ショートショートな日々 2日目 脅威の柏餅ステッキ
ある日学校から家に帰っている途中、近所の商店街でこんな張り紙を見つけた。
『お年寄りと小さいお子様には売りません!』
なんだろう。普通、お年寄りと小さいお子様の組み合わせなら、食べる時は注意してください! とかじゃないか?
ほら、こんにゃくゼリーみたいな感じで。
でもこれは、そもそも売らないと言っている。いったいどんな店の張り紙なんだろう?
『お年寄りと小さいお子様には売りません! by.柏餅ステッキ店』
「……ん? 柏餅ステッキ?」
なんだそれ? 柏餅店ならわかるけど、柏餅ステッキ?
一体どんな店なんだろう。少し気になるな。
「ここか……」
商店街の端、それも日の当たりにくい場所にその店はあった。
『柏餅ステッキ店』
なんだか怪しそうな店だ。その場を引き返して帰ろうか、と思う。
けど、せっかく帰り道を逸れてまでやってきたんだ。
少しだけ覗いてみよう。
「おじゃましまーす」
古めかしい横開きの扉を開けて中に入る。
すると店主なのか、髪のない頑固そうなおじさんがジロりと睨んできた。
「おじゃましまし……」
「ちょっと待ちな」
「……はい」
ガラガラと扉を閉めて退散しようとしたら、おじさんが低い声を発した。
その有無を言わせないような圧力に屈してしまい、すぐさま店の中に入る。
「おい、扉を開けっぱなしにすんな」
「あ、すみません」
慌てて扉を閉める。
「お前、柏餅ステッキを買いに来たんだろ。ちょいとそこで待ってな」
「え? えっと、それは……」
「あ? まさか冷やかしに来ただけだって言うのか?」
「い、いえ! とんでもない!」
「ふん! なら黙って待ってな」
そう言っておじさんは店の奥に行ってしまった。
まさか冷やかしに来ました! って言えるわけないし……。どうしよう……。
ま、まあ、お金はあるし、柏餅ステッキとやらも一つくらいなら買えるだろう。
そう思うと、心に余裕が出てきた。僕は今一度店の中を見回す。
どうやら古い建物をそのまま使っているみたいだ。
おじいちゃん家のような古い建物特有の匂いがする。
けれどそれに反して隅々まで綺麗にされていて、不潔感を一切感じない。
「この店、柏餅ステッキしか売ってないのか」
壁に掛けられたメニューは柏餅ステッキのみ。
他のメニューは一切ない。
「そうさ。ここは柏餅ステッキ専門店だからな」
振り返るといつの間にかおじさんが戻ってきていた。
その手には白い棒が。
「ほらよ。150円だ」
「あ、安い。どうぞ」
財布からお金を取り出し、おじさんに手渡す。
そして持ち手がカシワの葉で巻かれている餅の棒を受け取った。
「ウチのは普通の餅よりはるかに粘着質が強いから、のどに詰まらせんなよ」
ああ、そうか。だから張り紙にお年寄りと小さな子供には売らないと書いてあったんだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「おう。気に入ったら学校で宣伝してくれて構わないからな」
店を出る際、おじさんがそう言って来た。
なりゆきで買ってしまったものだけど、もしおいしかったら友達に教えようかな。
そんなことを思いながら、僕は店の扉を閉め、帰路に戻る。
そして柏餅ステッキをパクリ。
「んっ!? おいしっ!」
餅の中に砂糖でも混ぜているのかな? 甘くてすごくおいしい!
でも、おじさんが言っていた通りとても粘着質だ。
飲み込むのに気合がいる。
けど、おいしいから次の一口もすぐに食べたくなってしまう。
これは友達に教えてあげないと。
そう思いながら、もう一口。
すると後ろから小さな子供がキャハハ! と笑いながらぶつかってきた。
「わっ!」
「あ! ごめんなさーい!」
子供は友達と話しながらそのままどこかに去って行く。
だけど僕は、驚いた拍子に柏餅ステッキをベチャリと靴の上に落としてしまった。
「ああ……」
靴の上に広がるように柏餅が伸びてしまっている。
もったいないことをしてしまった……。
はあ、とため息を吐きながら、僕はその場を後にする。しかし……
「あれ? 脚が動かない……」
柏餅ステッキが張り付いた右足が、うんともすんとも言わない。
た、たしかに粘着質は強かったけど、まさかここまで強いだなんて……。
ど、どうしよう……。