?

南出:まずは泉大津市で教育を受けて良かったなと思ってもらって、自分の子供にも受けさせたいなと思ってここに住んでくれる、そしてまた次の世代を育てていくという循環ができてほしいです。どんな時代でも自分の役割を見つけて、周りと協調、協働しながら幸せに生きていける、そういった力を泉大津市の教育で見つけてほしいなと思っています。今までの時代との違いとして、おそらく外国の方と接する機会が多くなるのは間違いありません。そうなると多様性の中でいかに自分の役割を見つけて力を発揮していくかはもちろん、AIやロボットが発展する中で論理的思考だけでなく人間にしかできない感性だとか心の部分をどう育てるかというのはすごく大事になってくると思っています。

浅岡:なるほど。今だけでなく、未来を見据えた人財育成ということですね。

これからの「グローバル」はアイデンティティや信念を持って行動に移せるかどうか

浅岡:では長井さん、タクトピアは「グローカル」というキーワードを掲げていますが、これにはどういう人を育てたいという思いが込められているのでしょうか。

長井:まず「グローバル」の部分、これは地理的に海外に行くという意味ではなく「どういう自分の中の心の成長があるか」ということだと思っているんですね。それは所謂「コンフォートゾーン」つまり自分が快適でいる範囲ですね、それを飛び出て、新しいものにぶち当たって学びを得た時にそこが自分の新しい領域になっていくように、境界線を超えていくということが別に国境である必要は無いんですよね。こういう「超えていく体験」みたいなのがグローバルな体験、グローバルなリーダーシップかなと思ってます。

南出:最近は「グローバル社会」ってことをなんとなく風潮的に是としている部分もあると思うんですけれども、むしろ自分たちのアイデンティティや地域に対する愛着、自分がどういった人間で、どういったオリジンを持った人たちがいるのかと言ったもっと根源的なものを大事にしていかないといけない時代になってくると思うんです。今って目に見える部分とか華やかな部分に目が行きがちですけど、根っこを大事にできるっていうことがグローバルの中でも自分達が力を発揮する上ですごく大事なことだと思っています。

長井:まさにそれが私たちの言う「グローカル」の「ローカル」の部分です。自分が生まれ育った街のアイデンティティや、自分の基礎体力、信念などをまず持てているかどうか。そしてそれを必ずしも同じ意見じゃない人々と相対した時にしっかり表明できるかどうか、行動に移せるかどうか、そういうところのローカルっていうのが必要なのかなと思います。これを併せ持つことで初めてグローカルなリーダーシップというものが育つのかなと思ってます。

南出:「基礎体力」という言葉が出ましたが、人生100年時代って考えた時に絶対に欠かせないのは健康なんですね。100年時代の健康寿命をどうにか伸ばせないかと考えたら、幼少期からの体作りが大事なんです。泉大津市でやっている足指プロジェクトもそうですし、自分の健康は自分で整えるということがより必要な時代になってくるわけです。健康な体があって、健全な精神があって、志や自分の役割を見つけて活動できるし、繋がっていく。こういったことを総合的に考えられるような街、人間をどう育んでいくかを我々は本気で考えなければならない。どんな時代でも幸せに助け合いながら活躍できる、そんな人財を一人でも育てたいと思っています。

長井:市長がおっしゃる通り、そういったグローカルの力が備わった人は世の中を良くしながら自分自身が幸せに生きることを実現できる人だと思ってまして、それをいかに周りに働きかけて行くかだと思います。それを私たちの会社は「ハック」と言っています。日本語ではあまり良いイメージではないんですが、ハッカーとは「すごいことをする奴」ていうことなんですよね。世界をハックしていく。驚きを持って良くしていく。自分の中で発見があって「こう成長できたぞ」とかっていう、そういうハックできる人財を育てていくということですね。

泉大津市で、誰でも平等に多様性に触れられるチャンスを

浅岡:「グローバル」という言葉が何度も出てきましたが、人によっては泉大津市がグローバル事業を行うと言った時に、それでは人がグローバルにどんどん外に出て行くだけで、市に貢献するような人は育たないという批判をする方もいらっしゃると思うんですが、これに関しては市長、どうお考えでしょうか?

