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《死者たちの宴》 2. 孤城の怪物



‼️注意‼️

以下の文章はD&Dシナリオ、CM2 ーDeath's Ride(邦題『死者たちの宴』)を遊んだ時のレポートです。完全にネタバレしていると思われますので、これから遊ぶ方はご注意ください。

無人の城

 城門や城壁に我が物顔に陣取る巨人や蠍人間どもの様子を窺う限り、どうやらスカルヘイム城の戦いは愉快ならざる結果となってしまっているーーいや、まだ決着がついたとは限らぬのだが。助太刀すべき戦闘がまだ行なわれてはいないかと、目を凝らしたが、城外から見えるところは既に静まり返っている。

 「私の知る限り、この城に裏門や抜け道はない。城内の勇者たちは必ずやどこかに立て篭もり、起死回生の機会を狙っているはず……」

 ドーンが歯噛みをせんばかりの口調で言う。

 これほどの城に出入り口がひとつのみというのも解せなかったが、城が落ちればこの地も落ちるのだから、逃れるための裏口など要らぬ、守るべき門がひとつのみであるほうが守るに易いという理屈があるようだった。

 となれば城への入り口は、今まさに巨人が座り込んでいる城門のみなのだが……まさかそのまま突入するわけにもいくまい。まずは術を用いて状況を探れるかぎり探ることにした。

 ”三つ目”が「俺は、ぶっ殺すための魔法しか準備してきてねえぞ」というので、私ができることをすることになった。しかし私も状況がここまで差し迫っているとは思わなかったものだから、備えはいかにもお粗末である。ひとまず“視点を生身から離して移動させる”術はすぐに使えたので、そのようにした。

 移動する“視点”からはこんなものが見えた。

 城の城壁と中庭には、投げ槍めいたものを手にした蠍人間どもがぞろぞろとうろついていた。見える限りでは10体ほど。その中には、オルクスの邪印を胸元につけた、”聖職者”にあたるらしきものも1体いた。あとは城門の真ん前に丘巨人が座り込み、その左右の門楼にオーガが1体ずつ。門の奥には破城槌を担いだオーガが1体。
 巨人やオーガの身体にも、オルクスの邪印が刺青として刻み込まれている。

 「はて、あのデカブツどもに、オルクスを信仰するぐらいの知能があったかなあ」
 ”三つ目”が呆れたように言った。
 「直接信仰してはいなかろうな。たしか、あの蠍人間は――我々とは思考回路は全く異なるが、それなりに知能は高い。相応の身分制度もあったはずだよ。おそらくオルクスを信仰する蠍人間どもが、巨人やオーガを奴隷としているとか、そんなところだろう」
 答えながら、さらに”視点”を動かしていく。

 視界のそこここには焼け焦げた跡や血だまり。激しい戦闘が伺われる。
 まだ血の跡は濡れているのに、敵味方含めて死体がひとつもないとうのはーー蠍人間どもは、よほどの潔癖症なのか。
 
 ”片づけられた”遺体を見つけられさえしたなら、その中に、まだ息のある者を見出せないとも限らない。兵舎や厩らしき建物の壊れた窓、欠けた扉から”視点”を室内に入れ、可能な限り状況を検める。
 が、あるのはやはり血だまりばかり。身体も骸もーーそれこそ人のものも馬のものも、怪物どものものさえ見当たらない。

 それでは、と、城の天守塔に”視点”を移す。今となっては”幸い”ということになるが、尖塔のひとつが崩れており、そこから”中に入る”ことができた。
 扉や壁の崩れたところを縫うように、塔内を見て回る。
 戦闘のあとや物取りに荒らされた跡の様子を告げるたび、この城とその住人に馴染のあるドーンが「そんなはずがあるか」「あのような下賤なものどもに、我が朋輩たちが……!」と呻くのが――そしてその声の調子がさらに怒気を帯びていくのが聞こえた。

 ドーンと信仰を同じくする城付きの神官、ジャレドの部屋にも、城主の部屋にも、主はいなかった。いずれも戦闘というよりもーー物取りにあったか、あるいは様子のわからぬ者が手当たり次第に何かを探そうとしたかのように、荒らされている。
 そして相変わらず城は無人である。

 入り込める限りの隙間に”視点”を差し入れながら、塔を下る。そしておそらく地上1階であろうという場所まで出た。
 
 ”私の目”に映ったのは、幽鬼(ワイト)の群れ。

 上階から漏れ来る光がわずかに照らし出すその広間は、恐るべき不浄な場所となり果てていた。
 数えるのも嫌になるほどの死者の群れの中央に――暗い影のように、鎧に身を固めた男が立っている。鎧の胸元の紋章は、彼が――あるいは”それがかつてそうだったもの”が――この城の主、マルテル・ファロ男爵であることを示している。ドーンの歯ぎしりを聞きながら、私は”彼”の顔を覗き込もうとする。その表情に果たして命の気配が残るかどうかは、深く傾けた兜の庇の陰になって見えない――が。

