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第6話 パソコンを買って壊して何してんねん

図書館での10日間のひきこもり生活を終えた起業終了家・西村。うん10年ぶりに新しいパソコンを買い、やる気充填。ウェブ制作に着手するのだが、思いがけない機器のトラブルで足をすくわれることに……。

高額の物を買うときは「清水の舞台から飛び降りる」という例えを使いますよね。前置きにすれば何を買っても嫌みに聞こえない機能的なフレーズ。バブル世代の兄は「キヨブタでぇ~」なんて略語を使って小脇に象のマークのセカンドバッグを抱えておりました。平成の始まりは眩しすぎますね。

私は地味な妹ですよ。ボーナスが入っても、宝くじに当たっても、ブランドバッグなんて買ったことがない希少女子。豚に真珠、友紀子にエンゲージリング。婚約指輪もムダ遣いの観点から辞退しました。とにかく10万円を超えるものを買うのに抵抗があるんですよね。結婚当初、主人がパソコンを買うというので、朝まで生会議しました。本当に必要かと、今あるパソコンに何の不満があるのかと。主人は何枚もの申請書を私に提出してようやくパソコンを購入することができました。OSはWindows7。今回の事業はこの時に買ったパソコンを使って始めました。

しばらくすると、起業塾の方々が私のWindows7を物珍しさから見に来るようになりました。そして皆、動作の遅さに失笑して去っていくのでした。現代卓球とパソコンの動作スピードは速い方がいい。わかりきったことですが、こちとらイスに座るもの「ヨッコイショ」「ドッコラショ」のおばちゃんです。ひとつ用事を済ませるごとにグルグル回るパソコンのスピード感が自分には合っているかな。

あっ、そうそう。私の事業はウェブメディアの運営です。ページの読み込みに3秒以上かかると40%の人が離脱するという超シビアな世界でご飯を食べていこうと思っています。「生き急いでなんになる」と意気がったところで、人生100年時代のWEB寵児に置いてきぼりをくらうことは請け合いです。

なもんで、折り合いをつけますか。つけられますか。

私のIT顧問・T平さんによると「このパソコンでは動画制作が厳しい……」とのこと。清水の舞台から飛び降りる。略してキヨブタでパソコンを購入する覚悟を決めました。T平さんに教えてもらった暗号のようなSPEC「Core i5~7、メモリ16、ストレージ256SSD」をノートに書いて家電量販店へ。店員さんに話しかけられたら、言葉の壁がある外国人観光客のようにノートを見せました。この英数字こそがPCコーナーの店員(ネイティブ)に伝わる現地語ですから。
そして即断即決。キャンペーン期間で安くなっているパソコンを購入しました。いやはや何とも嬉しいですね。主婦になって10年、こんなに思い切った買い物ができるのは初めてのこと。起業塾の方々にも自慢して喜びを共有しました。神棚に祀った後、真綿に包んで大切に扱いたい。

なのに……。

何壊しとんねん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

PCを立ち上げてガイダンスに従って設定完了。のはずなのに、私のパソコンは動作しなくなりました。仕方がなく強制終了。翌日、パソコンの詳しい方に見てもらうと、プログラムの更新ができていないとのこと。お任せで初期設定してもらったのですが、やはり使っているとフリーズしたり暗転したり……。デジタルに自信のない私は「最初の操作に問題があったにちがいない」と自分を責めて落ち込みました。HP作成ツール「ワードプレスのつかい方がわかんないよ~」なんてほざいていた頃が超恥ずい。それ以前の問題やんけ。そもそもパソコンの扱い方がわかっていない。私は卒業したはずの図書館に戻り、Windows10の基本操作が載っているガイドブックを借りました。分厚くって持ち帰るのが重かった~。鞄のヒモが肩に食い込み「あんたにはWEB制作なんて無理だよ」と肩を叩かれている気分になりました。

翌日、T平さんに相談してパソコンを調べてもらうと……。
T平「いや、これは本体の問題ですね」
私「ほ、ほほほ」
T平さんの一言で、なんとも言えない安堵感に包まれました。買ったばかりのPCが動かないという由々しき状況にもかかわらず。

とりあえず、メーカーに問い合わせてオペレーターの方に遠隔操作で手を尽くしてもらいました。やはり本体が怪しいとのこと。買った店へ持っていき交換をお願いすると「限定パックの商品だから在庫がない」と言われました。そして再度メーカーに問い合わせた結果、中古再生品と交換してもらえることになりました。トラウマを抱える私は、新しいパソコンが届いても触れずにそのままT平さんに渡しました。T平さんは初期&レンタルサーバーの設定を引き受けてくれました。

長々と時系列で書きましたが、何を伝えたかったかと言うと、このPCトラブルのやりとりで10日間という貴重な時間をロスしてしまったことです。「4月にウェブメディアを立ち上げます!」って公言したのに、もう3月。スケージュール帳に予定を書き入れる手が震えます。起業を志した時点で清水の舞台に脚をかけているのに、無事着地できるのでしょうか? 

WEBメディア公開まで55日。

つづく


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