第42章 心理的プレッシャーとの戦い
第42章 心理的プレッシャーとの戦い
ハイリミットルームでの特別イベント「アリーナ戦」が始まって以来、翔太の日常は一変した。
一般のホールとは比べものにならない緊張感、そして勝負に敗れればすべてを失うという過酷な現実。
「ここでは、技術だけじゃ勝てない――精神力も試されるんだ。」
翔太は、毎回の勝負のたびにそのことを痛感していた。
冷静でいること。
迷いを見せないこと。
相手に心を読まれないこと。
スロットのリールを回すシンプルな行為の裏で、プレイヤー同士の心理戦はすでに始まっている。
田中蓮司との再戦の予感
翔太はあの日、田中蓮司との初戦をギリギリで制した。
しかし、彼は分かっていた――田中がそのままで終わるはずがないことを。
「次に対戦するときは、もっと手強くなっているだろうな……。」
思わず、こめかみを指で押さえる。
田中との戦いは、技術だけではなく心理戦の厳しさを翔太に教えた。
あの冷静沈着な態度、相手の動揺を誘う言葉、そして油断させた瞬間に仕掛ける鋭い一撃――すべてが計算され尽くしていた。
「次は、俺も心を試されることになる。」
翔太はこれまで、パチスロの技術を磨くことに集中してきたが、心理的な圧力とどう向き合うかという課題に直面していた。
山口誠一の特訓――揺さぶりに耐える力
その不安を抱えたまま、翔太は山口誠一を訪ねた。
薄暗い雀荘の一角で、山口は相変わらず渋く煙草をくゆらせていた。
「なるほどな、心理戦か。」
翔太の話を聞き終えると、山口は口角をわずかに上げる。
「お前もついに、そのステージに来たってわけだな。」
「どうすれば、もっと冷静でいられるんでしょうか……？」
真剣な顔で問いかける翔太に、山口はゆっくりと答える。
「簡単さ――"自分を疑わないこと"だ。」
「自分を……疑わない？」
「ああ、相手の言葉や態度に惑わされた瞬間、人はブレる。だが、何より厄介なのは自分の中に芽生える疑念だ。」
山口は鋭い視線を翔太に向けた。
「お前はこれまで積み重ねてきたものを信じろ。相手がどう揺さぶってこようが、最後に頼れるのは自分自身だ。」
その言葉が、重く翔太の胸に響く。
"最後に頼れるのは自分自身"――。
実践訓練――極限の心理プレッシャー
「よし、実践で試してみるか。」
山口はニヤリと笑い、古びたパチスロ台の前に座った。
「ルールは簡単だ。1,000枚の持ちメダルで勝負しろ。ただし……俺は遠慮しねぇぞ。」
その言葉の通り、山口は容赦なく翔太に揺さぶりをかけ始めた。
「おいおい、そんな押し方で本当にいいのか？」
「お前、今ビビってるだろ？」
「ここで引くのか？ それとも、男を見せるのか？」
冷静に回していたはずのリールが、次第に揺れるように見え始める。
「こんなにも揺さぶりがきついのか……。」
額に汗が滲む。指先がわずかに震えた。
プレッシャーに打ち勝つ瞬間
しかし――翔太は思い出した。
"最後に頼れるのは自分自身"。
目の前のリールを信じる。今まで培った技術と直感を信じる。
「……揺さぶりなんかに負けるか。」
彼は深呼吸をして、冷静にリズムを取り戻した。
そして、ついにリールが止まる。
「ビッグボーナス確定。」
赤い7が揃った瞬間、翔太は確信した。
「俺はもう、惑わされない――！」
翔太の変化――揺るがぬ意志
勝負が終わり、翔太は息を整えながら立ち上がった。
山口は満足げに頷き、煙草を指で弾く。
「へへっ、ようやく戦える顔になったな。」
翔太は拳を握りしめ、強くうなずく。
「ありがとうございました。次の対戦では、必ず勝ちます。」
心理戦に打ち勝つためには、相手ではなく自分と向き合うことが重要なのだ。
この覚悟を胸に、翔太は再びハイリミットルームへと向かう。
そこでは、さらなる強敵たちが彼を待ち受けていた。
しかし、今の翔太はもう迷わない――どんなプレッシャーも、乗り越えてみせる。