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ツールドフランス2024 第17ステージ(Saint Paul Trois Châteaux - Superdévoluy) 考察

いよいよ始まった3週目の山岳決戦。常々3週目に標準を合わせていると言っていたヴィンゲゴー選手と、ジロ明けでも常に全開なマイヨジョーヌのポガチャル選手、そしてその戦いにノンプレッシャーで絡んでいるエヴェネプール選手の個人総合争いがますますヒートアップしました。そしてなかなか最後まで逃してもらえない逃げ職人たちの挑戦は?

このステージはどんな展開だったのか振り返ってみましょう。

第17ステージは距離177.8kmで、前半は上り基調で徐々に標高が上っていき、114.8kmのスプリントポイントを経て、140km付近から2級、1級の山岳ポイントを超えて3級のSuperdévoluyにフィニッシュする獲得標高2850mのコースで、コースの難易度的にスタート前から逃げ切りステージ優勝のチャンスがあると言われているステージでした。

このステージでは第16ステージで2位になっているBahrainのバウハウス選手がDNSでした。フラットステージが終わったので、スプリンターとしては無理して山岳コースで苦しんで疲労する必要はありませんからね。ツールドフランスの完走に興味がなければ、次のレースへの調整のために早めに切り上げた方が賢明ですね。バウハウス選手の場合はステージ2位も取っているので、本人もキリが良かったんじゃないでしょうか。

そしてこのステージは前半区間は横風が強いと言われていました。なのでスタートしてから風を警戒してかプロトンではしばらく動きがなく様子を見ている感じでしたが、5km地点でGroupma-FDJとEFがペースアップを開始。エシュロンができてプロトンが分断されます。その時の風速が35km/hでこれまでのステージで強いと言われていても25km/hだったので、かなりの強風です。プロトンはこの風の中を時速約55km/h以上のペースで猛進しました。この動きでUAEシバコフ選手とソレル選手、そして何名かのスプリンターを含む20名ほどのグループが遅れました。

プロトンは8kmほどハイペースで進みましたが、それ以降は特にプロトンが割れたり、総合争いの選手が取り残されることもなかったので、13km地点の街中で一旦スピードが落ち着きました。遅れていたグループは一時20秒ほど離れていましたが、7kmかけてプロトンに復帰しました。

その後は風の影響も弱くなったので、逃げを決めるべくアタックが繰り返されました。先頭の選手も目まぐるしく変わり、プロトンもずっと縦一列に伸びていますが、ほとんどのチームが反応するので全然逃げが決まりません。この時にUAEの選手たちはコントロールする意思がないのか、疲れていて前に出れないのか、ほとんどがプロトン後方に位置していました。それを見てVismaやIneosも積極的にアタックに反応して選手を逃げに送ろうとします。

そんなハイペースのアタック合戦の中、アスタナのルチェンコ選手がリタイアになりました。第12ステージの落車で左膝の故障したことが影響したそうです。両手で顔を覆っていたので、よほど悔しったんでしょう。元気でもスパッと出走をやめる選手もいれば、痛みが出ても完走を目指して走る選手もいて、ツールドフランスに対する価値観も選手によって色々あるようです。

すると60km地点でようやくVismaベヌート選手、Red Bull-BORAユンゲルス選手、Groupma-FDJグレゴワール選手、UNO-Xコート選手の4名の逃げが決まりました。最初は16秒ほどの差でしたが、メンバーがいいので次第にタイム差が開いて言いきます。しかしプロトンはまだアクティブで、逃げにブリッジをかけようとアタックは続きます。

68km地点でようやくUAEポリッツ選手が出てきてプロトンを落ち着かせますが、それでも一人ではどうすることもできず、アタックは止まりません。あまりの激しい展開に、Movsterのガビリア選手やDecathlon-Ag2rのベネット選手がバイクを降りてしまいました。ただでさえここまで内容の激しいレースで、さらに厳しい山岳を越えてきたスプリンターとしてはもうお腹いっぱいということでしょう。次のレースが控えているのなら、なおさら山岳に対するモチベーションが低くなりそうです。一方でカヴェンディッシュ選手やクリストフ選手の完走に対するモチベーションは非常に高く、特にカヴェンディッシュ選手は最後のツール・ド・フランスになるので意地でもニースまで辿り着きたい気持ちが強いと思います。

