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事業を始める時の領域選定で落とし穴を避けるために考えた方がいいこと

こんにちは!昨日こんな記事を書きました。

上ではバーティカル(領域/業界特化)なスモビジ悪くないよ!って話をしたので、今日は領域/業界を選ぶ時に考えておきたい事を書いてみます。


前提

どうしてもこれがやりたいんだ!!!」っていう領域がある人はそれをやった方がいいです。ここから先は読まなくていいです。

創業者自身のどうしようもない位の強烈な熱量はスタートアップにとって非常に強力な武器になります。こればかりはロジックで市場選定をしても中々再現ができません。その熱量は営業や採用において大きな効果を発揮します。
なのでその武器を持っている人は、武器を使える市場=自分がどうしてもやりたい領域を選んだ方が良いです。それが大きい市場だと尚良いですが、小さい市場だとしてもそこから大きな市場にアクセスできることもあります。

さて、ここから先はロジックで領域/市場選定において、勝ちに行きたい時、負けたくない時に考えておいた方がいいことを書いていきます。
一般論的な話と僕個人(事業会社でスタートアップ投資/取締役→現在ミドル~シニア層×HR領域で経営中)が思う事を混ぜながら書いていきます。

競合にどんなプレイヤーがいるか

先日こんなツイートをしました。

市場全体のマクロ的な話は勿論大事です。
が、それ以上に周囲のプレイヤーのレベル感、競争環境をリサーチする事、これは重要なのにやっていない人が結構多いです。

勝つか負けるかは絶対的なものでなく勝者と敗者がいる相対的なもの
なので、戦う相手が誰かを認識する事は必要なプロセスのはずです。

具体的には、興味あるなと思った領域で適当に検索をかけて、その市場にいるベンチャーやスタートアップの経営者の経歴を見ましょう。
調達金額で見てもいいですが、個人的には経歴の方が相関高いと思ってます。調達していない又は調達リリース出していない優秀な起業家も沢山いるので。

仮に自分が学生で介護SaaSの領域にちょっと興味あるなと思ったとします。それで検索してみて、CEOがリクルート出身のシリアルアントレプレナーで、COOがスタンフォード大学→マッキンゼーみたいな経歴のプレイヤーがいたら、その市場への参入はやめておいた方が無難です。
100%無理ではないですが、客観的に見てかなり勝率は低いはずです。

寡占市場か否か

ただ、この話は領域、市場の寡占度(≒勝つプレイヤーが極少数かどうか)によって少し変わります。
「勝つ」の定義次第ですが、そこそこ多くのプレイヤーが利益を出せる市場であれば、1社くらいシリアルアントレプレナーのプレイヤーがいても生存自体は全然できます。

ではここで何によって勝つプレイヤーの量が決まるのかという話になりますが、一般的にネットワーク効果(サービス利用者が増える程サービスの価値が上がる)や規模の経済(大量生産するほどコストが下がる)が働くほど寡占度が上がります。

簡単に言うと、大きくなればなるほどユーザーにとっての価値が上がる、または利益率が高くなる領域は寡占化し少数のプレイヤーだけが生き残ります。
その市場における小さい事業はサービス価値が低くなり利益率も出ないので生存できないからです。

フードデリバリー事業とかが典型例ですね。ユーザーが増えれば増えるほど参加する飲食店が増えユーザーにとってのサービス価値が上がり、まとめて配送できるので配送コストも低くなる。
なのでフードデリバリー事業は構造的に少数プレイヤーだけが生き残ります。

逆に、先日書いたコンサルや人材紹介事業などのスモビジは寡占度が低いといえます。
これはネットワーク効果が低く規模の経済が働かない。
むしろ規模の不経済(=大きくなればなるほど生産性が落ちる)が働く領域だからです。
なぜ大きくなると生産性が落ちるかというと、組織が大きくなることにより教育コストやコミュニケーションコストが上がる、勝手な事をする人が増えてルールがガチガチになったりしてシンプルに非効率になるからです。
1人でやるのが一番儲かるわ…」というセリフを吐いている人は多分東京に毎日1,000人位はいるでしょう。

ここで言いたいのは寡占度が低い手堅いビジネスをやれということではありません。
寡占度が高くかつ競合プレイヤーが強い領域で勝つ難易度は極めて高いので、寡占度が高い事業領域を選ぶなら競合プレイヤーを見定めて参入した方が良いというのが趣旨です。

