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第38章 翔太の個人的なブレイクスルー
第38章 翔太の個人的なブレイクスルー
ホール内に響く電子音の中で、翔太はじっとディスプレイを見つめていた。
この世界に飛び込んで数ヶ月が経った。
データ分析、直感、ホール内の力関係、店との駆け引き――多くのことを学び、経験を積んできた。
だが今、翔太は一つの壁にぶつかっていた。
「このままじゃ、いつか限界がくる……」
勝率は悪くない。
むしろ、以前に比べれば遥かに安定している。
しかし、どこか物足りなさを感じていた。
もっと上に行くための「決定的な何か」が足りない。
翔太は、それが何なのかを探し続けていた。
己の「型」を持つということ
ある日、西田と酒を飲みながら、翔太はぼそりと呟いた。
「俺、今のままじゃダメな気がするんです……。」
「ほぉ……どうした?」
「勝てるには勝てるんです。でも、結局"相手の出方"に振り回されてる気がして……。」
「ふむ……。」
西田は煙草に火をつけ、煙をゆっくりと吐き出した。
「お前さ、自分の"型"を持ってるか?」
「型……?」
「そうだ。確率やデータを気にするのは当然だが、"自分がどういうプレイヤーなのか"を知らなきゃ、一生"流される打ち手"のままだ。」
「……俺が、どういうプレイヤーなのか。」
「例えば俺は"狙い撃ち型"だ。無駄なリスクは極力避け、確実に勝てると判断した時だけ打つ。」
翔太は考えた。
自分は、どんな打ち方をしてきたのか。
運を信じるか、確率を信じるか。
リスクを恐れず攻めるか、安全に立ち回るか。
データを重視するか、それとも"場の流れ"を読むのか。
自分のプレイスタイルを、まだ確立できていないことに気づいた。
「型が決まれば、ブレねぇし、迷わねぇ。それが、お前の"強さ"になる。」
西田の言葉が、翔太の胸に深く刻まれた。
プレイスタイルの選択
翔太は、自分に合ったスタイルを見極めるため、これまでの戦いを振り返った。
・データ分析を駆使した精密な立ち回り
・直感を頼りに"流れ"を読む
・リスクを恐れず、一撃に賭ける大胆な戦法
翔太は、どれか一つに絞るべきか悩んだ。
だが、答えは意外なところにあった。
「俺は……バランス型かもしれない。」
データも重要だが、それだけでは勝てない。
流れを読む力も、時には必要になる。
時にはリスクを取る勇気もなければならない。
「型を持たないことを"型"にする……?」
西田のように徹底的にリスクを避けるのも一つの道。
しかし、翔太にはそれがしっくりこなかった。
リスクと安定、確率と直感。
それらを状況に応じて使い分けるプレイヤーになろう。
それが、自分にとって最適な道なのではないか。
翔太は、ようやく自分の方向性を見つけた気がした。
「試す」ことの重要性
決意を固めた翔太は、新しいスタイルを試すべく、ホールに足を踏み入れた。
慎重になりすぎず、かといって無謀にもならない。
データを重視しつつも、感覚を信じる。
リスクを取るべきところでは躊躇しない。
すると、不思議なことに、今までよりも迷いが減り、打ち方が安定してきた。
「なるほどな……"自分のやり方"が決まると、ブレなくなるってことか。」
試行錯誤を繰り返しながら、翔太は少しずつ自分の「型」を磨いていった。
その結果――
彼の勝率は、目に見えて向上していった。
個人的なブレイクスルー
ある日、翔太はふと気づいた。
「……俺、変わったな。」
数ヶ月前までは、ただの素人だった。
何も知らず、ただ目の前の台を打っていただけだった。
しかし今は違う。
自分なりの考えを持ち、自分の意思で立ち回っている。
「これが……"個人的なブレイクスルー"ってやつか。」
西田にそのことを話すと、彼はニヤリと笑った。
「やっと"プレイヤー"になったってことだな。」
翔太は深く頷いた。
だが、これはまだ通過点に過ぎない。
本当の勝負は、これから始まる――。