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トランプは接戦予測だったのに圧勝した、というのは本当か?(3)


4.トランプが激選州全てで勝利することは予測されていなかったのか?


ここからは、「トランプが7つの接戦州(激戦州)で勝利することは予測されていなかったのか?」について考えていく。

RCPの予測の支持率と、投票結果について、さらに詳しく見ていこう。

図6に、7つの接戦州(激戦州)の、事前予測の支持率のトランプ支持率-ハリス支持率、及び、得票結果のトランプ得票率-ハリス得票率を示す。



これは、図4、図5の、トランプとハリスのグラフの差をよりわかりやすく表したものである。正の値はトランプ有利、負の値はハリス優位を意味している。これを見ると、もともとトランプは5州で有利だったが、選挙結果では、全ての州で事前予測よりもトランプの得票率の優位性はより大きくなっている(ハリスに後れを取っていた2州もトランプが優位となり勝利した)。事前予測の支持率は、わずかではあるが、ハリスが有利な方向にバイアスを持っていた、ということがわかる。

では、その前の2回はどうだっただろうか?

図7が2020年の同様の図である。



バイデンが有利なほど左側に棒が伸びるが、事前の予測に比べ、実際の得票結果では、トランプが差を詰めた、またはより支持を伸ばした州が多いことがわかる。図8が2016年の同様の図であり、事前予測でクリントンの支持が勝っていた3州は、得票結果では全てトランプがより票を取って勝利していた。



過去2回共に、事前予測に比べて、得票結果ではトランプはより多くの票を獲得しているのがわかる。
この3年分をまとめたものが図9で、ここには、全米平均と7つの接戦州(激戦州)の平均も示してある。



全米平均も、7つの接戦州(激戦州)の平均も、今回は、過去2回と同様、事前予測よりも実際の選挙ではトランプが多く得票している。2024年の7つの接戦州(激戦州)平均は、トランプが予測よりも1.8%分有利になっている。2020年は1.1%分有利、2016年は1.8%分有利であり、今回と同程度である。

今回の直前予測の支持率では、ハリスが優勢だったのはウィスコンシンとミシガンで、トランプに対し、それぞれ0.4%、0.5%有利なだけであった。過去と同様、事前予測よりもトランプ側に少しでもシフトすれば、これらの州でもハリスは負け、7つの接戦州(激戦州)でトランプが全て勝つという可能性はもともと十分にあっただろう。実際、自分自身はその可能性がかなりあるだろうと考えていた。

事前予測がトランプ側に若干不利に出るのは、隠れトランプ、などという言葉で8年前から議論されてきており、よく知られたものであったはずである。この傾向については、世論調査の観点から問題視されていて、調査機関でも、このバイアスに対処しようと工夫は凝らしているようである。しかし、2016年に続いて、2020年の大統領選でもやはりそのバイアスは残っていた。さらに何らかの工夫をしているとしても、今回もそうしたバイアスが残っている可能性はもともと十分にあっただろう。今回は逆に隠れハリス支持者がいて、事前予測がハリスに不利に出る可能性もささやかれていたが、そうはならなかった。

いずれにしても、事前予測を見れば、7つの接戦州(激戦州)はかなりの接戦であり、わずかな誤差でどちらにも転びうるものであり、過去2回の選挙でのバイアス傾向を踏まえれば、7つの接戦州の全てでトランプが勝利する可能性は、事前に十分に予測できたはずである。

今回の選挙の焦点は、最初から、この事前予測のバイアスをどのように考えるかであったはずである。過去と同様のバイアスがあればトランプが全州で勝利すると予測され、過去とは違って事前予測に過去と違ってバイアスがないならペンシルベニアをどちらが取るかで勝者が決まる状況だった。しかし、テレビでも新聞でもそのようなバイアスに関する解説はほぼなかったと思う。そもそも、このバイアスの議論こそが重要な情報であったはずで、そこにもっと注力した解説がなされるべきだったと思う。

5.メディアの選挙報道に望むこと

メディアでは、トランプが勝利した理由について、ヒスパニックが、黒人が、アラブ系が、若者が、女性が、都市部の人々が、よりトランプを支持するようになったとして、それぞれいろんな解説が加えられていた。確かにそういう解説は意義深いし学ぶところも多いし、そういう分析は必要である。しかし、そうした影響については誇張されているようにも感じた。そんなに顕著に投票動向が変わったのなら、トランプの得票がもっとずっと多くてもよかったはずだが、接戦州(激戦州)でのトランプの得票は、アリゾナを除けば、ハリスを最大1~3%ほど上回った程度である。メディアとしては、ある程度誇張して伝えたほうがおもしろそうに伝えられるということかもしれないが、ごく一部が投票行動を変えたに過ぎないことももっと強調されてしかるべきだと思う。

2024年の選挙では、事前予測の結果を踏まえ、得票が僅差であった場合、何日も結果が確定しない可能性も指摘されていたのに、数時間以内でトランプが接戦州(激戦州)全てで勝利が確定したために、圧勝だったという雰囲気になったのもあるだろう。確かに、郵便投票の開票に数日かかる州もあり、また、ペンシルベニア、アリゾナ州などは、得票差が0.5%以内なら、再集計が必要であり、その可能性はゼロではなかった。しかし、本当に多くの州で0.5%以内程度の僅差になる可能性はそれほど高くなかったはずである。こういうことも冷静に分析してほしいものである。

新聞も、テレビの開票速報も、様々な取材をもとに、有益な情報を提供してくれているし、コメンテーターもいろいろな見方を示してくれて、とても参考になる。しかし、アメリカ政治の専門家が、選挙の専門家であるわけではないため、選挙や得票動向について的確なコメントをしているかというと、そうではないように感じることも多い。選挙については、趣味で分析・考察している方も含め、知識が豊富な方はそれなりに存在する。したがって、そうした専門家にも出演してもらい、選挙について的確な分析を提供してもらうようにした方がよいのではないだろうか?もう少し深い、適切な解説がなされるようになるとよいと思う。

そうすれば、今回の選挙の総括が、「トランプは接戦予測だったのに圧勝した」などという解説にはならないはずなのだが…。



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