一度話を変えます。

原体験について

起業時に原体験が必要かどうか。これは良く議論のネタになる話ですね。

冒頭の話に戻りますが「どうしてもこれがやりたいんだ!!!」という想い。この想いは強烈な原体験に基づいているケースがほとんどです。
これを持っているのは素晴らしい事だし大きな強みです。ぜひそれを武器に戦ってください。

ただ事業をはじめる時に、どこか特定の領域に強烈な想いを持っていない人もいます。むしろそういう人が8割だとおもいます。

そういう人が無理に原体験を探すべきかどうか。

これは個人的なスタンスを書くと、
「むしろ原体験から遠い事をやった方が良い」です。

起業の一般論として「原体験から事業をはじめろ」と言われる事が多いと思います。その結果どうなるかというと多くの人が原体験に近い事業をやることになります。
すると、原体験を持ちやすい領域にプレイヤーは集中する事になります。
教育、エンタメ、食品、留学、ヘルスケアetc…

ここで先程の話に繋がってきますが、特定領域にプレイヤーが集中する。
すると競争環境として激しくなりプレイヤーの質も上がり、相対的に勝ちにくい市場になります。

なので、特段思い入れがなければ原体験から遠い、あまり多くの人がやりたくない領域を選んだ方が勝率は上がるでしょう。

例えば
教育産業の市場規模は年間約3兆円(矢野経済研究所)で
産業廃棄物処理の市場規模は年間約5兆円(環境省)。
ですが、教育産業の方が圧倒的に参入プレイヤーは多く、圧倒的に競争は激しいんじゃないかなと思います。なぜなら産業廃棄物に比べ教育に原体験を持っている人の方が圧倒的に多いからです。
(産業廃棄物業界の事をあまり知らずに書いてます、すみません。)

そこまで強烈な想いを持っていなかったとしても、普通の人が興味も関心もない領域についての知識や経験があるなら、その領域を選ぶと勝率は上がるでしょう。詳しくてかつそこで事業をはじめる人が少数だからです。
産業廃棄物の事業者での業務経験がある人がその領域で起業したら多分強いはずです。

ただ、原体験ドリブンで領域選定をしなかった場合も、何故自分がやるのか「Why Me」は整理しておきましょう。後付けだとしても何か自分に繋がる理由は本音ベースでも見つかるはずです。

それがないと、資金調達時も採用時も説得力がなく困ることになります。

ニッチ市場からはじめろは本当か

Facebookがハーバード大学の交流コミュニティからはじまったことを例に「ニッチ市場」で事業をはじめろという話を聞くことも多いでしょう。

2004年にザッカーバーグは新たに、ハーバード大学に在籍する学生が交流を図ることを目的とした「The Facebook(ザ・フェイスブック)」というサービスを立ち上げました。
(中略)
ハーバード大学内で爆発的人気を集めていたFacebookは、他の大学の学生からも「同じようなサイトが欲しい」と声が上がり始め、さらに注目を集めることとなりました。

https://www.profuture.co.jp/mk/column/30647

これについてですが、ニッチ市場=小さい市場という解釈で領域選定をするとのちのち後悔することになります。

ニッチ市場とは、大きな市場の中の一角で、ある特有の需要や客層、属性を持つ市場です。
これはとても説明が難しいのですが、感覚的には大きな市場の一部なのか、シンプルに小さい市場なのかの違いです。

上記のツイートの例に上げると歯ブラシ市場も生活用品市場の一部と捉える事はできますが、生活用品は単純に歯ブラシの1レイヤー上の概念なだけです。歯ブラシ市場で成長しても、他の生活用品を簡単には売れません。
小さい市場から1レイヤー上の市場にアクセスする事はとても難しいです。

一方、大きな市場の中の一角にあたる市場は何か。
時価総額5千億超で、上場から10年経たず時価総額160倍になっている、もはやモンスター企業と呼んでいいであろうSHIFT社を例にあげます。

SHIFT社は約10兆円の規模であるSIer(システムインテグレーター)市場における「テスト工程」に特化して会社をスタートし、現在はテスト中心にSIer、ITコンサル、受託開発市場におけるビジネスを幅広く行っています。

