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『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー ミワコさんは朝ご飯を口にするなり開口一番 「今日もまずいな~」 と、お隣のお友達に言う。 お隣さんは 「そうだな~」 と、相槌を打つ。 こうして和やかに朝食が始まるのである。 『不味いな~』と言いながら、美味しそうに食べて、必ず完食。 私はそのギャップが面白くて好きだった。 ミワコさんの家族がある日あんパンを差し入れに持ってやって来た。 小さな丸いあんパンが5個一袋になっている。 ミワコさんはその一袋を家族の前でいっぺんに
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー キヨシさんは戦時中、腸の病気で大変苦しい思いをされたそうだ。 たまたま掛かった医者が有能だったため、奇跡的に一命を取り留めた。 その命の恩人である医者にその時こう言われたそうだ。 『何でも温かい物を食べなさい!』 なので『何でも温かい物を食べる』を頑なに守り通している。 これが功を奏したのか、キヨシさんは100歳を超えている。 そして現在では温かい物を通り越して熱い物になっている。 食事は全て食べる直前に何でもかんでもレン
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー タロウさんは森のくまさんみたいな大男だ。 車椅子に乗って自操しているのだが、車椅子はおもちゃみたいに見える。 いつもお腹を空かせている。 「何か食べるものちょうだいな」 と、手を差し出してくる。 慣れるとそれは挨拶みたいなもので、差し出された手にグーを乗せて 「はい、空気!」 と、渡してやるとニヤリと笑い、そのまま何処かに消えて行くのが常である。 そんなタロウさんの毎日の日課は、施設内をうろちょろして何か口に入るものを探すことで
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー サトさんは、目の前の他人のことを「おめえさん」と呼ぶ。 「おめえさん達はえらいなあ。こんな婆さんの世話をしてくれて」 と、いつもスタッフを労ってくれる。 サトさんの趣味は凄い。 道端に落ちている石や棒切れを拾って来たり、その辺に生えている草を取って来てはオブジェを作っている。 箱庭みたいにして並べたり、マジックで何か描いて並べてみたりしている。 散歩から帰って来て、にこにこしている時は大抵シルバーカーの中やポケットに拾った物を