LLM時代の新たなコンサルティングモデルを目指して
LayerX AI・LLM事業部(以下AL事業部)の小林です(@yuki_koba8)。コンサルティングチームのマネージャーをしています。
AI・LLM事業部は、「Ai Workforce」というプロダクトを提供するとともに、「AIオンボーディング」というコンセプトを軸にコンサルティングサービスを展開しています。
スタートアップのコンサルティングというと、プロダクトの導入支援だけにとどまるイメージを持たれることが多いかもしれません。
しかし、AL事業部では単なる導入支援だけでなく、業務改革支援からAI戦略支援まで幅広く手掛ける中で、LLM時代の新しいコンサルティングモデルの構築に挑戦しています。
ChatGPTの登場以降、「LLMの登場によってコンサルファームのビジネスモデルが大きく変わるのではないか?」といった声を耳にする機会が増えてきましたが、私たち自身も実際にコンサルティングを行う中で、その大きな可能性を実感しているところです。
本記事では、「AIオンボーディング」コンサルティングの背景や具体的な取り組み内容、そして取り組みを通じて見えてきたコンサルティングビジネスの将来像について、具体的な事例を交えながらお伝えします。
AL事業部におけるコンサルティングの位置づけ
コンサルティングはプロダクトと並ぶ事業の要
「LayerXは、バクラクやALTERNAといったプロダクトを提供する“プロダクトカンパニー”ではなかったのか?」と疑問に思う方もいるかもしれません。実際、多くのスタートアップ企業は自社開発のプロダクトを広めることを注力しており、コンサルティングはあくまで導入支援の一環として位置づけられがちです。
確かに当社もAi Workforceというプロダクトを中心にビジネスを展開し、コンサルファームのように純粋な戦略策定やSI(システムインテグレーション)の大規模組織を抱えているわけではありません。
しかし、プロダクトと同じくらいの比重でコンサルティングを重要視している点が、AL事業の大きな特徴です。
LLMを業務に活用するためには、LLMの特性や得手不得手を見極め、既存業務フローと連携させたり、AI出力を人間がレビュー・補正する体制づくりをしたりするなど、実装・運用の現場では地道な取り組み、改善が欠かせません。
これらを企業の現場で確実に機能させるためにはコンサルティングの力が不可欠であるため、AL事業部はプロダクトとコンサルティングを事業の両輪と位置づけ、大きく育てようとしています。
業務改革からAI-CoE、さらにはAI戦略まで
AL事業部が提供するコンサルティングサービスは、主にAi Workforceの導入に伴う業務改革支援を柱としています。
企業や業界特有の文化、慣習、既存システムとの整合性などを踏まえ、LLMを前提とした業務フローへ再設計するには幅広い知識が必要です。
業務コンサルタント的なドメイン知識と、システムコンサルタント的な視点をあわせ持つことが求められます。
さらに、一度LLM導入プロジェクトを成功させると、企業全体のAI戦略構想へと支援範囲が広がるケースが多く見られます。
たとえば、「AIセンター・オブ・エクセレンス(AI-CoE)」を立ち上げ、各部門にAI活用を浸透させる仕組みを整えたり、新しいプロジェクトを次々と創出するための支援に乗り出したりすることがあります。
こうした一連の工程は、もはや単なる製品導入の枠を超えています。AI・LLMの専門家として企業のデジタル変革を一気通貫でサポートする必要があるのです。
AIオンボーディングとコンサルティングの関係
LLMは「優秀な新卒」に過ぎない
私たちはLLMを「優秀な新卒」と例えることがあります。
LLMはインターネット上の膨大な情報を学習しているため、知識量だけを見れば世界トップレベルで博学な新入社員と言えるかもしれません。
最近はOpenAI o1のようなreasoningモデルにより推論力や思考過程も飛躍的に向上し、理由を説明しながら回答する、あるいは複雑な要件を整理して結論を導くような高度なタスクにも対応できるようになっています。
しかし、いざ企業実務で「人間社員並みに」活用しようとすると、まだまだ課題が残ると感じるのも事実です。
新卒社員が日々の業務や上司からの指導を通じて社内ルールや文化を学ぶように、LLMにも企業独自の知識・情報を学習させる「AIオンボーディング」が必要だからです。
人材育成に関するノウハウは、「部下の育て方」「任せるコツ」といった書籍や、企業の歴史の中で培われたマニュアルや暗黙知などが豊富に存在します。
しかし「AI育成」の手法はまだ確立されておらず、事業部長の中村がnoteで指摘しているように人間への指導とは異なる勘所があるため、企業が独力で対応しようとするとリソースや知識の面で限界が生じやすいのです。
こうしたノウハウが確立されていない現時点では、AI・LLMの専門家によるコンサルティングが非常に重要になります。
私たちはこのフェーズを「AIオンボーディング」と呼び、LLMが自社業務にスムーズに溶け込み、成果を出せるように支援しています。
LLMの業務活用に不可欠な地道な業務設計
