見出し画像

41・R・Stones好きのスピリット・6~She Was Hot

*家裁ファッション

うちには、ビートルズ好きの父親と R・ストーンズ好きの母親のDNAを受け継いだ子供がもう一人いる。タタオの妹のキキコだ。


キキコが中学生のときである。
私が外出先から帰ってきたら、キキコが突然
「今日、私、警察に捕まっった」
私「えーーーーー?!」
キキコ「おかあさんの原チャリに乗って、ドラッグストアに行く途中 
お巡りさんに捕まった」
 
キキコはバカなことに  制服姿で中学の前を原チャリで通り、
そのときジャストタイミングで パトカーが通ったのだ。
「つかまえてください」と言わんばかりの状況であった。
 
タタオが中学の時は、私は原チャリの鍵を置いていくようなドジは決して踏まなかったのだが、まさかキキコが原チャリに乗るなど思いもしなかった。
あの兄(タタオ)の妹だってことを忘れていたのだ。
しかし、タタオが要領よく悪さをするのに対し、キキコは悪いことしても間が抜けててすぐバレてしまう。

キキコは「親といっしょに、警察と家庭裁判所に行かないと、鑑別所行きだって」とオロオロ。
私はアタマに来て「鑑別所でもどこでも行きな」と言い放った。
キキコ、土下座して泣きながら「いっしょに行ってください」
 
私「まったくもうあのお兄ちゃんだって、家庭裁判所のお世話になったことなんてなかったのに」
タタオ「オレはそんなヘマはしない!」
私「・・・」
 


近くの駐在さんに捕まり、交番に連れていかれたキキコ。
身上書に名前を書くと駐在さんが一言。
「お前、にーちゃんいるだろ。 そーいや似てんな」
(何で にーちゃんがここで出てくる?!
駐在さんに名前を知られてたうちの子って・・・)
 
駐在さん「まったく捕まるような運転しやがって。制服着て、ウィンカーも出さずに曲がろうとして! 
いやでも捕まえなくちゃしょうがねえじゃねえか!
お前さえ捕まえなかったら、今ごろオレは仕事終わってカツ丼食べてたのに。あー、腹減った」
キキコ「そんな、どうぞ気にしないで食べて下さい」
駐在さん「バカ! 勤務中に食えるか!」
 
親に連絡すると言う駐在さんに
キキコ「お母さんは 出かけてていませんけど」
駐在さん「じゃあ、担任だな」
キキコ(ああ、あたしもう高校行けないな・・・・)
ところが担任はもう帰ってしまってた。
キキコ(よっしゃ!と心の中でガッツポーズ)

駐在さん「じゃ、父親の勤務先だな」
一難去ってまた一難。
キキコ「お願いだからお父さんにだけは電話しないでください!」
駐在さん「そんなわけいくか」
キキコ「お巡りさんは、うちの父親がどんなにこわいか知らないんです。
迎えになんて来させたら殺されます」
(夫は 子供に激怒したことも子供を殴ったこともないのに、
子供たちは なぜか ”父親は怒らせたら怖い” と思い込んでるのだ)
駐在さん「そんなことは知らん」
キキコ(どうか、出ませんように)

キキコの祈りが通じたのか、父親はたまたま仕事場にはいなかった。
駐在さん「困ったな。しょうがねえ、今日は警察署に泊まるか、少年課な」
キキコ「いやです!(泣)」
(駐在さんにからかわれてただけだな)
 
駐在さん「近くに誰か親戚でもいないのか?」
キキコ「叔父さんがいますけど」
駐在さん「電話代がかかるから、お前が自分で交差点の向こうの公衆電話でかけて来い」
キキコ「えっ? 逃げたらどーするんですか?
駐在さん「お前、逃げる気なのか?!
キキコ「いえ、そんな度胸ないです。でもここ出てっていいんですか?」
駐在さん「お前の家も 中学も 担任の名前も 父親の勤務先も にーちゃんの名前も全部わかってんだ。(だから、何でにーちゃん?!)
逃げられるわけねーだろ!
もし、逃げたら、お前の家の前で待っててやるよ」
 
キキコ、電話番号を覚えてる近所の友達に電話して、近くの叔父さんちに行って、来てもらうように言ってほしいと頼む。
で、友達が行って、突然
「あのー キキコちゃんの叔父さんですかあ?
キキコちゃん、警察に捕まっちゃって。
交番まで迎えに行ってくれませんかぁ?」
夫の弟、あわててキキコを迎えに交番へ。

キキコ「今思えば、親でも担任でもなく、一番感情的にならない立場の人が来てくれて、本当によかった。
家に帰ってお母さんにビンタされたけど、交番でビンタされるより ずっとマシだった。
お父さんに至っては何の説教もなかったし、かえって反省したけどサ」
(キキコは父親がこわくて布団かぶって震えてたのだが、父親は寝てると思って起こさなかっただけ)

私から話を聞いた夫の第一声は
「バカ! 無免許運転だって、捕まんなきゃ無免許運転にならねーんだ!」
 
ちょっ、第一声がそれってアナタ・・・
 
夫「オレが新聞配達してたとき『新聞が入っていない』って苦情があると、
所長に『間に合わないから 原チャリ乗って届けて来い』って言われて、
免許ないのに乗ってたんだ。捕まったことなんてなかったぞ」
アナタ、何十年も前の話でしょ。時代も違うし、それに 小5から高校まで朝早く起きて新聞配達して家計を助けてる子供には、神さまだって味方するよ。
 

キキコ「その後、しばらくしてから、お母さんが
『うちは二人とも不良になっちゃって』なんて言ったら、お父さんが
『何言ってんだ、不良が何たるかも知らないで。
キキコなんて、どこにでもいる中学生じゃねえか』って言ったの。
 
そん時さぁ、ああうちのお父さん、ほんとわかってるなあって思ったんだよねー。
ほっとしたよ。
あたしは不良なんかじゃなくて 普通の、ちょっと好奇心が旺盛な子供なんだって自分では思ってたけど、世間の人たちは『警察のお世話になるなんてどーしようもない不良』くらいに思ってるでしょ。
でもさ、うちのお父さんは違うんだよね。
ちゃんと、本当に悪くなったわけじゃないってわかってる。
だから、お父さんが昔から
『万引きなんて絶対しちゃいけない、人の物に手を出すなんて最低だぞ』
って言ってたから、それはお父さんが言ってるんだから絶対やっちゃいけないことなんだって思って、あたし どんなに勧められても万引きだけは一度もしたことなかったよ」
 
 
家庭裁判所(家裁)へ行く日、キキコは、
ルーズソックスをやめて白のふつうのソックスに替え、制服のスカートは長めに戻し、まっとうな恰好になった。
 
夫「おっ、きょうは家裁ファッションだね
 
それ以来、キキコはまともな恰好をするたびに、父親から
「今日は、家裁にでも行くのか?」
などと、すっかり笑いのネタにされていたのだった。
 

時は流れて、マトモな大学生になったキキコは 就職活動のため黒のスーツでお出かけ。
夫「おっ、きょうは真面目なかっこしちゃって。家裁にでもいくのか?」
キキコ「そのネタは一生私に付いてまわるのか・・・」


キキコは、HotというよりCool なんだけど、とりあえずこの曲で。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?