お金持ちになったら
私の現在の収入はとても低い。
月給としては間違いなく底辺に位置する。
そんな中でも毎月7万円貯金しているので、その節約っぷりたるや、ケチっぷりたるや。それらは凄みすらあると自負している。
じゃあ、お金を余りあるほどに得たいかと言われたらそうでもない。
ブランドものの類は、昔こそ憧れはあったが今は欲しいと思わない。
ユニクロが一番好きなので、むしろ数年前から衣類は「ユニクロ縛り」をしている。
ユニクロには存在し得ないデザインのものを見つけるとたまにジーユーにも手を出してしまうのだが、「ユニクロ縛りをやっているのに」と、少々の罪悪感を覚えるくらいだ。
バッグはユニクロじゃ足りないからお金が掛かりそうなものだが、いくつかある趣味の中にレザークラフトがある。
安い革をコツコツと手縫いで組み立ててそこそこのバッグを作るのが好きだ。
住んでいるところも、新しい建物より古い建物が好きなので家賃が抑えられるし、超スーパーペーパードライバーなので車には一切のお金が掛からない。
主な移動手段は自転車だ。
安価な価格帯のものではあるが一応クロスバイクなので、1日30キロくらいならなんてことない。
病気にならなければなんとかなる、そんな生活だ。
だが、今日。思ってしまったのだ。
「お金持ちだったらな」と。
薬局で衣類用洗剤を選んでいる時だった。
私が現在使っている洗剤は、4〜5種類のサイズが棚に並ぶ。
買う度に、そのひとつずつのグラム単価を店頭で、スマホの電卓で計算するのが非常にめんどくさいのだ。
どこかにメモして保存しておけば毎回計算しなくてもよさそうだが、これがその時々によって特価になっていたりするのでそうもいかないし、大容量ほどグラム単価が安そうなものだが、私がひいきにしている薬局はそうではない。
お金持ちだったら、これがグラムあたり0.672円で一番安いから下から2番目に小さいこのサイズにしよう、なんてところまで導くめんどくささから解放される。
店頭でスマホの電卓を叩くなんてことはせずに、自分にとって一番必要なサイズを手にすればよいだけだ。
それに、本当は同シリーズ内で3色ある洗剤のうち水色のが好きなのだが、水色の洗剤は「史上最最高峰の洗浄・消臭力」と謳われていて、他の2色、オレンジ色「スタンダード」と紫色「ニオイ専用」よりも高い。
私には端から水色は選択肢に入っておらず、オレンジ色と紫色のどちらにするかでかなり悩んだのだが、お金持ちだったらさっと水色を手に取ってレジへ向かいたい。
なんてことを薬局で考えたら、その帰り道にどんどん同種のことが湧いてきてしまった。
お金持ちになったら、
値引シールの貼られていないお惣菜もどれを買おうか悩む選択肢の中に入れたい。
お金持ちになったら、
ユニクロで欲しい服が限定価格になるのを何週間も待たずとも買いたい。
お金持ちになったら、
柔らかいティッシュで鼻をかみたい。
お金持ちになったら、
第1希望が出るまでガチャガチャを回し続けたい。
お金持ちになったら、
洗濯のすすぎを2回したい。
お金持ちになったら、
納得のいく値段で売るスーパーを見つけるために、何軒も自転車でハシゴするのをやめたい。
お金持ちになったら、
110円で売る店舗を見つけるために、ブックオフを何軒も自転車でハシゴするのをやめたい。
お金持ちになったら、
地下鉄の一日乗車券の元を取るために、これでもかと本当は行く必要のないところにも行きまくって1日の終わりに無駄に疲れるのをやめたい。
お金持ちになったら、
給湯器で沸かされたにも関わらず、お湯として使われることなく水道管の中で冷めて再び水となってしまってガス代が無駄になるを避けるべく、1度沸かしたお湯はお湯として使い切るために、「まだもう少しお湯を使いたい」というところで給湯器のスイッチを切るのをやめたい。
湧いてきたのがこんなことばかりで、私って本当に小さな人間だなと思った。
でもそれと同時に、私が以上のことを挙げたことによって、不愉快になる人、傷付く人もいるということも思った。
私には、スタイルは最悪だが思うように動く両手足があるし、小さいが両目が見え、左が電話だと聞き取りづらいが生活に困らない分には耳が聞こえ、今のところ医療を受け続ける必要のある病気も抱えていないから、「もしお金持ちになったら」に続くのは以上のような類のことばかりになるのだろう。