#2 インドの便利アプリ「Urban Company」を使って&インタビューしてわかった価値(前編)
近年インドでは、有望なスタートアップが続々と誕生している。
2022年9月7日時点では、インドには107社のユニコーン企業があり(参考記事)、アメリカ、中国に次いで世界第3位の企業数となっている。
「今後4年間でさらに122企業がユニコーンになる可能性がある(参考記事)」、「近年は中国よりインドの方がユニコーン企業が出るスピードが早い(参考記事)」、などとも報道されており、大変エキサイティングな時期であると言えるだろう。
弊社もインドのスタートアップの動向、特にユニコーン企業に着目しているが、ただ調べるだけではなく、実際にそれらの企業が提供するサービスを可能な限り利用し、どのような点がユーザに歓迎されているのかを実体験をもとに考えてみることも大切にしている。
今回はインドのグルガオンに本社を置くユニコーン企業「UrbanClap Technologies India Private Limited」が提供する、清掃・修理・美容・マッサージなどの技術を持つ個人のサービス提供者の派遣サービスアプリ「Urban Company」を実際に利用してみた。
(ちなみに筆者は一度使ってかなり気に入り、現在は週1回は必ず利用している)
本記事では、そのサービスの内容の説明、筆者の利用体験記、ユーザ目線・サービス提供者目線でのメリットを記載する。
後編では、一連の体験と考察から得られる日本・日本企業への示唆を記す。
前編のサマリ
Urban Companyとは
清掃・修理・美容・マッサージなどの技術を持つサービス提供者(個人)と、サービスを受けたい個人をマッチングするプラットフォーム。サービス提供者は家まで来てサービスを行ってくれる。
ユーザにとってのメリット
質は十分であるのに価格が安い(コスパが高い)、家まで来ていただける(利便性が高い)、ユーザがサービス提供者を選ぶ手間がないという点。
サービス提供者にとってのメリット
サービス選択時にあえて「個を立たせない」売り出し方がされているため、尖った強みがなくてもユーザに選んでもらいやすい。
また得られる給与も高い。平均的には前職の1.5-2倍の給与が得られているというデータあり。
またUrban Companyは、サービス提供者が働く中で蓄積されたデータを活用して、サービス提供者に融資サービスを提供しているため、給与とは別に長期的な生活の安定のための資金を得られる。
このような金融サービスは中国発のDiDi、シンガポール発のGrabでも行われており、一種の金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)の役割も果たしている。
Urban Companyを運営するのはどんな企業か?
アプリ「Urban Company」を運営する「UrbanClap Technologies India Private Limited」は、2014年に20代前半の創業者3名で設立された、インドのグルガオンを本社とする企業である。
インド、オーストラリア、シンガポール、アメリカ、アラブ首長国連邦、サウジアラビア王国の6カ国、計65都市で事業を展開しており、ユーザは500万人以上、専門家(サービス提供者)は3.2万人を超えるという。
(参考:公式サイト)
2021年4月にはシリーズFラウンドで2億5,500万米ドルの資金を調達し、ユニコーン企業となっている。
Urban Companyはどんなサービスか?
Urban Companyとは、清掃・修理・美容・マッサージなどの技術を持つサービス提供者(個人)と、サービスを受けたい個人をマッチングするプラットフォームである。サービス提供者は家まで来てサービスを行ってくれる。
このように書くと、日本の「ホットペッパービューティー」の出張版のようなものを思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれない。
しかし、Urban Companyは、ホットペッパービューティーのようにユーザが自力で事業者のリストから選ぶ形式ではない。
例えば、筆者がよく利用するマッサージだと、「サービス提供のレベル感」と「サービスカテゴリ(タイマッサージ、スウェーデン式マッサージ等)」を選択すると自動で適切なサービス提供者がアサインされる。
逆に言うと、評価を見てサービス提供者を選ぶことはできない。
※ただし、一度自分がサービスを受けたサービス提供者は、次回から選択肢に出てくるため選択も可能
派遣されたサービス提供者は、Urban Companyの制服を身につけた、礼儀正しい方々で、到着するとすぐテキパキと準備をされる。
Urban Companyの決まりとなっているのだと思うが、施術中はスピーカーでヒーリングミュージックを流してくださり、リラックスした状態で施術が受けられる。
マッサージ自体の質も、(素人の筆者観点ではあるが)毎回満足のいくものであった。
また価格も、実店舗で実施されているものと比較すると安い。あくまで筆者の体感だが、店舗での同程度のサービスの半額程度のように思われる。
ユーザ目線でのメリット:コスパが高い便利サービスを、サービス提供者を探す労力なしで使える
前章の体験をまとめると、Urban Companyはユーザ目線で以下の価値があると感じる。
質は十分であるのに価格が安い(コスパが高い)
家まで来ていただける(利便性が高い)
ユーザがサービス提供者を選ぶ手間がない
特に最後の点について説明しておこう。
Urban Companyより安くて質が高いサービスを提供するマッサージ店や個人事業主は探せばおそらく多くあるだろう。しかし、実際に自分でググって探して比較して…を行うのは労力がかかる。
筆者はマッサージは好きだが、マッサージ師の技術に強いこだわりがあるわけではないし、「おトク」への意欲もそこまで高くない。
「マッサージ店やマッサージ師を選ぶのには時間をかけたくない。『いい感じ』の方にマッサージしてもらえれば…!」というのが正直なところだ。このような方は多いのではないのだろうか。
Urban Companyは、筆者の「標準化された品質を、検討・比較の手間なく簡単に使うことができる」ニーズを満たしてくれている「ちょうど良い」サービスだと感じた。