コンサルティングの現場で日々頭を悩ませているのは、「100%の精度が期待できない場合にどうすべきか」という問題です。
たとえばセキュリティや正確性が非常に重要な業務では、LLMの出力をどこまで信用するか、どのタイミングで人間のダブルチェックを入れるか、あるいはルールベースのシステムや既存のワークフローとどうすみ分けるかといった、業務全体の設計が欠かせません。
さらに、LLMが取り扱う領域の中には「これまでシステム化が難しい」とされてきた業務も少なくありません。
過去の機械学習ではルール化が難しかったり、例外処理が多いため属人化していた業務を、LLMは自然言語の柔軟性で支援できます。
しかし、そのぶん「口頭や暗黙知でのみ共有されているルールをどのように形式化し、LLMに学習させるか」という新たな課題が出てきます。
こうした問題を解決するには、業務知識とAI知識の両方を兼ね備えたコンサルタントの力が必要です。
理想を言えば、すべてを自動化してくれるAIエージェントが登場し、業務設計まで自動で行ってくれるのがベストでしょう。
しかし現時点でのエージェント技術には限界があり、レイテンシやコスト面でも課題が残っています。
そこでLayerXでは「ワークフロービルダー」というツールを用意し、コンサルタントが顧客の業務に合わせてAIワークフローを設計・実装するスタイルを採っています。
コンサルタントの中心的な役割は、「この業務をLLMに任せるべきか、ルールベースで処理すべきか」という人間とAIの適材適所を見極め、ワークフローとして具現化することにあるのです。
技術トレンドのキャッチアップコスト
AI業界は驚くほど速いスピードで進化しています。
OpenAIからは新しいバージョンが次々にリリースされ、AnthropicやMeta、国内ベンダーのモデルも日々アップデートを続けています。
そのたびに、以前は不可能だと考えられていたことが急に可能になる事例が増えています。
わかりやすい例としてOpenAI o1などのreasoningモデルが挙げられます。
従来モデル(4oなど)と比べて推論能力や思考能力が飛躍的に向上した結果、業務適用の幅が一気に拡大しました。
また、11月の4oモデルでトークン上限が増加した際には、従来は処理しきれなかった例外パターンをカバーできるようになり、プロジェクトが一気に進展した事例もあります。
新しいモデルを導入すると性能向上が期待できる一方、挙動の変化に合わせた検証コストやデグレのリスク、コスト増なども発生します。
ワークフローの再設計が必要になる場合もあるため、企業内の担当者が独力ですべてをキャッチアップするのは容易ではありません。
本業と並行して最新情報を追い続けることは、とても負荷が大きい作業です。
そこで重要になるのが、LLMの研究動向やアプリケーションを常にウォッチしているコンサルタントです。
LayerXでは創業期から海外ニュースや論文を日次でチェックし、さらに週に一度「ニュース斜め読み」というミーティングを開いてビジネスサイド・エンジニアサイドの最新トピックを共有しています。
(ニュース斜め読みで収集している情報はニュースレターとして毎週発行しています)
日々のSlackやミーティングを通じてR&Dに強いエンジニアの解説を聞く機会も多く、コンサルタントも自然と最新の技術トレンドをキャッチアップしやすい環境です。
LLM時代の新しいコンサルティングモデル
LLMツールによるQCDの非連続的向上
私が最も強く確信しているのは、LLMツールの活用によってコンサルティングサービスのQCD(品質・コスト・納期)が非連続的に向上するということです。
コンサルと聞くと、「パワポ職人」「Excel職人」といったイメージを持つ方もいるかもしれません。
裏を返せば、多くのコンサルタントがMS Office以外のツールを使わず、意外なほどアナログな業務フローで作業しているともいえます。
私自身、コンサルファームからスタートアップに転職した際、社内ツールの多さに最初は驚きました。
恐らくファーム出身の方であれば、多かれ少なかれ同じ経験をするのではないでしょうか。
一方で、すでに「自社LLMツール」を開発し、リサーチや議事録作成などの業務効率化に取り組んでいる大手コンサルファームも出始めています。
たとえばアクセンチュア様の「PWPバディ」のように、社内でAIを活用して業務効率化やアイデア出しを支援している事例がメディアなどでも紹介されています。
ただし公開情報を見る限りでは、リサーチや壁打ちをサポートする程度にとどまっている印象を受けます。
LayerXが目指しているのは、エンジニアと一体となってコンサルティングのQCDに直結するツールを開発・活用することで、コンサルティングのビジネスモデルに影響するほどの大きなブレイクスルーです。
具体的には、顧客とのコミュニケーションをモックアップやワークフローのプロトタイプを使って進める取り組みは既に実現しています。
エンジニアやデザイナーでなくても、LLMベースのローコードツールを使うことで、高精度のモックアップやプロトタイプを素早く作成し、業務プロセス設計やシステム導入を飛躍的にスピードアップできますし、さらには成果物の品質向上にも大きく寄与できます。
