ネルとペーパーのちがい
ネルドリップというのを初めて知ったのは15年くらい前だった。
どこからか「テビチ」という雌の紀州犬と島に移住してきた、まるでドワーフのような風貌の「ジャンベ」という不思議な男が、うまい珈琲をごちそうするというので遊びに行った。
鼻歌交じりに珈琲を淹れる手元を見ると見たことのない布のフィルターを使っていた。
「ネルで淹れた珈琲はうまいで」
ちょっと汚れたカップに注いでくれた黒い液体はなにやらあやしい飲み物にも見えたが、一口飲むと、たしかにうまかった。
でもその時はそこまでの感動はなく、「ふーん。ジャンベってかわっとるな」みたいな感じで終わってしまった。
その私がネルのおいしさに気が付いたのは2年前。
階段下の物置を片付けしていたら、いつか使うであろう物がいろいろ収められた宝の箱から新品のネルが発見された。
そういえばジャンベに感化され買ったはいいけど、使わずじまいだったネルだった。
ちょっとこれで珈琲を淹れてみるかと、封を開け使ってみることにした。
ネルで珈琲をいれるとなんだか儀式のようでちょっと背筋が伸びる。
そしてお気に入りのカップに注いだネルドリップの珈琲はいつものペーパードリップの珈琲に比べると大人びて見えた。
一口飲んでみる。
おっ!とろりとした舌触りにまず驚く。そして、うまい!
ペーパードリップがすっきりと香り立つのに比べ、ネルドリップは甘くコクがあるという感じ。
お手軽にさっと入れたいとき、軽やかな珈琲を楽しみたいとき、手始めに珈琲ドリップを楽しみたいときなんかはペーパードリップがよいだろう。
でも、休みの日にちょっとゆっくり珈琲を楽しみたい、雨の日なんかにボー―っとしたいときに珈琲を飲みたい、濃くとろりとした珈琲を味わいたいみたいなときにはネルドリップがおすすめだ。
どっちがよいとかではなく、どっちもよい。
珈琲は淹れる人や淹れるとき、珈琲を飲む場所や一緒に飲む人によって自由であればいいと思う。
そういえば、今は島を離れどこかへ行ってしまったジャンベ。元気かな?