(これにより、筆者はUrban Company利用にハマり、この2ヶ月およそ週1回ペース、合計10回程度マッサージやフェイシャルエステ等のサービス提供者を派遣し、施術していただいている。)
サービス提供者のメリット:稼ぎやすくなる・生活が安定する
また、もちろんUrban Companyを使うことは、サービス提供者にとってもメリットがある。
一般的に個人事業主で特段の突き抜けたスキルがなく、また広報手段が乏しい場合、新規に高い単価で注文を獲得するのは難しいことが多いと推測される。
しかし、Urban Companyに登録しておけば、そのブランドの名前があることで、フリーで働く場合と比べて注文を受けやすくなる(全く注文を受けられないという心配が少なくなる)と言えるのではないだろうか。
また以前企業に勤めていたサービス提供者にとっては、Urban Companyの方が単価が高く、フレキシブルな働き方もできることが特に大きなメリットに感じられているようだ。
Urban Companyで働き始めて4ヶ月という、筆者にフェイシャルマッサージをしてくださった女性のAさんに、給与の変化を聞いてみた。
また、フットマッサージをしてくださった女性のBさんはこう語っていた。
その他にも、筆者がサービスを受け、質問した方はほぼ全員が「給与が上がった」と回答していた。
上記は定性的なインタビュー情報であるが、「多くの稼ぎを得られている」全体の傾向は定量的にも実証されている。
Urban Companyのサイトには「当社のサービスパートナーは、Urban Companyで働く以前の収益の1.5倍から2倍を獲得しています。」と記載がある。
ただこれは長時間労働ゆえではない。Urban Companyのブログには、「Urban Companyのサービス提供者は、他のサービス提供者と比べてかなり少ない時間 (ほぼ 50% 少ない) で、少なくとも 60% 高い正味の月間収益を得ている」旨が記されている。
またサービス提供者にお話をお伺いしていると、良かったことは単価/給料が上がったことだけではないことがわかった。
彼女たち曰く、Urban Companyは全員に対して保険を提供、また希望者に対してはローンも提供している。
働くサービス提供者たちの継続的な生活の安定にも注力しているのだ。
3年前からUrban Companyで働いているという、タイマッサージをしてくださった女性のCさんはこう語る。
また同様にコロナの時にローンを利用したという、フェイシャルマッサージとヘッドマッサージをしてくださった女性のDさんはこう語る。
Urban Companyは、データを活用した「サービス提供者向けの金融サービス」とも言える?
調べてみると、Urban Company側は、サービス提供者が働く中で蓄積されたデータを活用して、融資サービスを提供していることがわかった。
具体的には以下の3つのローンである。(参考記事)
「Newcomer kit loans(新人キットローン)」:最初に仕事に使う道具を購入するためのローン
「Personal loans(個人ローン)」:使途申請不要で5,000ルピー(約9,000円)~30,000ルピー(約54,000円)が借りられる即時ローン
「Home loans(家用ローン)」:その名の通り、家を購入するためのローン
この点は、サービス提供者たちの課題を解決する画期的な方法だと感じた。どういうことか以下に説明しよう。
そもそも、Urban Companyで働くサービス提供者たちは、信用情報や必要書類がないことが理由で、一般的な金融機関でお金を借りられない人が多いという。(参考記事)
そのため、家計が自転車操業になりがちで、長期的な投資(例えば、家、車などの資産の購入や、子どもの教育費への投資など)ができない。
不安定な生活をせざるを得ず、結果として貧困が次の世代にも連鎖してしまうことも多い。
しかし、Urban Companyの下でしっかり研修をして働くことで、先述の通り、相場よりもある程度高い金額を得ることができる。(もちろん人によるが、平均値ベース)
これで、まず短期的に得られるお金(いわゆる「日銭」)が底上げされる。
加えて、ある程度Urban Companyで働き実績を積むことで、Urban Company側には、その人が「どのくらいのスキルを持ちどのように働き、どのくらい稼げる可能性があるか」「どの程度の金利で、どの程度の額まで貸せるか」を判断できるデータが貯まる。
いわば、そのサービス提供者には「Urban Company信用スコア」が付与されているような状態だ。それにより、ある程度まとまった額をUrban Companyから借りられるようになる。
これにより、短期的な資金(給与)だけではなく、中長期的な生活の安定につながる資金も得られるというわけだ。
Urban Companyは「様々なサービスの提供者として働いてもらう」ことが入り口ではあるものの、最終的には社会的弱者に向けた「金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)サービス」でもあると言えるのではないだろうか。
他国にも近い構造を持つサービスあり 〜中国「DiDi」とシンガポール「Grab」の例
入り口は金融とは異なるサービスではあるものの、そこでのデータを用いてゆくゆくは金融サービスに接続する、というモデルは中国のサービスでも見られる。
例えば、中国の「DiDi(滴滴出行)」は、いわゆる「白タク」を中心した配車サービスプラットフォームであり、多くのギグワーカーが働いている。
そのDiDiは、2017年から段階的にドライバー向けの金融サービスを行なっている。ローンを借りるにあたっての審査では、DiDiに蓄積されたドライバーのデータが用いられているようだ。(参考記事)
またシンガポールに本社を持ち、東南アジア各国で配車サービスを展開する「Grab」も、DiDi同様にドライバー向けの融資サービスを持つ。(参考:Grabサイト)
後編では、一連の体験と考察から得られる日本・日本企業への示唆を記す。
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