ツールドフランス2024 第13ステージ(Agen - Pau) 考察
いよいよ残り2ステージになったフラットステージ。スプリンターにとっては貴重なステージですが、なかなかそう簡単にはいかないのが今年のツールドフランス。
まずは、前日の落車でRed Bull-BORAのリーダー、ログリッチ選手が未出走になりました。今後のレースに備えるという理由でのリタイアですが、なんでもないところでの落車でタイムを失ってしまい、気持ち的にはかなり苦しいんじゃないでしょうか。移籍して心機一転してツールに挑みましたが、どうもうまく合わないようです。早く気を取り直してもらい、強いログリッチ選手が見れるのを期待しています。
そしてもう一人、UAEのアユソ選手がコロナ陽性になったということで、スタートはしたのですがハイペースな展開についていくことができず、DNFとなりました。ちょっと前だったら「コロナ陽性でスタート?」という感じですが、ヨーロッパではもう風邪と同じような感じなんでしょうね。スタートの時にマスクをしている選手がいたのでどうしたのかと思っていたら、こういうことだったようです。
そんな状態から始まった第13ステージ。どうせ最後にスプリントするだけでしょ?という予想とは裏腹に、かなり荒れた展開になりました。
スタートからアタックの掛け合いでプロトンはずっと一列棒状。スプリンターチームのAlpecinもアタックに参加しています。おそらくこれはメンバーの数が減ってしまったので、自力で追走してスプリントに持ち込むのが難しくなった、だから逃げに乗って他のチームにお膳立てしてもらうことで自分たちの力を温存した状態でスプリントに持ち込む、もしくは追いつかなかった場合は逃げからステージ優勝を狙う、という二重作戦に持ち込みたいからではないかと思います。アルペシンは前日の第12ステージで2名失ってしまったので、フィニッシュ前にもう少し人数を残したいということでしょうか。
このステージも横風が23km/hと強く吹いている中、23名の逃げグループが形成されました。UAEはその中に個人総合8位でトップから6分59秒差のUAEのA.イェーツ選手を送り込みました。さらに多くのチームが逃げグループに入ったことで、珍しく逃げ有利な展開になりました。逃げに載せることができなかったチームはJayco、Soudal-Quickstep、Decathlon Ag2r、Arkea、Intermarcheの5チームで、まずはステージ優勝を狙うJaycoとタイム差をつけられて逃げ切られると総合で困るVismaが先頭を引きます。けっこう必死に引きますが30秒前後を推移してなかなか差がつまらない。先頭の23名はかなりスムーズにローテーションをしているので、さすがに数人だけではタイム差を詰めるのは厳しい。キープが精一杯な感じです。
そのうちハイペースに耐えかねたTotal Energieのブルゴドー選手が遅れて先頭が22名に。この時点でJaycoとVismaとSoudal-QuickstepとArkeaが数名出してメインプロトン引いていましたが、Jaycoがいったん下がります。その後はVismaが2名入れてメインプロトンの先頭を引き続けました。
先頭ではUNO-Xのアブラハムセン選手が「この人は平坦では無敵なのか?」と思わせるくらい元気にガンガン先頭を引いています。Vismaは先頭にトラトニック選手を入れていますが引くメリットがないのでローテーションには入っていません。そしてメインプロトンではJaycoが復活して、Ineos、Soudal-Quickstep、Vismaとともに先頭を引きます。
ここまでも結構忙しい展開でしたが、さらにここからVismaが横風を使ってペースアップ。エシュロンを使ってメインプロトンを分断します。一時第1洲グループは10名くらいの小さなグループになり、Vismaはヴィンゲゴー選手を含む5名が入り、総合リーダーのポガチャル選手、Soudal-Quickstepのエヴェネプール選手は先頭に入れましたが、Ineosのロドリゲス選手は後方の集団に取り残されました。そのため第2グループではIneosの全開引きが始まります。
プロトンの第1グループではVismaは5名が前方グループに入っていましたが、先頭グループからトラトニック選手を下げて6名で第1グループのペースアップを試みます。Vismaが攻撃を仕掛けてから先頭グループとのタイム差を15秒くらいまで詰めていましたが、先頭グループとのスピード差がある程度わかったのか、しばらくすると追走ペースからコントロールのペースに戻しました。この段階のこの状況で先頭グループをキャッチしなかったということは、Vismaには先頭の逃げを泳がせる余裕があるということだったのか、そうでもなかったのか。
