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非公表裁決/借地借家法上の「借地権」であっても財産評価基本通達の「借地権」には該当しないのか?

賃借人がショッピングセンターの来客用の駐車場として利用していた宅地について、評価基本通達の「貸宅地」として評価されるべきかどうかが争われた事案の裁決です。

請求人と原処分庁との間では、当該宅地に係る賃借権が建物の所有を目的とするものであるかどうか(=借地借家借家法上の「借地権」に該当するかどうか)が争われていたのですが、審判所は、以下のように、当該宅地に係る賃借権が借地借家法上の「借地権」に該当することを認めつつ、当該宅地を「貸宅地」として評価すべきではないという判断しました。

建物の所有を目的とする土地の借地権は、借地借家法により、その存続期間が保障され(同法第3条《借地権の存続期間》)、また、借地権者が当該土地の上に登記した建物を所有する場合には、第三者に対する対抗力を有し(同法第10条《借地権の対抗力等》第1項)、さらに、契約期間満了時に地上建物が存する場合には、借地権者に契約更新請求権(同法第5条(借地契約の更新請求等》第1項)や建物買取請求権(同法第13条《建物買取請求権》第1項)が付与されるなど、民法第601条《賃貸借》以下が規定する賃借権に比して強い保護を受ける。また、借地権については、通常の場合には、その設定に際して権利金の授受が行われ、建物の譲渡に伴い有償で譲渡され、その消滅に当たり土地所有者(借地権設定者)が立退料の支払を要するなどの実態がある。そのため、借地権が設定されると、士地所有者(借地権設定者)は、自用地に比し相当の制約を受ける一方、借地権者は、経済的に相当の価値を有する借地権を取得したとみるべき経済的実態が存在する。そこで、貸宅地通達規定は、借地権の設定された宅地について、土地所有者の受ける上記制約を評価に反映させるために、借地権の目的となっている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額からその借地権の価額を減額して評価する旨定めている。
 このような貸宅地通達規定の趣旨からすると、貸宅地通達規定上の借地権とは、第三者に対する対抗力の有無、契約更新請求権や建物買取請求権の有無、権利金の支払の有無などの事情を総合的に考慮して、有償譲渡や立退料支払の対象となるような経済的に相当の価値を有する借地権で、その設定により、当該借地権が設定されている土地の価額を低下させるものと評価するのが相当と認められる借地権をいうと解するのが相当である(したがって、借地借家法上の借地権と、貸宅地通達規定の借地権とは、その意味するところは必ずしも同ーではないものと解される。)。
≪中略≫
 以上のとおり、本件賃借権は、本件相続開始日において第三者に対する対抗力を有さず、本件相続開始日当時、■■■■■に対し、契約期間満了時に契約更新請求権や建物買取請求権が付与される状況にはなく、■■■■■は、本件被相続人に権利金を支払ったとは認められないことから、上記イの(ロ)に照らすと、本件賃借権は、有償譲渡や立退料支払の対象となるような経済的に相当の価値を有する借地権で、その設定により、当該借地権が設定されている土地の価額を低下させるものと評価するのが相当と認められる借地権には該当しないと解するのが相当である。
したがって、本件賃借権は貸宅地通達規定上の借地権に該当せず、本件土地3は貸宅地に該当するとは認められない。

「借地借家法上の借地権と、貸宅地通達規定の借地権とは、その意味するところは必ずしも同ーではない」というのは、かなり思い切った判断をしましたね。

私の認識不足なのかもしれませんが、借地借家法上の「借地権」に該当すれば、明文で除外されている定期借地権等を除き、当然に評価基本通達の「借地権」に該当するものだと思っていましたので、この裁決の判断には驚きました。

「財産評価基本通達逐条解説(令和2年版)」241頁でも「借地権とは借地借家法に規定する建物の所有を目的とする地上権又は賃借権をいい、この項に定める借地権には、具体的には借地借家法に基づく普通借地権と旧借家法に基づく借地権の2種の借地権が該当する」と記載されていますし、国税庁のHPのタックスアンサーNo4611「借地権の評価」にも「借地権とは、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいいます(借地借家法2一)」と記載されていますので、一般的にもそのように理解されていたのではないかと思います。

では、そのような思い切った判断をすべき理由があったかというとかなり疑問があります。

通達は法令ではありませんので、法令のような文理解釈が求められる訳ではないのですが、評価通達については、判例法理によって特別な位置づけが与えられている訳ですから、基本的には文理に忠実に理解すべきなのではないかと思います。

特に「借地権」という用語は、多数の法令において基本的に同じ意味で用いられている一義的な用語であるはずですから、評価基本通達の「借地権」だけ異なる意味だという理解には無理があるのではないかという気がします。

また、この裁決は、①当該宅地が借地権の対抗要件を備えていないこと、②相続開始時において当該宅地上に建物がなく、契約期間満了時の契約更新請求権や建物買取請求権が付与される状況にはなかったこと、③賃貸借契約締結時に権利金を支払ったとは認められないことを理由として、当該宅地の賃借権が、その設定により土地の価額を低下させるものと評価するのが相当と認められる借地権であるとは認められないという判断しているのですが、この判断にも説得力を感じません。

①対抗要件の有無は契約当事者間では関係がありませんので、対抗要件のない賃借権であっても土地を処分しようとする場合の制約になることに変わりがないはずですし、②契約更新請求権や建物買取請求権というのは、契約期間の満了時にしか問題とならないはずですが、契約期間の満了時に当該宅地上に建物がないかどうかは、相続開始時においては分からないはずです。そして、③権利金の授受がなかったことは借地権の権利の内容に影響がある訳でもありません。

あと、手続的な問題になりますが、審判所が、請求人に対して、借地借家法上の「借地権」であっても評価基本通達の「借地権」に該当しない可能性を指摘した上で、その点に関する主張立証の機会を与えたのかという点も気になります。

裁決書を見る限り、原処分庁からは、問題となった宅地に係る賃借権が建物の所有を目的とするものではないという主張しかしておらず、請求人も、そのような原処分庁の主張に対する反論しかしていなかったようです。

そうすると、審判所が、当該宅地に係る賃借権が建物の所有を目的とするものであることを認めつつ、評価基本通達の「借地権」には該当しないという判断をしたのは、請求人にとって不意打ち的な判断であったのではないかと思えるのですが、そうであったとすると、審理の仕方としても適切なものではなかったように思います。

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