上場企業の創業家の資産管理会社の株式について、評価基本通達189‐3但書において選択が認められている「S1+S2」方式ではなく、純資産価額方式により評価すべきであるかが争われた事案の裁決です。
上場企業の創業家の資産管理会社の株式の評価といえば、以下のように、旧トステムの創業家、HOYAの創業家、キーエンスの創業家の資産保有会社の株式について、いずれも評価通達による評価が認められずに課税されたという報道もありましたが、この裁決の事案は、それらとは別の事案のようです。
上の3つの事案が「氷山の一角」という訳でもないのでしょうが、リークされていないだけで、他にも類似の事案が少なからずあるのかもしれませんね。
この裁決の事案の概要は、以下のとおりです(⑧の当初申告をしてから、⑪の更正処分等がなされるまでに手続的に色々とあったようですが、取り上げた争点とはあまり関係がないので省略しています。)。
資産保有会社に株式以外の金融資産を保有させることで評価額を引き下げようとする手法というのは、旧トステムの創業家の事案でも使われたようですが、「株価対策」としては、古典的というか捻りがないというか安直というか、あまり褒められたものではない気はします。
ただ、事案としては、評価基本通達による評価額と原処分の基礎となった評価額の乖離が1.5倍程度しかないという点が特徴的です。
おそらく、金額的な乖離はそれなりにあるのだとは思いますが、過去に総則6項の適用が問題となった事案と比べると、割合的な乖離はかなり限定されているように思います。
請求人らは、本件被相続人に対する新株発行を含む一連の行為は、万一の場合にMBOを含む本件上場会社の乗っ取り防止策のリソースとして使用すること等を目的としたものであると主張したのですが、審判所は、請求人の1人が相談をしていた「本件相談担当者」(おそらく銀行かコンサルティング会社の担当者)が作成したメモや「本件相談担当者」とのメールの記載から、当該一連の行為は、相続税の負担を大きく軽減することを目的としたものであると認定した上で、以下のように判断しました。
まぁ、これはしょうがないでしょうね。
マスキングされているので詳細は分からないのですが、「本件相談担当者」のメモ等から、相続税の負担を軽減する目的であったことが明らかなようですし、株式以外の資産の大半が流動性の高い資産であったとすると、「S1」の価額を原則的評価方法で評価すべき前提を欠いているようにも思えます。
先日(令和4年4月19日)の最高裁判決を踏まえても、本件被相続人に対する新株発行を含む一連の行為によって相続税の負担が著しく軽減されることになり、本件被相続人及び請求人らは、当該一連の行為が近い将来発生することが予想される本件被相続人からの相続において請求人らの相続税の負担を減少させるものであることを知り、かつ、これを期待して行ったものであるようであることからすると、「評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情」があると認められることになりそうです。
以前にご紹介した下記の裁決の事案については、上記の最高裁裁決との関係でも訴訟で争うべき事案だと思うのですが、この裁決の事案は訴訟で争っても厳しそうですね。