 「ドーン、”彼”は少なくとも呼吸をしている。胸が動いている」
 「よしわかった、すぐに往くぞ」

 唐突に殺気立った気配に、慌てて私は”視点”を操るのを止め、意識を自身の身体に戻した。見ればドーンは軍馬の手綱を取り、今にも打ちまたがろうとしている。

突貫

 ドーンの物言いはあまりに性急とも思えたが、結局我々にはそれ以外に方法がないのだった。まさか本当に正面から突っ込むのか、忍び込むなり、或いは姿隠しや飛行の術を使うなり、もう少し気の利いたことはできないのかと一応は互いに問いあってみたが、この城には正面の門以外に出入り口はなく、”三つ目”は「ぶっ殺すための術しか準備してない」と繰り返す。私にもすぐに役立ちそうな手段の準備はない。

 「では、私が馬で先陣を切り、あの図体ばかりの門番どもを片付ける。プラニダーナは後から来て、幽鬼どもを祓ってくれ。それから”三つ目”はプラニダーナが途中で斃されぬよう、奴らを殲滅してほしい。そのための準備ならあるのだろう」
 「待ちなさい。その前に我ら三人に神の祝福があるよう祈るから」
 「あと、あんた、突っ込む時に、ちょっと様子を見ながらやってくれ。風を操って、あんたに蠍人間どもの投げ槍が当たらないよう守ってやるから」

 そして私が聖句を唱え終わった瞬間、あとはもう一瞬もぐずぐずせずにドーンは軍馬に飛び乗り、その腹に拍車を当てた。 

 薄暗く垂れこめる暗雲の下、剣をかざし金髪をなびかせ、城門めがけて真正面からただ一騎、一条の光のように軍馬を駆る。

 「お、おい、プラニダーナ、なんとかしろ。あいつ、物語の主人公かなんかのつもりだぞ!」
 ”三つ目”が呆れたように喚き立てた。それはそうだが、聖騎士というのはそういうものだ。仕方あるまい。

 軍馬ごと正面から突っ込んだドーンの一撃で、巨人が大きく揺らいだ。次の瞬間、私が天から招んだ聖なる炎が巨人を撃った。さらに聖騎士を包むように突風が吹き荒れ出し、蠍人間どもの飛び道具の狙いを乱す。そうして風を操りながら”三つ目”は私の隣で儀式刀を抜き放ち、大きく振るった。数十フィート先で、いくつもの見えざる切っ先に裂かれた巨人の身体が血飛沫をあげる。

 おそらく何も理解しないままに、巨人は死んだ。
 ”三つ目”は「じゃあ、残りは貴様らにくれてやる」と小さく呟く。巨人が倒れるのに一瞬遅れて、門楼の上のオーガの身体が血を噴く。

 異変に気付いた蠍人間どもが、真っ先を駆けるドーンめがけて殺到してくる。寸分も引かず敵を一手に引き受けるドーン、そこに”三つ目”が呪文を叩きこむ。火球が爆ぜる。巻き込まれたドーンの傷を癒すのは私の仕事。

 術と刃で互いに削り合うこと、さらに数合。彼我の数の差にいくぶん手間取ったが、結局、そう長引くこともなく勝敗は決した。
 生き残りの蠍人間どもが士気を沮喪して逃げ出そうとするのを、城外まで追って殲滅した。どこにどれだけ敵がいるのか不明である以上、逃がした連中に援軍でも呼ばれたら、たまったものではない。

 城内に戻ると、ちょうど天守塔の扉が開き、そこから幽鬼が一体、外を伺っているのと目が合った。ハッとした瞬間、幽鬼は消える。
 が、奴らに我らの人数を知られた。
 確かに中庭は制圧した。が、我らはただの3人、しかもそれなりに手傷も負い、畳みかけるように術も相当数を繰り出した後である。となれば、幽鬼どもにしてみれば、我らに猶予を与える理由はなかろう。

 すぐに火蓋が切られるはずの次の戦いに備え、蠍人間どもとの戦いで負った傷を癒せるだけ癒す。
 その間、三十秒。

 身構えなおしたと同時に、天守塔の扉が開く。
 幽鬼どもが雪崩のごとく湧き出してきた。



2024, 05, 12 《死者たちの宴》第2回セッション
システム: D&D第5版
DM: D16
ドーン・グレイキャッスル / ヒューマン / 13Lv パラディン: ふぇるでぃん
“三つ目” / ライトフット・ハーフリング / 11Lv ソーサラー/2Lv ウォーロック:チョモラン
プラニダーナ/ ヒューマン / 13Lv クレリック:たきのはら

 

 





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