そして第1グループのペースが落ちたことで、Ineosが引く第2グループが第1グループをキャッチします。その時点で残り130.9km地点で先頭グループとの差が28秒になっていました。総合争いの出し抜き合いも含めた内容の濃い展開ですが、この時点でまだ34.4kmしか走ってない。このステージがいかにクレイジーな展開かが想像できると思います。本当に息をつく暇もありません。
そしてメインプロトンが大きくなると、先頭グループを捕まえるべくJaycoとSoudal-Quickstepが選手を出して再びメインプロトンの牽引を始めます。でもあいかわらずタイム差はなかなか詰まりません。タイム差がまた1分まで広がると、ArkeaやDecathlon-Ag2r、IneosにVismaも加わってタイム差を徐々に縮めて行きます。
すると先頭グループではUNO-Xのコート選手がアタックして、Ineosのクヴィアトコフスキー選手とLidl-Trekのベルナール選手、Astanaのバレッリーニ選手が合流して4名のグループが形成されます。コート選手のアタックの意味としては、吸収されそうになったからというのもありますが、逃げにA.イェーツ選手がいることでメイングループが逃げを容認してくれないので、A.イェーツ選手を切り離した逃げを作り、プロトンに逃げを容認させてタイム差を広げたい、というアタックでしょう。
逃げにA.イェーツ選手がいることで、ずっと速いペースでプロトンとの追っかけっこをしなければならず、そうすると逃げのメンバーの消耗が早く、ローテーションを回る選手も減ってしまうのでペースが落ちて吸収されてしまう。だからそうならないためにもA.イェーツ選手を置きざりにしてプロトンに戻すことができれば、プロトンも逃げを容認してタイム差を開いてくれるだろう。そして大きな逃げグループからさらに前に新しい逃げが発生すると、残された選手たちはお見合いをして統率が取れなくなる。結果的にペースが上らなくなる、というのが定番なので、それまでずっと平均時速50km/hで逃げ続け、逃げのメンバーもけっこう消耗してきた段階で、プロトンとのタイム差を見ての行動だったでしょう。
そして4名のアタックが決まると、後方グループは案の定お見合いが発生して統率が取れなくなり、ペースが落ち始めました。メインプロトンは一時ペースを落として先頭と1分30秒差になっていましたが、先頭が割れた情報が入ったのか、すぐにペースを持ち直して後方グループをキャッチしにかかります。4名の逃げに行かれてしまった後続の逃げグループはワンデーレースのように激しいアタックを繰り返しましたが、激しいお見合いの結果、4名を捕まえる追走の兆しは作れませんでした。
ここで興味深かったのは73.8kmの補給地点の直前でメインプロトンは後続の逃げグループをキャッチしかけたのですが、メインプロトンはしっかり補給をとっていたようで、そこで再び15秒差くらいに差が開きました。さっき必死になって30秒差をつめていたので、「あれ、すぐ捕まえなくていいの?」と思いましたが、すぐ前に見えていたし、焦らなくてもよいくらい後方グループのペースが落ちていた、ということですね。
そしてついに残り68.5kmで先頭の4人を除いた、A.イェーツ選手を含む大きな逃げグループはメインプロトンに吸収され、ほぼ80kmにわたる追いかけっこが終わりました。危険な逃げは捕まりましたが、メインプロトンは強い風を警戒して逃げとのタイム差を1分から広げません。そしてほとんどのスプリンターチームが逃げから帰ってきたため、それらのチームはスプリントに切り替えるから最後はスプリントになるだろうと思いました。
残り60kmになるとまたUAEを中心に横風アタックが発生。プロトンが3つに分かれました。ポガチャル選手やエヴェネプール選手もローテに入ってガンガン引いて残り49.5kmで先頭4名をキャッチ。しかし総合上位陣は固まっていてダメージを与えられなかったので、先頭のペースは落ち着きました。その後もそこからアタックがかかりましたが、スプリンターチームがチェックに入って逃げを警戒します
その時点で先頭は47名で、5名のスプリンターが入っていました。
フィリップセン選手
ドゥリー選手
フローネヴェーゲン選手
ギルマイ選手
アッケルマン選手
残り40.5kmで遅れた第2プロトンがメインプロトンに追いつきます。すると直後に山岳ポイントを狙ってコート選手とアブラハムセン選手がアタック。しかし逃がしてもらえず、そこからEFのヒーリー選手とLottoのファンギルス選手とEFのカラパスが追走。その後の残り38.9km地点でカウンターアタックをかけたカラパス選手とUNO-Xのヨハネッセン選手が抜け出すことに成功。プロトンも追走しますが、どこのチームもかなり消耗しているようでチームでまとまって引けるチームがありません。
2名を追ってAlpecinの選手がプロトンを牽引しましたが、一人ではなかなかタイム差がつまらない。すると残り24km地点でLottoのカンペナールツ選手が先頭を引いて一気にタイム差をつめ始めます。カンペナールツ選手一人で3人分くらいの引き!
