ATM 18億円 パート2
ミナミに着く頃、いかつい男にデンジャラスがダニエルと友達になればコカインタダだよなんて話している。
次は密輸っすか?いかつい男が声ををひそめて尋ねている。
「まさか、今日は裏に回して儲けたし、しばらくは裏ビデオのマスターフィルムでやってくよ」デンジャラスが普通に話をしている。
大方予想はついていたが、そのまんまじゃないか。
いかつい男にもう少し密輸の話を突っ込んで聞いて欲しかったが、それ以上話を広げなかった。
今夜はこれ以上の展開はなさそうだ、後はテキーラを進めてくるくらいか?
今夜は酔っ払うわけにはいかない。全てが試されているようで、案の定テキーラの飲みを披露させられたが緊張が上回りまったく酔いが回らなかった。
途中、トイレで戻したがリュックの上部のUの字の取っ手に腕をくぐらせながら吐くくらい僕は神経を尖らせていた。
トイレから戻ると、白い粉がテーブルの上にある。いかつい男がカードのようなもので荒い粉を打ち砕き、円形を作る、そこに器用にラインを引いている。
そこにいるメンバーが丸めた千円札で鼻の中に吸引していく。
ひとまず僕はトイレに立つふりをして角のコンビニにダッシュした。
何食わぬ顔で戻ると、デンジャラスが僕に千円札を渡してきた。
「ダニエルはもっとぶっ飛ぶものアルヨ」
僕は取り出してみんなに見せた。
透明のビニール袋には女性物のパンツが入っている。
スーハースーハーと恍惚の表情で吸い込む。
白目を向いてヨダレを垂らすと、みんながゲラゲラ笑いだした。
「ダニエルよりいいブツ持ってる奴なんてそうそういねーよ」周囲は盛り上がっていきピュゥと何人もが口笛を吹いた。
「これがいちばんキマるんだよ」決め台詞と共に僕もピュゥと口笛を吹いた。
帰りの車はベンツの乗り心地の良さを忘れるほど、酔いと吐き気との戦いだった。
天界へのエレベーターに乗る頃には疲労が一気に迫り来る。
ここからなんだ、寝ているうちに金を抜かれたら僕のここまでの苦労が水の泡だ。
ペントハウスの大きな窓に向かって「Mexicoいちばん〜知ってたー?」陽気に振る舞いながら喝を入れるかのように叫んだ。
「ダニエル、うるさいよ、今夜はもう寝よう」とジャケットを脱いだデンジャラスはあくびをする。歯磨きを済ませ戻って来たデンジャラスはそのまま静かにベッドに入った。
僕はリュックを抱えて洗面所に行き、何度も何度も冷水で顔を洗った。
最後にトイレで吐いて、口をゆすぎ鏡を見る。
血走った瞳が見つめ返す。覗き込む顔が自分の知らない男の顔になっていた。
口唇の端が少し滲んでいる。東京に着く頃には黒い斑点のようになっているだろう。
いろいろと考えを張り巡らせたが、僕はリュックのUの字のフックにバスローブの紐を通し首の後ろで結びリュックを腹に抱えショルダーを肩にかけて眠ることにした。