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チーフが飛んだ話/女性映像制作者タキ

映像制作を生業としております、タキです。
表題の通り、チームリーダーが飛んだ時の話をします。


1日目-その時は突然訪れる

朝、私が彼氏とじゃれておりましたところ社長から入電。
「A君が来てない」
Aさんは私の所属する制作チームのチーフで、その日は朝から社内でセミナーのオンライン配信の仕事があり、Aさんと外注カメラマンで対応の予定になってた。はて、来ていないとは。とりあえず出社してみるかと自転車を走らせた。

幸い社内での業務だったため、バタつきながらもなんとか対応。
無事終わってオフィスフロアに戻ると、落ち着かない様子の社員たち。
「誰も連絡が取れない。今日はあの番組の初稿出しの日なのに」
Aさんはちょうどテレビ番組の特番を担当していて、局のプロデューサーにチェックを受ける日らしかった。でもAさんは連絡もつかず、奥さんも前日夜以降の行方を知らず、データもどこにあるのか分からない。

納品前の特番のデータはどこに

テレビ番組の納期を守れないというのは、本当にまずい。放送枠に穴を開ければ、損害賠償は免れない。そうなればもう会社としてやばいことになる。上司たちは右往左往、とにかくAと連絡を取れ、データはどこだ、プロデューサーにどう説明しよう。そんなことを言っていたと思う。

Aさんの安否確認

面倒見のいい先輩がAさんと連絡がついた。現在5県隣にいることがわかった。おそらくその連絡がついた後、会社の駐車場でバキバキに割れたAさんの社用スマホが見つかった。断片的な話と状況から整理すると、

・前日自宅で夕食後「編集作業があるから」と会社に戻っていた
・会社で作業をしていたが、スマホを投げ捨て自家用車を走らせ
 5県先まで移動していた

Aさんとの連絡がついた頃、データはAさんのデスクで外付けSSDが見つかった。上司たちはテレビ局対応で頭がいっぱいの様子。先方に提出できるものがあるのか否かが最も重要なことのように話していた。

私が実質Aさんの次席であるため、データの進捗を確認し報告する必要があった。SSDを繋ぎ内容を確認する。書き出しデータは無い。ならば編集途中のものがあるはずなので、編集ファイルを開いた。

やばい、全然できてない

作業進捗をパーセンテージで表すなら、5%ほどの状況だった。
思わず笑った、笑うしかない状況だ。今日は初稿の提出日、撮影した日からみても、編集期間は3週間はあったはずだ。噓でしょ?

上司の強行策

この後のやり取りは激務過ぎて正直あんまり覚えてない。ただ放送日までに特番を納品しないといけないことは変わりようのない現実だった。会社の色んな部署の人が訪ねて来て「できるのか」と質問してきたので「できません」と答えた。それぞれ担当の業務を進行する必要があるし、この特番に割けそうなリソースが圧倒的に無い。だが社長はそんなのはお構いなし、制作の続行の意思をテレビ局に伝えた。ここが地獄の入り口!!!

2日目-地獄の入り口

助っ人として考えられる他社のBさんに泣きつき、「一旦話を聞こう」とその日の夜中に駆けつけてくれた。我々制作スタッフが申し訳ないやら情けないやらで、状況を説明、可能であれば手を貸してほしいと交渉する途中に社長と部長が登場。
「テレビ局に外部のディレクターとしてBさんをアサインするので大丈夫ですと伝えていいか」と言い出す。いやまだ了承してもらってないけど??
我々が世話になっているBさんを一体なんだと思ってるんで????
とんでもない空気になりながらも、Bさんは腹をくくってくださったようでスケジュールを調整してまでつきっきりで手を貸してくださることに。

そこからはもう怒涛の編集作業。もともと数日分のロケをまとめなければならず、膨大な量の撮影データを手分けしてパートごとにまとめていく。

作業を開始して3日目、日が昇ってから会社のソファで仮眠を取り、目が覚めると非常に体調が悪い。もう最悪。無理やり食べたおにぎりは吐いた。
そこに現れる社長。
朝っぱらからそのツラ見せんじゃねぇと思っていたら、開口一番
「間に合うんだろうね!?これは会社同士の問題になんだよ!」

え、この人まじで言ってる?私たちが「できない」と判断したものを強行してやらせておいて?思い出しても腹立ってきた。私の体調が悪くなければボコ殴りにしていたに違いない。まじで忘れねぇからな!!!

そんなこんなありつつ、心配して差し入れをしてくれる人たちの支えや応援もあり作業はどうにかこうにか進んでいった。

7日目-後輩の結婚式

そうこうしているこの期間、タイミングの悪いことに納品4日前のタイミングで制作チームの最若手、Cくんの結婚式が予定されていた。
なので、Cくんは結婚式の準備として休暇を取っており、申し訳なさそうにしていた。それは先輩として全く構わないと伝えていたのだが、ここで別の問題が生じる。

Cくんは会社の上司たちと、制作チーム全員を招待している。つまりAさんも招待客なのだ。この地獄真っただ中に、Cくんの結婚式で全員が顔を合わせることになる。正直くっっっっっっそ気まずいが??
しかしCくんはAさんをかなり慕っているので、Aさんが出席できるように根回ししていた。Cくんの結婚式だしCくんの望む形にしてあげたいのも事実。私も大人なので「全然いいと思うよ!」と言っておいた。

結局寝不足で結婚式に参列し、楽しく披露宴を過ごし、帰宅して風呂を済ませて21時に会社へ戻った。ちなみにBさんはこの間も作業を続けてくれていた。本当に頭が上がらない。

9日目-辛抱たまらん

うちは制作会社としては珍しく、多数の部署が存在する中の1部署のような位置づけなので、大企業のような管理体制が敷かれている。

どうにかこうにか各所にプレビュー版を提出することができ、その返事待ちの時間が生まれた。この期間の上司の対応に不満しかなかった私は、会社の人事と衛生室の先生を巻き込み、記憶が新鮮なうちに社長の所業を通報し体調不良を前面に訴えた。訴えたからと言って即座に対応が取られるわけではないので、これはこの時以降定期的に行っている。

10日目-無事納品

こちらの都合で納品が遅れているので、納品はテレビ局に直接持っていくことになっていた。納品前日に1度データを持っていき、各所に最終確認が取れたら納品当日にもう一度最終のデータを持っていく手筈だったため、2日間家には帰らず対応した。テレビ局の人たちは、納期を遅らせた私たちに対して優しかったように思う。「徹夜ですか?」と聞かれそうだと答えると、ちょっと引いていた。こうして無事特番はオンエアされた。

振り返ってみて

Aさんは作業を抱えすぎる傾向がもともとあったので、日ごろから「○○の件、順調ですか?」など声掛けをしていたんですが、Aさんも「まぁまぁ」としか答えてくれなかったので、飛ぶまでこの事態に気づけませんでした。Aさんはこれを機にそのまま退職しました。

怒涛過ぎてほとんど記憶がなかったんですが、冷静に日数を数えたら10日間(発覚した日を除けば9日間)で編集~納品までたどり着いたのが本当に奇跡のように思います。結婚式にも出たし。笑

以上、チーフが飛んだ話でした。

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