そしてプロトンから追走を試みるアタックが続いていたところ、79km地点でマイヨジョーヌを含む40名がプロトンから抜け出しました。おそらく中切れ(一列の時に前の選手に続かず後続の勢いが止まってしまう現象)の影響で、グリーンジャージのギルマイ選手やフィリップセン選手や、UAEやVismaのアシストが数名取り残されてしまいました。後続では乗り遅れたEF勢が牽引をして、追走グループを追います。そして89km地点で追走を吸収。EF勢はそのままの勢いで追走をパス。そこからまた逃げグループにブリッジをかけるためのアタックが繰り返されます。ここまで約2時間の平均時速が49km地点で、後半の山岳がどうなるのか心配になるくらいでした。前日のフラットステージより速い。

そうこうしているうちに114.8kmのスプリントポイントになり、逃げの4名は競わずに通過。皇族ではギルマイ選手とフィリップセン選手との一騎打ちになりましたが、ギルマイ選手が先着。まだ腕が痛むようでスプリント後に包帯を巻いた右腕を振っていたのが印象的でした。

その後、アタックが続きましたが、126km地点で突然43名の追走グループが形成されました。スプリントポイントが終わったのでチェックが緩くなったのか、あまりにも続くので総合勢が「もういいかげんにして〜」と行かせたのか、おそらくそんな感じの理由で形成されたのだと想像しますが、43名はかなり多いので、真相はどうだったのか気になります。

追走43人の錚々たるメンバー
ソレル、シバコフ(UAE)
ラポルト、ワウト(Visma)
ヒルト(Soudal-QuickStep )
クラス、デジャルダン、ジュガ(TOTAL Energie)
マルタン(Cofidis)
ドゥプラス、トーマス(Ineos)
カラパス(EF)
マス(Movister)
マンチェス(Intermarche)
ハイグ、ポエルス、モホリッチ(Bahrain)
ベルナール、スクインス、ストゥイヴェン、ギボンズ(Lidl-Trek)
マデュアス、パシェ、キュング、ゴデュ、ルッソ(Groupma-FDJ)
バルデ、バルギル、オンレイ(DSM)
アルミライル、ゴドン(Decathlon-Ag2r)
C.ロドリゲス、ヴォークラン、ガルシアピエルナ(Arkea)
クルセット、アブラハムセン(UNO-X)
テハダ(Astana)
ウィリアムス(Israel Premier Tech)
ハラー、デンツ(Red Bull-BORA )
ユールイェンセン、メズゲック(Jayco)
ヴァンフック(Lotto)

そこに130km地点で追走の5名が合流して追走が48名になります。
S.イェーツ、マシューズ(Jayco)
ジマーマン(Intermarche)
クリストフ(UNO-X)
アランブル(Movister)

プロトンはUAEがコントロールをしてようやくペースが落ち着いて、逃げとのタイム差が4分以上に広がりました。これで久しぶりに逃げでのステージ優勝者が出る可能性が高まりました。

最初の山岳ポイントのCol Bayardでは、追走グループのペースがあがって追走がバラバラになります。山の途中でCofidisのマルタン選手のアタックにマデュアス選手が合流して二人で30秒差で頂上を越えます。追走グループはマルタン・マデュアスデュオから1分差で頂上を越えました。プロトンはゆっくり走っていますが、アタック合戦が長引いた影響か、そこからも遅れる選手が多数出ました。プロトンは6分23秒差でCol Bayardを越えました。この時点で逃げからのステージ優勝はほぼ確定になりました。

そしてこのステージで一番の難関Col de Noyerでは、マルタン・マデュアスデュオが先頭に追いついて6名になりましたが、追走からすごい勢いでJayco S.イェーツ選手が追走をかけて逃げグループとのタイム差を縮めます。それを追ってEFカラパス選手とIsraelウィリアムス選手も追いすがります。S.イェーツ選手が逃げに追いついて、カラパス選手とウィリアムス選手が逃げに追いつくタイミングで、S.イェーツ選手が逃げグループから再びアタック。それにカラパス選手とウィリアムス選手が反応するも、ウィリアムス選手はカラパス選手について行くことができず、先頭はS.イェーツ選手とカラパス選手の一騎打ちになりました。

ここまでの走りをみたところ、S. イェーツ選手は緩斜面が速く、カラパス選手は急斜面が速い。カラパス選手の急斜面での加速は別格で、それまで緩斜面で差をつけていたS.イェーツ選手が、カラパス選手の急斜面の加速で一気に追いつかれて、そして置き去りにされてしまいました。そこからカラパス選手の独走が続きます。カラパス選手が頂上を1番で通過して、11秒差でS.イェーツ選手、32秒差でMovisterマス選手の順で通過します。

