誰もがオアシスが大好きだった夏/OASIS「LIVE AT KNEBWORTH」(1996年8月10日)全曲感想
オアシスのライブを映画館で観てきた。お気に入りのTOHOシネマズ日本橋のロビーは、以前あったグッズ売り場の棚もなく、ポップコーンを買う列もなく、やけにがらんとしていた。オアシスの映画って言ってもこんなもんなんだなと、少し拍子抜けした。ツイッターではすでに何人かのオアシスファンが熱狂的な感想を挙げたりしていた。開場時間になって入り口でQRコードをかざしてからも、誰も人がいなかった。もしかして貸切なんじゃ、と思った。それでもよかった。
上映会場は結構広い。私の席は5列目の通路側だったけれど、後ろの方に少しは人がいた。自分たちの後ろはデラックスシートのような感じだった。それでも何となく伽藍とした雰囲気で、これからライブを見ると言う感じはしなかった。オアシスを見るのだからと、珍しくビールを飲んでみた。
オアシスのネブワースでのライヴは、オアシスファンの間では伝説と語り継がれている。二日で25万人を集めたすごいライヴが過去にあったということを、私は高校生だった1999年くらいに、当時ロッキンオンか何かで読んで知っていたが、それ以上の情報ははなかったし、ましてや映像を見たことはなかった。そういえば、GLAYが幕張で20万人ライブをやったのが、この一年後の1997年。そう考えると、とても音楽業界が好景気で、メガなものを目指せる。大きな人を集めたりする。そういう時代だったのかもしれないと思う。
昔、高校時代、東京に遊びに来た時、親戚のおばさんにどこか行きたいところがあるかと聞かれ、私は新宿西口のブートレグ屋に行きたいと言った。高校生だったが、私は一人で東京の街を歩いたことはなかった。当時は「ロッキンオン」誌の巻末にブートレグ屋の広告がたくさん掲載されていて、それを見て、「ブートレグ」という、ライヴを何らかの方法で録音したものがCDとして売られているということを知った。私は西新宿の駅を歩き、地図を見ながら店を探し、オアシスの「ネブワース」の様子を録音したCDを購入した。
もうだいぶ長い間聴いていなかったが、まさにこのCDに、今回映画になった1996年8月10日のライヴの様子が収録されていた。かなりはっきり覚えていることは、一曲一曲の音がかなりラウドで、CDとして聴くのは少しきつかったこと。「Champagne Supernova」の最初に、ストーン・ローゼズのジョン・スクワイアが紹介され、リアムが「ジョニー!」と呼ぶとイントロのギターが始まることだった。リアムもノエルも嬉しそうだった。
今回改めて映画館でこの日のライヴを見ると、彼らがまさに「Rock'n Roll Star」だったことがわかる。特に目立った仕掛けのないシンプルなステージに立ち、たわいもないMCと、曲名を叫び、ラウドなギターから曲が始まる。客席は今のように、全員がスマホを構えて微動だにしないなんてことはなく、一曲目から揺れに揺れている。二日で25万人ということは、少なくとも1日10万人以上いる客席は果てしなく遠くまで広がっている。風の谷のナウシカの、茜色に照らされた風景のように、夕暮れどきからライヴが始まり、徐々に暗くなった。
一曲目は「Columbia」。おもむろにギターリフが始まり、とてもノリが良い。高校時代はほとんど聴かなかった曲だ。メロディも単調な気がして好きじゃなかった。でも、「お前に俺がどう感じているのかなんて説明できない。なぜなら俺が今感じていることは、俺にとってとても新しいものだから」というフレーズが呪文のように繰り返される。オアシスの曲の魅力は、呪文のようにシンプルでありながら、繰り返されることで意味を帯びてくるような歌詞とメロディの融合だと思う。昔はあまりいいと思えなかったこの曲だが、ギターリフの良さなどに注目するといい曲に思えてきた。
2曲目の「Acquiesce」は、『Masterplan』というB面集に入っている曲だが、オアシスの中では数少ない、ギターのノエルと、ヴォーカルのリアムが一緒に歌う曲だ。最初のメロディをリアムが歌い、そしてサビをノエルが歌う。「俺たちは互いを必要としている。俺たちは互いを信じている」というサビの歌詞からは、感情がストレートに伝わってくる。イントロのギターリフが特徴的で、これもいかにも初期の曲というような、アグレッシブさがある。
