
第40章 さらなる高みへ
第40章 さらなる高みへ
煌びやかなホールの片隅で、翔太はじっとスロットのリールを見つめていた。
耳に届くメダルの音は、これまで幾度となく聞いてきたはずなのに、今日はどこか違って聞こえる。
山口誠一のもとで学び、数え切れない試練を乗り越えてきた。
真理に励まされ、時には彼女の厳しい忠告を受け止めながら、翔太は成長を続けてきた。
しかし、彼は分かっていた。
「このままじゃ、まだ山口さんの背中すら追いつけない……。」
ホールでの勝負に慣れ、安定して勝ちを拾えるようになった今も、翔太の心には焦りがあった。
「もっと上に行かなくちゃいけない。俺は、この程度で終わるつもりはないんだ。」
翔太の目指す先――それは、パチスロの世界で"本物"と認められるプレイヤーになること。
そのためには、今いるステージを越え、さらに高みを目指す必要があった。
そんな翔太に、運命が新たな扉を開く。
届いた特別な招待状
ある夜、翔太がいつものようにデータをまとめていると、ホールのスタッフから声をかけられた。
「石田さん、これを。」
手渡されたのは黒い封筒――それは、一般のプレイヤーには決して届かない、特別なものだった。
翔太は胸の鼓動を感じながら、封を切った。
「プライベート・ハイリミットルームへの招待状――。」
その瞬間、全身に緊張が走った。
ハイリミットルーム――それは、限られた者だけが踏み入ることを許された特別な空間。
通常のベット額とは桁違いの金額が動き、そこに集うのは、腕に覚えのあるプレイヤーたちだけ。
一度足を踏み入れれば、勝てば大きな栄光を手にできるが、負ければ二度と戻れないこともある。
「ついに、この世界に足を踏み入れる時が来たんだ。」
翔太は手の中の招待状を握りしめ、自分自身に誓った。
「ここで勝つ――それが、俺の次のステージだ。」
山口誠一の忠告
翌日、翔太はこの招待状のことを山口に報告した。
「ああ、ついに来たか。」
山口は懐かしむような眼差しで封筒を眺めた。
「ハイリミットルームってのはな、一般のホールとは全く違う世界だ。遊びで行く場所じゃねえ。」
翔太は真剣な表情で頷く。
「そこでは、腕だけじゃ勝てねぇ。大事なのは……"人を読む力"だ。」
「人を……読む力?」
「お前は今まで台と向き合ってきた。だが、ハイリミットでは"相手"もまた勝負の一部なんだ。」
山口は煙草に火をつけ、一息吐いた。
「プレイヤー同士の心理戦――それを制さなきゃ、生き残れねぇぞ。」
翔太はその言葉を噛み締める。
単なるスロットの目押し技術だけでは、もはやこの先には進めない。
相手の思考を読み、先を見越し、冷静に立ち回る。
翔太は、山口の言葉の重みを胸に刻み込んだ。
真理の不安
「翔太……本当に行くの?」
その夜、翔太が真理に話すと、彼女は不安げな表情を浮かべた。
「ハイリミットルームなんて、普通の人が行く場所じゃないわ。何かあったら、どうするの?」
翔太は笑みを浮かべ、彼女の手をそっと握った。
「大丈夫だよ、真理。俺はもう逃げない。ここで止まったら、何も変わらないから。」
彼女はしばらく何かを言いかけてから、ため息をついた。
「……翔太がそこまで決めてるなら、もう何も言わない。でも、無理だけはしないで。」
翔太は深く頷く。
真理が心配してくれる気持ちは痛いほど分かる。
だからこそ、勝って証明するしかない。
ハイリミットルームへの道
招待状に記された日が訪れた。
翔太は、これまで以上に集中し、心を落ち着けながら、ホールの奥にある特別な扉の前に立つ。
扉の前には黒服の男性が立っていた。
「石田翔太さんですね。お待ちしておりました。」
翔太は無言で頷くと、深呼吸を一つしてその扉をくぐった。
そこに広がっていたのは、まるで別世界のような光景だった。
豪華な内装、静寂を支配する空気、そして――
プレイヤーたちの鋭い眼差し。
すでに数人がテーブルについており、誰もが一流の風格を纏っていた。
「ようこそ、ハイリミットルームへ。」
低く響く声とともに、ゲームが始まる。
ここは、すべてが自己責任の世界。
勝てば栄光、負ければ――。
翔太は震える拳を握り締め、ゆっくりと席に着いた。
「ここが、俺の新しい戦場だ――。」