テスト工程を徹底的に標準化、効率化し、その強みを元にエンタープライズに入り込み、周辺領域も獲得していく。

テスト領域自体はそれ単体でそれなりの規模がありつつ、本丸のSI産業全体にリーチができる。これはとても美しい領域選定と言えるでしょう。

市場の大きさと成長性

ここまで書いてきましたが、極シンプル化された市場選定基準として、マーケットの大きさ×成長性と言われることも多いと思うので、最後にそれについて触れておきます。

まずマーケットの大きさですが、正直世の中に落ちてる市場規模とかはそんな見なくていいです。さっきまで教育市場が3兆、産業廃棄物産業が5兆、SI産業が10兆とか言ってましたがすみません、忘れてください。

マクロの数字より、実際にアクセス可能な顧客の財布、予算がどの位あるか。それがすべてです。
1兆円の市場でも、その内99%を国営企業が抑えていたら、実際にアクセスできる市場は100億円しかありません
自分達が事業をはじめてどこにアクセスできるか。
アクセス可能な財布、予算の内何%を取り切れそうか。それをリアリティ持って考える、試算する方が遥かに大事です。

この試算はインターネットに落ちている情報だけでは限界があります。
実際に業界にいる人に話を聞いて、アイディアを当ててみる。このようなプロセスを経てはじめて数字の解像度が上がってきます。

次は成長性の話。
よくある話ですが、アメリカでこの位の市場規模なので人口やGDPを鑑みると日本も同じ領域がもっと成長するはずというもの。
これは論拠として単独だと非常に弱いです。その国でどのようなビジネスが成立するかはその国の文化や地理に強く依存します。

領域や市場が大きく成長する要因はある程度絞られます。代表的なものをいくつか記載します。

1.マクロな需給の変化

人口動態などのマクロな指標は目に見えづらいですが、市場の成長性に強く影響します。
例えば、日本では若年層の急速減少を背景に圧倒的にブルーカラーの職種が不足してきています。コンビニの店員さんがほぼ外国人になったのもここ数年の話です。そうなると企業のブルーカラーの採用予算はあがります。スキマバイトの「タイミー」もこのマクロの需給に乗っているといってもいいでしょう。

2.テクノロジーの発展

直近ブロックチェーンやWeb3、生成AI等が事業トレンドになっている通りこれは分かりやすい話かなと思います。
2010年代からクラウドサーバーやSaaSが普及した理由もコンピュータの処理速度やネットワークの通信向上、オープンソース技術の普及等テクノロジーの発展が強く関わってきます。

ただ、このテクノロジーの発展は少し注意が必要です。
テクノロジーが発展、流行は界隈でのブームにはなりがちですが、それ単体で顧客の財布、予算が増える訳ではありません。一時的に増えてもブームがすぎれば財布や予算は戻ってしまいます。

3.法制度の変化

法律が変わる事で規制が緩和され、これまでできなかった事ができるようになる。これも比較的分かりやすいですね。

直近で有名なところでいうとオンライン診療とか。
対面で診療は面倒だけど薬だけ欲しいという需要をこれまで規制により供給が認められていなかった所解禁され、一気にプレイヤーが増えました。AGA(脱毛症)クリニック等儲かっているプレイヤーが沢山いるという話をよく聞きます。

4.プラットフォームやデバイスの変化

これはもはや説明不要でしょう。直近ではtiktokに企業のマーケティング予算が増加していっているなど。10年前はスマホの普及によるスマホゲーム、アプリ市場の急成長など。

だんだん一般論化し、長くなってきたのでこの辺にします。

成長市場を選ぶ事は正しいです。
ただ、より大事なのは成長する本質的な背景、理由を力強く説明でき、自分の中で腹落ちしていること。

という訳で長々と書いてきましたが、
これまで書いてきた事を完全に満たすような領域はそうそうありません
どこまでいっても事業がうまくいくかはチームの情熱、能力×領域なので、厳しい領域だとしても成功するプレイヤーもいます。

が、その中で今新しく新プロダクトを考えている身として、領域選定時にどんな事を考えるべきか、落とし穴はどこか。自分の中の整理も含めて一度書いてみました。

これから事業をはじめる人の何かの参考になれば幸いです。

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