カラパス選手は下りでもリードを広げ、最終的にS.イェーツ選手に37秒差で自身ツールドフランス初のステージ優勝を飾りました。第3ステージでマイヨジョーヌを着用して全てのグランツールでのリーダージャージを着ることになりましたが、今度は全てのグランツールでのステージ優勝も成し遂げました。これまでのステージでもカラパス選手は積極的にアタックをして逃げ切り優勝を狙っていましたが、なかなか逃げが決まらずに悶々としていたのだろうと思います。しかしようやく逃げ切りステージ優勝を見て、見ている方も爽快でした。何かを成し遂げるためにはどんなに横槍が入っても、どんなうまく行かなくても、継続することで成功に近づくことができる、ということの見本のような走りでした。

また2位のS.イェーツ選手も3位のマス選手も元々は個人総合狙いだったと思うのですが、それが難しくなった後にも気持ちを落とさずに、チームの責務として逃げ切ってシングルに入る責任感のある走りも見事でした。

一方でカラパス選手が独走を決めてColde Noyerを下って次の山岳ポイントに向かっている時くらいに、総合争いでも動きがありました。同じく1級のCol de Noyerの頂上付近で、UAEのアルメイダ選手が引く、先頭グループから8分47秒遅れているプロトン(と言ってももう12名しかいませんでしたが)からポガチャル選手がアタック。ポガチャル選手はいつも他の選手の逆サイドからアタックをするので、今回もヴィンゲゴー選手とエヴェネプール選手は少し遅れて反応することになります。すぐにつくことができなかったので、少し間が空いてしまい、しかもヴィンゲゴー選手が失速してエヴェネプール選手に先行を許します。エヴェネプール選手がポガチャル選手から10秒差、頂上付近でラポルト選手に合流したヴィンゲゴー選手が15秒差でCol de Noyerの頂上を通過していきます。

エヴェネプール選手とヴィンゲゴー選手とラポルト選手は下りでポガチャル選手をキャッチ。総合上位はまとまってフィニッシュラインに向かいます。
次の3級のSuperdévoluyをラポルト選手が先頭を引いていると後ろからエヴェネプール選手がアタック。ポガチャル選手が追うと思っていたヴィンゲゴー選手は動けずにポガチャル選手と牽制状態になります。アタックをしたエヴェネプール選手は逃げグループに入っていたヒルト選手に合流して、ヒルト選手が引けるだけ引いてフィニッシュに導きます。タイム差が開き始めたところで、ヴィンゲゴー選手も逃げグループにいたワウト選手とベヌート選手と合流して前を追いました。

Vismaはそもそも逃げが決まってからはべヌート選手のステージ狙いと思っていたそうですが、48人の逃げが決まって、そこにカラパス選手やS.イェーツ選手など強い選手が乗ってしまったのでちょっと失敗でしたが、結果的に逃げグループに多く選手を乗せていてラッキーでしたね。エヴェネプール選手とのタイム差を最小限にとどめました。しかしフィニッシュ前ではポガチャル選手が後ろからロングスプリントをかけてヴィンゲゴー選手に2秒差をつけてフィニッシュしました。結果、ポガチャル選手がエヴェネプール選手から10秒、ヴィンゲゴー選手が12秒差でのフィニッシュになりました。8分47秒あったタイム差を、わずか10kmほどで7分13秒まで縮めていました。

今日は個人総合は動かずに今後のステージに向けて仲良くフィニッシュするんだろうなと思っていましたが、そんなことはありませんでした。のちのインタビューでポガチャル選手は「なんでアタックしたかわからない」と発言していますし、エヴェネプール選手は調子をあげて自信がついてきているみたいですし、若い選手たちは今までの常識が通用しないようです。まさに新世代の台頭ですね。もしかするとポガチャル選手もターゲットをエヴェネプール選手に変える必要が出てくるかもしれませんね。

第17ステージも息つく暇もない目まぐるしい展開のステージになりました。このステージでは横風の分断から逃げが決まるまでのアタック合戦、そして山岳コースでのちぎり合いと、ロードレースの全てが詰まっていたステージかと思います。そんな中で優勝したカラパス選手は逃げグループ最強でした。翌日の第18ステージもコースレイアウトを見ると同じような展開になりそうなので、新たな逃げの攻防戦のドラマを垣間見れたらと思います。

今回も読んでいただきありがとうございました!今後の記事の励みになりますので、記事を気に入ってくれた方は「スキ」や「記事をサポート」していただけると嬉しいです。他にもこのnoteに走りに関することやサイクリングに関することを書いているので、参考にして楽しんでいただけると幸いです。

それでは第18ステージも予想もつかないどんでん返しを期待して。

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 別府 匠 / Takumi BEPPU
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