そして残り21.6kmで逃げの2名をキャッチして、レースはまた振り出しに戻ります。その時点でプロトンの人数は103名。そこからは細かいアタックと吸収を繰り返していきます。まとまって引けるチームがない中、残り10kmを切ってVismaがプロトンをまとめて引き始めます。そして残り5kmを切って各チームがまとまって前に出始めます。みんなこのタイミングを待っていたようです。UAEとIntermarcheが先頭を固めてフィニッシュに向かいます。
残り3.2kmでアブラハムセン選手がアタックするも残り2.4kmで吸収。その後落車もあり混沌としましたが、Alpecinのフィリップセン選手がステージ2勝目を挙げました。フィリップセン選手はタフなステージでのスプリントが強いイメージがありますね。ギルマイ選手は最後に囲まれてしまい、まともにスプリントをすることができませんでした。2位と3位は前日の第12ステージと同じVismaのワウト選手とIsrael Premier Techのアッケルマン選手でした。ここまでに色々ありすぎて、「やっと終わってくれた〜。」と安心感のある(?)スプリントに見えてしまいました。
フィニッシュ前の落車は、牽引を終えて下がってきたArkeaのカピオ選手にスプリントに向けて上がっていたLottoのファンヒルス選手が当たったことによる落車でしたが、あれは本当に気をつけないといけません。一緒に前に向かっている選手なら身体を当て合えばバランスが取れてまだいいのですが、牽引を終えて前から降ってくる選手は力は抜けているし、ベクトルが後ろ向きなので、ちょっと当たられただけでバランスが崩れて転んでしまいます。ファンヒルス選手としてみたら、カピオ選手が寄ってきたから落車を避けるために身体を当てにいった(カピオ選手は大柄だし)んだと思いますが、カピオ選手は牽引を終えて前から降ってきていて、自分がフェンス側に寄っていってるのもわからないくらい完全に出し切っている状態なので、まさか誰かが当たってくるなんて思ってもみなかったでしょう。なのでファンヒルス選手が当たった時にすぐにバランスを崩して転んでしまった、ということです。ファンヒルス選手がカピオ選手に当たらないといけないくらいのところに入っていかなければ落車はなかったと思うので、ペナルティを与えられるのは仕方がないのかなと思います。アジアのスプリントはかなりごちゃごちゃで、10位くらいでも当たりながらスプリントしてくるのが普通なので、牽引が終わった後も他の選手に当たられてもいいようにしっかりハンドルを持って構えておく、なんて言われていました。今年は本当にスプリンターが多いので、位置取りが本当に難しい。そんな中でフェンス脇の攻防がキモになっているように思います。
そして他の選手が安全にスプリントから離れてフィニッシュしている中、ポガチャル選手がスプリンターに加わって、ステージ9位になっていて、この人は本当にレースを楽しんでいるんだなと微笑ましくなりました。本来なら週末の2連続山頂フィニッシュに備えて体力の消耗を抑えるのがセオリーですが、むしろ彼はハードなレースが好きなので、このフラットステージでも横風でガンガン前を引いたり、スプリントに参加したりと、自分を追い込んで、強さを見せてなんぼ、のような走りが印象的でした。この調子でイケイケで山頂フィニッシュを制してしまうのか、はたまたどのような展開になるのか、この人は本当に読めません。本当に「強さ」や「速さ」を追い求めるのが好きな人なんでしょう。
さて、展開の激しさから文章だとごちゃごちゃしてしまいますが、どうしてもレース展開も含めて書き残しておきたいと思いました。フラットステージは逃げができるかできないかの駆け引きの前半と、逃げからステージ優勝を狙う駆け引きとフィニッシュスプリントのある後半に見どころがたくさんあります。昔のTV放送では放映時間の関係でレースの前半があまり見れず、すでに決まった逃げとプロトンという映像から始まることが多かったですが、今は配信でスタートからフィニッシュまで見ることができるので、ぜひこのフラットステージの前半で、各チームがどういう戦略の上で駆け引きしているかを検証してみてください。ある時はあっさり逃げが決まったり、ある時は100km走っても逃げが決まらないことがあります。ここがわかってくるとレース観戦がさらに面白くなるのでお勧めです。
そしていよいよピレネー決戦が行われます。2回連続する山頂フィニッシュ。ここで個人総合がほぼ決まると言っても過言ではないでしょう。どんな展開でどんな結末が待っているのか、今週末は長い夜になりそうです。
今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。
それでは第14ステージで手に汗握りましょう!