読後メモ『シリア 震える橋を渡って』 (ウェンディ・パールマン)


 米大学教授による近現代シリアのオーラルヒストリー。ロシアによるウクライナ侵攻がきっかけで中東情勢に関心が高まり、入手した。シリアに関する予備知識がなくても、年代別に構成された様々な立場の人々のインタビューから当時のシリアでどのような出来事が起こり、その出来事を人々がどのように感じていたを記述することで、民主化運動(=革命)の高まり前後にシリアで起こった出来事の歴史的な意味合いを浮かび上がらせる良本。

 体制派=悪、民主派=正義という二項対立の構図による説明でなく、シリアの革命前の抑圧された社会情勢からアラブの春をきっかけとした革命の胎動による民衆の高揚、その後の革命の挫折と紛争の過激化が、様々な立場の人々によって語られ、解の見えない現実に直面しているシリアの問題を読者に訴える。

 出版が岩波書店、訳者が安田菜津紀と佐藤慧だったため、左派的思想の濃い内容かと警戒したが、杞憂だった。読みやすくかつ固有名詞の少ない構成で、2015年にヨーロッパで大きな問題となったシリア難民がどのように起こったを知るための入門書としておすすめ。


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