《死者たちの宴》1-2. 名代たち
‼️注意‼️
以下の文章はD&Dシナリオ、CM2 ーDeath's Ride(邦題『死者たちの宴』)を遊んだ時のレポートです。完全にネタバレしていると思われますので、これから遊ぶ方はご注意ください。
戦神の聖騎士
イリアナに伴われ、謁見の間に通される。
城詰めの戦士たち、そしてこの城と神との仲立ちをする戦神テンパスの神官――いや、もう少し有り体に言葉を使うなら”武僧”と称した方が正しいような、そんな出で立ちと面構えの聖職者たちの間に、王太子トーマリク殿下が何か苛立ちを押さえつけるような表情で立っている。
無理もない。トゥレイクヴェイルには、殿下と共にこの一帯の平定のために戦った者たちがいる。その消息が分からなくなっているのだ。本来なら今すぐにでも兵を率いて駆け付けたいところであろう。
「それを引き止めましたから、私は城の者からもテンパスの神官たちからも、ずいぶん悪く言われております。
――とはいえ、仕方ありますまい。テンパスに仕える方々はものごとを単純に考えすぎるのです。神の力に頼ることが危険であるなら、神から授かった己の腕の力に頼ればよいと思う方ばかりですから」
神官たちには相談することもならず、イリアナは私に使いを寄越したらしい。
それが不満らしく、胡散臭げに注がれるテンパスの神官たちからの視線を受け流していると、ふと、鋭い――ほとんど殺気にも似た気配を感じた。
「この城に直接かかわる者を動かしてはならない」と妻より重ねて戒められた王太子トーマリクが、自身の名代として招いたのであろう騎士が、私を見ていた。
携えた盾の中央には紋章が輝いている――いや、掌をこちらがわに向けた上向きの右の籠手の意匠は、まぎれもなく、勇気と自己犠牲を司る戦神トームの聖なる御印《堅き手》だ。
ということは、彼は王侯に仕える騎士でなく、トーム神の聖騎士であろう。
年の頃は三十歳――ちょうど私の半分ほど。その痩躯にみなぎるのは俗世の膂力でなく、神より下されし豪然たる気迫。日に焼けていっそう秀麗な面差しの頬に金髪が数本乱れかかり、東の遠国の宝玉を思わせる翠の瞳にも、ただならぬ光が宿る。宮廷にあればさぞかし貴婦人たちの噂にものぼろうというような――
いや、その騎士の眼の中に俗世の栄耀への関心はない。あるのは身を捨ててひとの過ちを匡すことを求める戦神トームへの献身の光のみ。真摯にすぎ、剣呑に過ぎる――ご婦人方の心の触れ得るところではあるまい。
名代たち
やがてグローマン王が謁見の間に現れ、改めてトゥレイクヴェイルとの連絡が途絶していることへの懸念を告げた。
さらには、ようやっと得られた近隣の地からの報告によれば、本来なら対立しているはずの当地の巨人族とオーガが手を結んでいるらしき様子であり、これはどうあっても尋常の事態ではない、ということも。
そうして最後に王はこう結ぶ。
魔術の神ミストラより力を授かりし魔女、王太子妃イリアナに下された神託によれば(異形の天使が告げたことも、確かに神からの直接の警告ともいえるだろう、と私は心の中だけで呟いた)、この城の者が直接かの地に赴けば、大いなる災いにつながるとのこと。
よってこの地を預かる者として、我と王太子と王太子妃はそれぞれに名代を立てる。
かの地が陥る危難の正体を明らかにし、具体的には領主マルテル・ファロ男爵の消息を明らかにして要があるならばその身を救い、トゥレイクヴェイルの地、ひいてはこのハーツヴェイルをも安んじねばならぬのだ、と。
それから王は、王太子夫妻にそれぞれの名代の名を問うた。
さきほどの騎士はやはり王太子トーマリクの名代。そして《金獅子騎士団》の一員であるという。これはかつてトーム神殿が侵した過ち――勇猛と献身の神の名のもとに参集しながらいつしか驕り、他の神々を軽んじ排斥し、それが神の怒りに触れ、ついにはこのフェイルーンの地に”災厄の時”と呼ばれる大いなる破壊と破滅をもたらした――の償いのために身を捧げんとする、聖騎士の一団である。
彼はその名を、ドーン・グレイキャッスルと名乗った。
私も名乗る。
我が名はプラニダーナ、《最後の筆記者》ジャーガルの信徒にして、あらゆるものとその行ないが、しかるべく記録され、しかるべき知識として定められ、しかるべき場所におさめられることを求めて献身する者。この度の怪異めきたる連絡の途絶の謎、かならず解き明かすべく、この身命を賭する心づもりでおります。
《死》に囚われしもの
「では、これより我が名代を呼び出だそう」
王はそう言った。
――我はかつて戦場に在りしころ、共に戦いし巨人族と友誼を結んだ。その証として、巨人族の長は我にひとつの指輪を寄越し、これは三つの願いをかなえる力を持つものだと言った。
すでに彼ら巨人族は二つの願いをこの指輪に掛け、それは確かに叶ったのだという。よって三つ目の願いを人間の王に譲ろう、と。
であるから、我はいま、この指輪に願う。
トゥレイクヴェイルの沈黙の謎を解き、かの地とわが領土に安寧をもたらすのに、最も適した勇者をこの場に呼び出だせ、と。
そうして王は、3つの青い宝玉――そのうち2つはひび割れ曇っているのだが――のついた指輪を天に掲げた。王の声に応えるように、指輪の上でただひとつ輝いていた宝玉から光が一瞬、迸り――
その後、そこに屈強な戦士が現れるのだろう、と、誰もが思っていた。
なにしろトーマリクの名代はトームの恩寵あらたかなる聖騎士といえども、外見は痩躯の――どちらかといえば優男の部類に入る。
私はといえば、齢六十を超えており、これまた痩躯、さらに肩までの白髪。書物3冊より重いものを持てば潰れるようにしか見えぬ老人である。これより危難の地に赴くにあたっては、物質的な力がいかにも足りぬ――
乾いた音を立てて宝玉がひび割れ、蝋燭の火が消えるように光が薄れ――その後に薄闇が広がり、凝り、深い闇が形を成す。
そしてその場に現れたのは、奇怪な三つ目の仮面をかぶった異形の侏儒であった。
その姿が異様に不安を掻き立てるのは、歪んだ背格好のためだけではない。
その身体から発する、ひんやりとした命なきものの気配。命なく、かつ、死せざるもの(アンデッド)。陰深き反生命の世界(シャドウフェル)に属する者。さらに――そうだ、その姿の足元には、影がない。
化け物、と、誰かが絶叫するのと、”それ”が興奮気味に叫ぶのが同時だった。
「俺だ、俺だ、俺俺俺、俺に願いを、そうだ願いだ、三つ目の願いだ、かなえてやる、必ずかなえてやる‼」
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