3曲目の「Supersonic」は、シングルにもなった初期の代表曲だが、個人的には高校時代あまり聴かなかった。当時はそんなにいい曲に思えなかった。特に最初のメロディは、少し地味かなと思っていた。でも今回のライヴでは、アラン・ホワイトの長めのドラムから入るのがかっこいい。このライヴを通して、アラン・ホワイトのドラムはとてもよかった。「俺は俺自身にならなきゃならない。他の誰かになんて、なれやしないんだから」という歌詞はあまりに確信に満ちていて、あまりに有名。
4曲目の「Hello」は、セカンドアルバム「モーニンググローリー」の一曲目だが、少し地味な曲と感じて、当時もそんなに聴かなかった。
5曲目の「Some Might Say』は「モーニング・グローリー」の中の名曲。オアシスの初期の曲は、ロックンロールっぽい始まりかた(グラムロック的でもある)で始まるものが少なくなく、この曲もそうだ。「天国なんて信じないという奴がいる/地獄に住む奴にそう言ってみるがいい」という歌詞には、地獄に住む人間へのシンパシーが感じられる。オアシスの歌詞は、どちらかというと抽象的で文学的なものが多いと感じていたが、こういう曲はどちらかというと、シンプルにパンク的な歌詞だなと思う。彼らが労働者階級出身で、当時グランジが死についてばかり歌うことに反感を抱いて「Live Forever」という曲を書いたと言うノエルの話は、まさにパンク的だと思う。
6曲目の「Roll With It」は、ブラーとの全面抗争になった「モーニング・グローリー」のシングル。この曲も上記「Some Might Say」と同様、ロックンロールっぽいメロディを持つ。「誰にもお前の邪魔をさせるな/そんなのは我慢できない」という歌詞もまた、とてもストレートで力強い。
7曲目の「Slide Away」はファーストアルバム「Definitely Maybe」収録。せつなげなマイナーコードのギターフレーズから始まり、サビでメジャーコードに転調する。ラブソングのように聴こえる曲。キーが高いからか、サビをリアムはきっちり歌わない(ハモリの下の方を歌っている感じ)。そのきっちりしてなさもまた魅力の一つだと思う。
8曲目の「Morning Glory」はセカンドアルバム「Morning Glory」のタイトル曲。おそらく後期のオアシスではこの曲はライヴでやっていないのではないか。セカンドの中ではノイジーで、冒頭にヘリコプターの音がサンプリングされていたり、5分くらいある曲で、なんとなく、サードアルバム「Be Here Now」ぽさを感じさせる。
9曲目の「Round are Way」は「Wonderwall」のB面曲。録音でも、このライヴでもホーンセクションがフィーチャーされている。オアシスは、カバーでスレイドの「Cum on Feel the Noise」やビートルズの「I am the Walrus」を演奏しているが、それに近い雰囲気の狂騒的な曲。オアシスのオリジナルでこういう曲は珍しい。ただ、初期のライヴではよく演奏されていた印象。同じコードなので、「Up in the Sky」がアウトロで演奏されている。
10曲目の「Cigarettes & Alcohol」は、ティーレックスのリフを真似たイントロから始まる。「俺の妄想なんだろうか? それともついに生きるに値する何かが見つかったのか?」というフレーズから始まる、自分で何かを起こさなきゃ何も起こらないという、時には起こせよムーヴメント的な歌詞。2000年代のライヴでは、アウトロにツェッペリンの「Whole lotta love」が演奏される。オアシスはこういうふうに、アウトロに別の曲を差し込んでいく遊びが好きだ。
11曲目の「Whatever」はアコースティックセットで演奏されていた。この曲がアルバムに入っていないという事実が、当時のオアシスの凄さを示していると言われている。ビートルズのようにストリングスを配して、メロディもシンプル。「俺は自由だ。何を選ぼうが、それが正しかろうが間違っていようが、それでいいんだ」という歌詞が伸びやかなメロディに乗って歌われる。リアムの声にも合っている。いかにもアンセムという感じで、祝祭感がある。
12曲目「Cast No Shadow」はThe Verveのリチャード・アシュクロフトに捧げるとリアムが言って始まる。アシュクロフトは当時からオアシスと仲がよかったらしい。2025年に予定されている再結成ライヴでは、イギリス公演のサポートアクトとして発表された。セカンドの「モーニンググローリー」収録。比較的地味な渋めの曲と高校時代認識していたが、改めて聴くとしみじみしたいい曲。
