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「漫画好きの独り言」『チ。―地球の運動について―』

『チ。―地球の運動について―』を手に取ったとき、ただの歴史漫画だと思っていた。地動説が禁忌とされた中世を舞台に、主人公たちが真理を追い求める話。けれど、ページをめくるごとに、そんな安易な予測は吹き飛ばされ、知識への渇望が人間をどう突き動かすのかを、これほど深く感じた作品は初めてだった。

物語の中心にあるのは「知を求める人間の覚悟」だ。物理的な危険、社会的な抑圧、信仰や権力の壁──地動説を信じ、追求することが文字通り「命を懸ける行為」として描かれている。現代に生きる私たちにとって、科学を疑うことはむしろ珍しいことだが、当時は「常識」とされるものがひっくり返ることが、すべてを脅かすほどの恐怖だった。そのリアルな緊張感が、作品全体に漂っている。

主人公をはじめとする登場人物たちの決断や苦悩には、強い意志がある。真実を追い求めるその姿勢に、「一歩踏み出す勇気」や「自分を信じる強さ」を感じ、ふと我が身に置き換えてしまう。自分が同じ立場に置かれたら、果たして真実を求め続けることができるのだろうか。日々の些細な決断でさえ迷いがちな自分には、そんな問いがずしりと心に響いてくる。

また、この作品の魅力は、知識の重みを問うだけではない。知識が与える「生きる意義」を見つめ直す場面も多くある。知ることの恐ろしさと、しかしそれ以上に知ることの楽しさ。彼らの目には、未知の真理を追い求める好奇心が宿り、その輝きが作品全体に広がっている。知ることが単なる情報収集ではなく、生き方そのものになるという考え方に、新しい発見をもらえた気がした。

私が『チ。』を読み進めるたび、地動説をただの「知識」として捉えていた自分が、何か大切なものを見落としていたことに気づかされる。この作品は、「知ることの意味」を鮮やかに描き、知識が人間の生き方を変え、歴史を動かしてきたことを再認識させてくれる。科学や真理がどれほど困難な道のりの上に成り立っているのか、その歩みをしっかりと感じさせてくれる作品だ。

『チ。―地球の運動について―』を通して、知ることの勇気、真実を求める人間の本能、そしてそれを超えていく覚悟。その全てが詰まったこの物語が、今なお私の心に強く響き、今後もその衝動を忘れずにいたいと感じている。


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