【映画『逆噴射家族』感想】
昔からATG映画が好きです。
ATG映画とは簡単に言うと低予算で作られる
新人監督による実験色の強い挑戦的な姿勢の
映画です。
莫大な予算を湯水の様に使って製作される
映画からするとどうしても
サブカルチャー色が強くなりますし
ある意味、ショボくなる可能性も相当高い訳ですが
『兎に角、新しい映画を撮りたい!』という
新人監督の熱意だけはやけに伝わってくる
【気持ちの映画】みたいな作品が多めです。
中でも1982年に作られた会社組織
【ディレクターズ・カンパニー】(通称:ディレカン)
からはそういった良くも悪くも
奇っ怪で摩訶不思議で、まぁ、新しいと言えば
新しい
音楽で言えば『パンク的な』映画が
たくさん生み出されました。
ディレカンのボスは「太陽を盗んだ男」を撮った
長谷川和彦監督。通称:ゴジ。
何でも見た目がゴジラに似ているかららしいです。
確かにゴジラ体型です。
尻尾があったとしたらゴジラです。
(新作ずっと待ってますよ)
『逆噴射家族』は1984年に公開された
ディレカン映画の中でも割と有名で代表的な
作品です。
僕も10年以上前に一度観た筈なのですが
スッカリ忘れていまして
この頃、映画を色々見返している中で
「どういう映画だったかな?」、と思い
借りて観ました。
石井聰亙という人の監督作品なんです。
『狂い咲きサンダーロード』とか
『爆裂都市(バーストシティ)』とか
そういう力技でドカン!みたいな傾向の作風が
特徴的な監督で
この『逆噴射家族』もその手のヤツです。
これは単なる好みの問題なんですが
僕は石井聰亙監督の作風自体は
そんなに好きではありません。
僕は兎に角、編集が大好きで…
出来ればスタイリッシュで美しい編集が
好きです。
そういう事で言えば、どちらかというと
ガツガツとした編集なので
もう少しクールなのが僕の好みでは
あるのですが
ただ、こういうガツガツ行くスタイルだからこそ
このエネルギッシュな画面が出来上がるのは
理解出来ます。
今回見返してみて、最後の方ですね。
家族のバトルがひとしきり済んで
みんなすすだらけになって朝食を取っている
シーン。
あの辺りを観ながら思ったのは
家族というモノはやっぱりひどく行き詰まる
時というのが来るもんです。
幸運な事に何一つ問題なく
スムーズに暮らしている家族というのも
世の中には存在するのかも知れませんが
多くの家族はやはりどこかに静かに
ふつふつと問題を抱えていて
普段は見て見ぬフリをしていたり
放置していたりするもんです。
それが大爆発するのがこの映画のメインの
題材だと思うんですね。
で、この家族は確かにみんな変です。
でも、これは娯楽映画ですから
過剰に演出されているだけであって
よくよく観ていると
これくらいの家族なら
そこらじゅうにある様な気がして来ます。
で、お互いが我慢したり、見ないフリをして
ずーっと過ごしていたら
ある日限界が来て全員ブチギレて
殺し合いになったと。
で、最後にスッカリ疲れ果てて
朝ごはんをみんなで食べている。
殺し合いはいけませんが
気持ちをぶつけ合うという過程は
あってもいいのかな、と思いました。
この家族はお互い殺るか殺られるかまで
行かないと
スッキリしなかった。
僕は暴力は嫌いです。
そして、今のこの令和の社会も
表向きはどんどん暴力を無くしていこうと
いう風潮です。
具体的な暴力だけでなく、言葉の暴力も、
精神的に傷付ける様な暴力も、
全部、無くそう、無くそう、と。
それには賛成ですよ。僕は。
けれど、実際のところ、僕の育った家には
散々、暴力があったんです。
学校にも暴力があったし
街中にも暴力がありました。
別にシリアスな話をしようってんじゃなくて
昭和(そして平成初期)というのは
そういう感じの時代だったのです。
僕自身も散々、暴力の洗礼を受けました。
それが良かったとは思ってませんし
だから、暴力という過程があっていいとも
思いませんし
僕も誰かに暴力を振るったりはしません。
ただ、散々、暴力で戦って戦って
挙げ句の果てに
全員真っ黒けの顔で朝ごはんを食べている
シーンを観て
この家族はこれしかなかったのかな。。
とは思ったのです。
良いとか悪いとかではなくて。
その後、どうせここまで来たのなら
いっそ全部綺麗にぶち壊して
ホントに真っ白になって
はじめからやり直そうとなって
みんなで家を完全にぶち壊して
外で暮らしているシーンで終わるんですが
これはハッピーエンドではあるのでしょうね。
もうどうしようもなく行き詰まったら
全部、ぶち壊してしまうという手もあります。
もちろん、暴力は使わない事を
オススメはします。
壊れたモノは元には戻りませんが
何かを壊したら、代わりに何かが誕生する
というのはあります。
まぁ、現実的に言うと
スポーツとか、身体を適度に動かす様な
事をしたらいいのかな、とは
思いましたかね(笑)
家に閉じ籠もり過ぎると鬱屈する傾向は
ある様な気がします。
そういう訳で、僕はこの映画においては
長々と続くバイオレンスなバトル描写よりも
最後の朝ごはんのシーンですね。
そこが一番印象的でした。
あ、ただ、小林克也さん演じるお父さんが
会社を無断で早退して
ノリノリの音楽に合わせて
家まで突っ走るシーンですね。
流石にあのシークエンスについては
唸りました。
あの部分は見事です。
ありがとうございます!