また、コンサルティング業務の大半を占める「既存業務の分析」と「AIワークフローの設計」についても、顧客が持つ雑多なドキュメントから業務プロセスを分析するツール、そしてAIワークフローを自動生成するツールの開発を進めています。
AIワークフローの自動生成に取り組む事例は世界でも徐々に増え始めており(ご参考:AFlowというフレームワークの研究論文)、LayerXも独自のR&Dを進めています。
こうした取り組みが実用レベルに達すれば、コンサルティングサービスの生産性と品質が同時に向上し、結果的に顧客も低コストかつ高付加価値のサービスを享受できるようになるでしょう。
さらに、コンサルファーム各社が自社開発ツールを活用し、顧客ごとに最適化した形で提供する能力が競争力の差になる時代が来るとも考えています。LayerXがバクラクなどで培った高いプロダクト開発力を持っていることは、こうしたツールの素早い試作や改善に大きく貢献しています。
アジャイル&継続的アプローチの重要性
LLMを活用したシステムには、「モデルの進化スピードが速い」「学習不要でプロンプト調整のみで精度向上が狙える」といった特徴があります。
従来のシステム導入や機械学習プロジェクトでは、開発からリリースまで年単位の時間がかかり、運用が安定するまでにも大きなコストがかかりました。
一方、LLMの場合はプロンプトの調整やモデルアップデートのみで劇的に性能が向上することがあります。
この特性を最大限に活かすには、まずはリスクが低い業務領域から導入し、アジャイルに実装を進めるアプローチが適しています。
ユーザーからのフィードバックを得ながら段階的に適用範囲を拡大し、新バージョンのモデルがリリースされたら試験的に導入し、効果があれば運用に組み込む。
そのようなスピード感と柔軟性が、LLM導入を成功に導くカギといえます。
実際、LayerXがAi Workforce導入を支援した多くの企業では、初回プロジェクトが成功するとそのまま次のフェーズに進むケースが少なくありません。
たとえばMUFG様とのプロジェクトでは、まず「提案書のナレッジシェア」という相対的にリスクが低い領域から導入し、次のフェーズとして「提案書の自動生成」というより難易度の高い領域に着手することを議論しています。
これは従来のシステムや機械学習に比べ、短期間で導入・拡張を進めやすいLLMならではのスピード感と拡張性を活かしたアプローチの一つです。
ベンチャーやブティックファームがリードする時代へ
従来、大規模案件といえば100人単位のコンサルタントを動員し、年単位でプロジェクトを回すイメージがありました。
しかしLLMツールの活用により、一人ひとりの生産性が飛躍的に向上し、これまで時間がかかっていたドキュメンテーションや調査などを自動化・半自動化できるようになります。
その結果、小規模なAIベンチャーやブティックファームであっても、大手コンサルファームに匹敵する規模の案件をこなせる可能性が高まってきています。
実際、LayerXでも一般的には大手ファームが受注しそうな大規模案件を、Ai Workforce導入の相談という形で任される機会が増えてきました。
また、大手ファームと共同でご支援する案件も同じくらい増えています。
人海戦術に頼らなくても、AIツールと人間の知見を組み合わせることで、大手コンサルファームに劣らない成果を出せる事例が増えているのです。
コンサル業界ではこの10年ほど、大手ファームによる大量採用と規模拡大の流れが続いてきました。
しかし、LLMによる業務効率化が進むことで、大規模化の必然性が薄れ、専門に特化したAIベンチャーや少数精鋭のブティックファームがツール開発とスキル活用を武器に大手に対抗できる時代が到来しつつあります。
We Are Hiring — LLM時代の新たなモデルを共に作ろう
これまでご紹介してきたように、AL事業部ではAIオンボーディングを中心としたコンサルティングをプロダクトと並ぶ主要領域と位置づけ、LLM時代の新しいコンサルティングモデルを模索しています。
LayerXならではのプロダクト開発力とR&D文化を背景に、コンサルティングファームで培った問題解決能力やプロジェクトマネジメント力を持った方々が加わることで、コンサルティングの未来像が一層拡張していくはずです。
そうした未来を想像すると、私たちも日々ワクワクしています。
私たちと一緒に「LLM時代の新しいコンサルティングモデル」をつくり上げていく仲間を募集しています。
ご興味をお持ちの方は、ぜひご連絡ください。
いきなり応募ではなく、まずは「LayerXの事業や組織、働き方を知りたい」「本記事の内容を踏まえて具体的な議論をしたい」という方も大歓迎です。
以下のOpen Doorからお申し込みいただければと思います。
また、コンサルティングチームではデータアナリスト出身者も大いに活躍中です。下記のnoteもぜひご覧ください。
LayerXのコンサルタントには多様なバックグラウンドの人材が所属しており(私も日銀→コンサル→ベンチャーという変わった経歴です)、その後のキャリアパスも幅広い選択肢があります。
中長期的なキャリアにお悩みの方も、お気軽にご相談ください。