南出:大事なことは泉大津市で教育を受けて良かった、だから泉大津市に恩返しがしたい、ここで子育てがしたい、離れていてもこの街のことが気になると思ってもらうことです。今グローバルになって何が問題って、飛べる人がどんどん飛んで行くだけなので、格差がどんどん広がる一方だということです。ですので格差なく誰もが機会を得られるっていうことがより大事になってくると思います。まずは誰もが所得の差関係なく教育に触れられる、やりたければチャンスが掴めるよっていう環境を市として整備できたら良いなと思っています。

長井:街ぐるみでできるっていうのは本当に希望がある話ですよね。

南出:国際ハブ都市を目指すということで、今年10月には日本語学校がオープン予定ですし、多様な優秀な人財が集まってくる素地が街にできつつあります。この地で多様性に触れられる環境があると、わざわざ外に行かなくもそういったマインドをセットすることが可能になるでしょうし。無茶苦茶に大きく考えるよりも、まずは近くにあるリソースを使って、この地域で実現できると思ってます。

浅岡:決してグローバルに外に出て行くことを促すのではなく、泉大津市にいながら誰もがグローバルに触れられる環境を作る、ということですね。

「我が事」として考えることで広がる視野と想像力

浅岡:これまで様々なプログラムを提供されてきたタクトピアですが、市長がおっしゃったように多様性に触れて認め合うような取り組みはありますか?

長井:そうですね、実は象徴的だった思い出があるんです。日中の問題が取り沙汰されていた数年前、ある中学生と話していて、個人の顔が見えていない関係だとお互い批判しがちなんだなと思いました。その子は中国の産品だから嫌だとか、中国ってこうだから行きたくないとか言ったりしていたのですが、「で、知り合いとかいるの?」って言うと別にいないんですね。そこで我々のプログラムの中では多様性を認めていく原体験をすごく大事にしています。それがあった時にさっきのコンフォートゾーンが広がっていくんですよね。

南出:今「原体験」って出ましたけど、いくら頭に知識が入っても学ぶことにはならないんですよね。多様な国の人と触れられるとか、そういう人間関係などの原体験から次の段階に広がっていく。なんて言うんでしょうね。どこまでを「我が事」と考えられるかだと思ってるんです。本気で自分の人生考える時には街や社会、業界の将来とか、自分の体験とか、すべてを合わせて考えて、「我が事ゾーン」が広い人財が生まれてくるとどんどん変わっていくだろうし。

長井:まったく同感です。タクトピアのプログラムでも今まで知りもしなかった国の人たちが、全然違う習慣やそこに込められた思いを話してくれる度に学びが増えていくと思っていて。その時に「あの国ってニュースじゃあんな風に言ってるけど実際にはどうなんだろう?」と疑問に思ったり。「もしかしたらこういう思いや背景があるんじゃないか?」と想像したり。「我が事」として考えることによってどんどん自分の視野あるいは想像力が広がっていくんです。更にそういう学びがあることによって、自分のことばかりにならない世界のあり方がスタートするんじゃないかなという気はしますね。

南出:最近はグローバリゼーションとIT化が一気に世界をボーダーレス化して、仕組みも変わってきて、それに対して違和感や不安を感じている人は多いと思うんですよ。そこで「我が事」として物申したり、自分でできる何かをやろうというようなマインドを持った人財が育ってくれると将来明るいですよね。そのきっかけを我々がどう作っていくかですね。

浅岡:なるほど。何か「きっかけ作り」の実例はありますか、長井さん?

長井:弊社ではそういった問題やテーマに対して自分たちなら何ができるだろうと問い返すことに気をつけています。そうしないと、ただ共感するだけで、テレビを観てるだけとそう変わらない。だから自分に何かできることがあるだろうかっていう思考に持って行けたら良いなと常に思ってます。100人がそういったことを考えた時に100人が皆が凄い解決策を考えるかはわからないですけど、それらが積み重なってどこかでブレイクスルーが起こるんですよね。

南出:その時にネットワークが繋がっていたら、いざっていう時に立ち上がれて良いですよね。

浅岡:世界のことをどれだけ「我が事」として考えられるか。そしていろんな人と繋がりを築き、そのネットワークを使っていかにアクションを起こせるか、そこが重要になってきますね。


お二人の「グローバル」「グローカル」に対する情熱と、そういった人財を育てるための素地作りのお話に聞き入ってしまいました。お二人の白熱した対談はまだまだ続きます。Part2の更新をお楽しみに!

Writer:浅岡諒
岩手県出身、東京育ち。明治大学で学びながらリーダー育成のための国際的学生組織”AIESEC”に所属し、学生の国際交流の推進に没頭する。大学卒業後にハバタク株式会社の1年間アジアインターンシップ”XIP”に参加し、ベトナムはハノイにて社会起業家のイノベーション創出の現場を支援。その後日本の大手ITベンダーへの勤務経験を経て、再びハバタクグループのタクトピアチームへ帰還を果たす。
タクトピアではベトナムオフィスに所属し、アジアを舞台とした研修事業およびアジア市場の開拓をおこなう。自分自身の原体験を通して若者に「だれもが自分の選択ひとつで人生を変えられるし、世界を広げていけるんだよ」とメッセージを発信することに使命感を抱いている。