13曲目「Wonderwall」はかなり売れたシングル。セカンドアルバム収録。その後、「Don't Look Back in Anger」が「ドンルク」とか言われて、ライブの定番大合唱曲になっていったが、当時はむしろこちらの曲の方が人気が高かった気がする。ライヴでも最初のメロディからすべて大合唱されているような動画を見たことがある。メランコリックな曲。
14曲目「The Masterplan」は、確かノエル・ギャラガーが最近もソロで歌っていた。この手のバラードは、オアシスは最初のメロディはマイナーコード、サビでメジャーコードに転調する展開にしがち。後期の佳曲「Little by Little」なんかもそういう展開。同名のB面集に収録。サビのたたみかけるような感じが祝祭感を感じさせる。オアシスの歌詞やメロディは、特にサビなどで、ただワンフレーズ歌うのではなくて、けっこう長いフレーズが続いていくことがあり、この曲のサビもそういうものの一つ。構造自体は目新しいものではないが、サビは本当に秀逸。
15曲目「Don’t Look Back In Anger」。言わずと知れたライブの定番曲。セカンドアルバム収録。今でこそ、サビをノエルが歌わずに大合唱ということになっているが、当時はサビをノエルが客に任すということもなく、エレキギター弾き語りというような形式で歌い、割と元気な佳曲という印象。もちろん曲はいいのだが、現在のような特別さがなく、良くも悪くも、いい曲の中の一つ。この曲はさすがに高校時代も聴いていた。どう考えてもいい曲。ただ、歌詞の意味が長い間今ひとつ理解できていなかった。最近、Youtubeの動画で見て、何となく意味がわかった。オアシスはそのパブリックイメージとは裏腹に、時々けっこう抽象的で繊細な歌詞を書く印象がある。冒頭部「心の目に滑り込めば、きっとそこによりよい遊び場があることに気づくだろう/君はそんな場所には行ったことがないと言う/だけど君が目にしたすべてのものは、少しずつ消えていってしまうんだ」という歌詞が、本当に素晴らしい。オアシスの曲の中でも、歌詞が最も充実している。
16曲目
「My Big Mouth」と次の、17曲目の「It’s Gettin’ Better (Man!!)」は「新曲」といって演奏された。サードアルバム「Be Here Now」収録。「My Big Mouth」は硬派でノイジーな曲。そのノイジーさや歌詞がやや一本調子な気もしなくもないが、この2曲は改めて聴くといい曲だなと思った。メロディがいい。
18曲目、「Live Forever」ファーストアルバム収録。オアシスの代表曲の一つ。オルタナティヴロックがの連中が、死にたい死にたい言っているのにイラっとしたノエルが、ならばと「生きたい」という曲を書いたとも言われているし、ジョン・レノンに捧げられているとも言われている。実際、この曲の映像では、後ろのスクリーンにジョン・レノンの顔が大写しになり、舞台後方のスクリーンを眺めながらオアシスの面々が演奏している姿を見ることができる。後年のライヴでは、同じようにジョン・レノンの顔をスクリーンに映し、それに向かってお辞儀をするリアムの姿もあった。
19曲目、 「Champagne Supernova (With John Squire)」。セカンドアルバム「モーニング・グローリー」の最後に収録されている曲。どこか厭世的な雰囲気が漂う名曲。ラジオDJの野村訓市も、「自分たちのアンセム」と言っていた。酒と栄光と追憶のアンセム。本ライヴでは、ストーン・ローゼズのジョンスクワイアが登場しレスポールを弾いている。この曲はメロディが二つしかなく、とにかくギターのフレーズも歌詞も、メロディも反復する。ぐるぐるぐるぐる回っているような酩酊感と、王道を進むような安定感の両方が感じられる。ほとんどゲストもいないし、淡々と名曲を披露しまくってきたこのライヴだが、ここが山場かもしれない。
20曲目、「I Am The Walrus (With John Squire)」オアシスはビートルズの曲を、特に初期によくカバーしていた。酩酊したようなギターと、混沌とした歌詞。ある意味でこうしたものをオアシスがライヴで目指していたのかもしれない。先ほども言ったように、狂騒的で、ライヴの最後を飾るにふさわしい、華やかだが、それだけではなく、酩酊的な雰囲気もある。