ツールドフランス2024 第15ステージ (Loudenvielle - Plateau de Beille) 考察
ピレネー2日目も激しい総合のバトルが繰り広げられました。あまりのレベルの違いに周りがちょっとついていけないくらい・・・。レース後、この先サイクリングレースはどうなっていくんだろう、とちょっとモヤモヤした気持ちになりました。
どんなレースだったのか、振り返って見ていきましょう。
ピレネー2日目は距離が197.7km、1級山岳を4回超えてから最後に超級山岳のPlateau de Beilleを上る獲得標高4800mの今回のツールの中でも1、2を争うタフなステージ。しかも気温が高く、スタートして7km地点に1級山岳が設定してある、逃げるにもかなり脚がないと抜け出せない残酷仕様。まさに最強サイクリスト決定戦のようなコースでした。
スタート前の注目ポイントとして、Vismaはヴィンゲゴー選手にポルカドット仕様のアイテムを準備しているのか、がありました。実際は、元々興味がなかったのか、ポガチャル選手の繰り下がりでの着用だったせいか、準備をしていませんでした。ヴィンゲゴー選手のポルカドットジャージの着用自体が初めてだったそうで、今年のツールはいかに逃げが成功していないかがわかります。
この日の逃げグループは主に個人総合から落ちてしまったチームリーダーをステージ優勝させるための動きが目立ちました。逃げにMovisterが4名、Red Bull-BORAが2名、最初のスプリントポイントを狙うギルマイ選手など脚のある20名の逃げが決まりました。自分のメモでもその後にIntermarcheの選手がスプリントポイントで先行しているので、一人追いついて21名の逃げになっています。そして今日のメインプロトンはVismaがコントロール。このステージへのやる気を見せます。
残り160km地点のスプリントポイントでは、Intermarcheのアシストにリードされたギルマイ選手がJaycoのマシューズ選手がスプリント。ギルマイ選手が1着通過をしましたが、マシューズ選手をフェンスに追いやったので3位に降格しました。マシューズ選手はそんなにポイントを持っていないし、フィリップセン選手もいなかったので、そこまでする必要はないと思いましたが、 道が曲がっていたので、あまり意識せずになってしまった感じか。ここでも斜行警察が発動しました。
2つ目のKOM、Col de Mentéに入ると逃げグループから落ちる選手とプロトンから逃げに乗りたいEFのカラパス選手やDSMのバルデ選手が積極的に動き、選手が入れ替わります。この動きでEFのカラパス選手やヒーリー選手、JaycoのS.イェーツ選手、Red Bull-BORAのソブレロ選手、Ineosのドゥプラス選手などが逃げグループに追いつきました。先頭はシャッフルされた17名になります。
Vismaの作戦は山岳区間を速く走る作戦で、インターバルがかかるので後ろについているとかなりキツイです。淡々と平均ペースで上っていたらダメージを与えることは難しいので、高強度をたくさん入れてその強度に耐えられない選手を落としていく。逃げとのタイム差は縮まらないけれど、キツイレースになっています。それくらいやらないと総合争いのダメージを与えられない。総合に関係ない選手たちはたまらないので、プロトンの人数はどんどん減っていきます。
3つ目の山、Col de Portet-d'Aspetでは、逃げに選手を多く乗せているRed Bull-BORAとMovister、EFがメインになってリードして、人数を減らしながら進みます。後続はあいかわらずVismaが3分くらいでコントロールしますが、山岳コースにかかわらず最初の1時間の平均速度が42.5km/hということで、先頭も逃げもかなりいいペースで走っていることになります。
4つ目のCol d’Agneに入ると先頭グループが人数が二つに割れて、Red Bull-BORAが3名、Movister1名、EFヒーリー選手とIneosドゥプラス選手の6名になります。そこに後続からカラパス選手がアタック。ヒーリー選手が下がり、二人で先頭とのタイム差を詰めていきます。
頂上が近づくとRed Bull-BORAのソブレロ選手とハラー選手が遅れ、Red Bull-BORAヒンドリー選手、Movisterマス選手、Ineosドゥプラス選手の3名になります。どのチームもリーダーがいなくなってしまったり、遅れてしまったりして、いろいろな都合から個人総合争いから外れてしまいましたが、力のある選手たちばかり。なんとしても別の形で結果を残したい。
そこにヒーリー選手から離脱して猛烈に追い上げたカラパス選手が頂上まで残り3kmのところで合流。4名で頂上を越えます。カラパス選手、毎回ステージ優勝を逃しているので、今回も決めたい気持ちが爆発しています。さらに下りでUNO-Xのヨハネセン選手が合流して、先頭は5名になりました。
プロトンではあいかわらずVismaがハイペースで上りを引いています。Col d’Agneではトラトニック選手とべヌート選手が遅れて、Vismaのアシストはケルデルマン選手とヨルゲンセン選手の2名になり、ここはケルデルマン選手がハイペースで引き、先頭とのタイム差を詰めていきます。
ここまでのVismaの引きでUAEはポガチャル選手を含めて4名まで人数を減らしていましたが、Vismaは3名でケルデルマン選手が消耗しているので、最後のPlateau de Beilleでは2名での戦いになります。ここにもう一人いてくれたら心強かったので、クス選手の欠場やワウト選手の調子が上っていない+落車などの影響が悔やまれます。しかし万全でないにしろ、かなりレベルの高いレースを作れているのはチームの結束力とヴィンゲゴー選手への信頼の賜物でしょう。
