プリマ
もう23時か…そう思いながら、鳴りやまぬお腹をさすった。たべたい。何か食べたい。ガッツリ、それでいて優しいもの。
カツ丼…そう、カツ丼の卵とじ。そんなことを考えながら5本目のバナナを食べ終えると、皮が話しかけてきた。「自分カツ丼食ベタイン?バナナガ作ッタロカ?」
一人称バナナなんだ…とちょっと引いてしまった。しかしカツ丼は食べたいので、「人間カツ丼食べたい!卵でとじたってやァ!」と返すと、「バカニシトンカワレェ!」と言いながらスーパーに出かけて行った。うちの冷蔵庫には納豆のタレとジャガイモの芽、一周回っていい臭いのニラしか無かったからだ。「お分かりいただけただろうか…」の一時間耐久を聞きながら待っていると、バナナが帰ってきた。
「ソウイヤ金モッテネェンダワ!」と言いながら冷凍庫を開ける。そこにはいつしかの鶏むね肉、100グラム39円。もはや化石のようになっているが、バナナがフゥと息を吹きかけるとすぐに息を吹き返した。
とにかく解凍できたらしいので揚げてくれた。卵はなんか天井に住んでた鶏が一個くれた。
こうしてカツ丼卵とじが完成。気になるお味は。
割り箸は先週すべてメンマにして食べてしまったので、じゃがりこを箸代わりにした。ところがどっこい、2本手に持った瞬間に「じゃがじゃがりこりこ」と言いながら食べてしまった。実際は「じゃがじゃ」あたりで食べ終えたが、そこはバナナも目をつぶってくれた。
仕方ないのでマイ箸を使う。まずはカツ。冷凍庫で眠っていたとは思えないほどジューシーな鶏肉が、さっくりとした衣に包まれ、さらにふわふわの卵でとじられている。一口噛むごとに肉の旨みと卵の甘さが口に広がる。次に米——と思ったが無かったのでティッシュを米粒大に丸めたもの。合わせてかきこむ。ちょっと喉につまるけどダシが染み込んで気にならない。そう思いたい。とにかく完食した。とてもお腹がいっぱいだ。胸もいっぱい。バナナへの感謝の気持ち——なのか、ティッシュの影響かは定かではないが、ありがとうと伝えようと振り向くと、もうバナナの姿は無かった。「バナナ…?バナナ!!どこにいってもうたんやワレェ!バナナワレェ!バナレェ!バレェ?ポワソン!!」と呼びかけていると、ひらひらと何かが落ちてきた。バナナの、筋——。皮をむいたときに、たまに身にくっついてて取りにくい、細くてやわらかいやつ。「シソンヌ…」そう言いながらそっと拾いあげ、こころの中でお礼をつぶやいて捨てた。