ケルデルマン選手がPlateau de Beilleの麓で引き終わり、そこからヨルゲンセン選手がハイペースで引きます。タイム差が一気に詰まったので、先頭ではアタックが開始されますが、みんな強いので離れません。
残り10.8km地点でカラパス選手がアタックしてステージ優勝に向けて独走に持ち込みます。前日のヒーリー選手にしろ、今回のカラパス選手にしろ、逃げを完封して独走に持ち込む力とセンスがすごい!カラパス選手はその積極的な走りでステージ敢闘賞を獲得しています。
時を同じくして、ヨルゲンセン選手がスピードを出し切ったところでヴィンゲゴー選手がアタック。これにはポガチャル選手しか反応できません。Soudal-Quickstepのエヴェネプール選手は少し離れてしまいました。
自分としては、このアタックはちょっとタイミングが早すぎると思ったのですが、ポガチャル選手から多くタイムを奪うための早がけだったので、アシストが足りないから仕方なくこのタイミングで行ったのか、それとも勾配的にここでおくべきだったのか。理由はどうあれ頂上まで持つ自信があるのだろうと思っていました。
ヴィンゲゴー選手とポガチャル選手はアタックから2kmでカラパス選手をパス。カラパス選手は後ろにつきましたが、すぐに遅れてしまいました。かなり速度差がある模様。またしても逃げは総合争いに巻き込まれて殲滅されてしまいました。
ヴィンゲゴー選手とポガチャル選手を見ていると、ヴィンゲゴー選手はたまにペダリングが安定せず表情が崩れる時があるのでちょっときつそう。一方でポガチャル選手はかなり脚が回っていて、第11ステージの時に比べるとペダリングに力が入っている。この時点ではまだヴィンゲゴー選手は何か隠していて、もう一回ペースアップするのかなと思っていました。
残り6kmを切るとヴィンゲゴー選手のペダリングが緩くなり始めて、後ろを気にし出しました。明らかにペースが落ちたので、「あ、これはマズイ。」と思ったらポガチャル選手がすかさずアタック。ヴィンゲゴー選手はつけない。これはステージレースの総合争いではよくある光景で、リーダーは先頭にいる限り前に行く必要がないので、周りが全員出し切るまで後ろで見ていられる。そしてスピードが落ちて誰もペースアップできなくなって自分に余裕があれば「じゃ。」とアタックしていく。まさに王者の走りですね。
今回は二人の真っ向勝負で、ヴィンゲゴー選手がそのまま踏めたら最後はどこかでちぎり合いになっただろうし、途中ペースが落ちたらポガチャル選手の方が強いのでポガチャル選手の勝ちという展開だったので、単にポガチャル選手のほうが強かった、という結末でしたね。アタックした後は1kmで約10秒差がついていたので、もしヴィンゲゴー選手が残り1kmくらいまで踏めていた場合、ポガチャル選手は最後のアタックを隠していたかも気になるところです。多分行っていたと思いますけど。ただ今回はいつものイケイケな感じではなく、勾配がきついからだと思いますが、じっくりとペダリングをしてペースを刻んでいたように見えました。フィニッシュ後の様子などを見ると、さすがにキツかったのかなと思いました。
結果、ポガチャル選手がヴィンゲゴー選手に1分8秒差をつけてステージ優勝。ヴィンゲゴー選手が2着で、2分51秒差でエヴェネプール選手が3着でのフィニッシュになりました。また4位に3分54秒差の4位にSoudal-Quickstepのランダ選手、5位に麓で遅れたUAEのアルメイダ選手が入っているのが驚きでしたが、アルメイダ選手が総合4位でランダ選手が総合5位と全然悪くなく、いかに上位2名がレースを爆発させているかがわかります。ジロ明けでさらに連日積極的なレースをして、どんだけ強いんですかね。本当にバトル漫画の主人公みたいです。
ちなみにこのPlateau de Beille。コースレコードは97年にマルコ・パンターニ選手が記録した43分20秒だったのですが、ポガチャル選手が39分41秒で走り、3分30秒近く更新したそうです。しかもエヴェネプール選手まではパンターニ選手より速く、ランダ選手がパンターニ選手と同じくらいということです。これはヨルゲンセン選手とヴィンゲゴー選手のペースも入っているから速いということもありますが、一人でもこのくらいで走れるのかも気になります。
また、このステージ、ポガチャル選手がフィニッシュしてから20分たっても22名しかフィニッシュラインを通過していないという情報があって、多くの選手がタイムカットになる心配がありました。しかしタイムカットになったのはDSMのウェルテン選手のみで、ほとんどの選手が完走しました。しかしフィニッシュ後のカヴェンディッシュ選手の様子を見ると、このステージの残酷さが垣間見えます。ポガチャル選手やヴィンゲゴー選手の余裕さと比べると、この同じツールドフランスを走る選手ですが、この違いはなんなんでしょうね。でもお互いがお互いを尊重して、こういうところもサイクルロードレースの興味深いところです。
そんな地獄のようなピレネー2日目が終わりました。月曜日の休息日を挟んでどれくらい回復できるか(特に総合争い以外の選手・・・)が3週目の命運を分けそうです。Vismaは、例年ポガチャル選手は遅れたら5分くらい遅れるのでまだ総合争いは終わってないという発言をしていますが、これはこのステージの結果から、単にポガチャル選手のバッドデーを期待しているような発言に聞こえます。果たして今年はバッドデーが来るのか。しかしながらヴィンゲゴー選手も怪我から復帰して、短期間でポガチャル選手を脅かすくらいまでに仕上がっていて、たとえ逆転できなくでも十分な結果だと思うので、どっちがどうというのではなく、お互いの健闘を(バックグラウンドも含めて)讃えて上げれるのがいいと思います。
今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。
それでは、見る方もしっかりと休息をして、第16ステージもモニターに集中して最後のスプリントまで寝落ちしまいようにしましょう!