路上からのフェミニズム入門ーー堅田香緒里『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』(タパブックス、2021年)
貧困問題が専門の福祉社会学者によるフェミニズム・エッセイ集。副題の「パンとバラ」とは、人が人らしく生きていくのに欠かせない「生活の糧(=お金)」と「尊厳」のこと。20世紀初頭、工業化が進むアメリカ北東部、マサチューセッツ州ローレンスにて大規模ストライキを行った移民女性労働者たちが掲げたスローガンが「パンをよこせ、バラもよこせ!」。ここから彼女たちの運動は「パンとバラのストライキ」と呼ばれる。現代のフェミニズムもまた「パンとバラ」を同時に求める「99%のフェミニズム」となっていると著者は言う。
では、なぜそれが「反資本主義」ということになるのだろうか。女性に家事労働やケア労働を強いる家父長制は、男性労働者たちの労働力の再生産――それは資本主義にとって絶対に欠かせないものだ――のためにこそ、女性たちを家庭のなかに縛りつける。女性たちが家父長制という男性による支配=保護から自由に生きていこうとすれば、彼女らには「パンとバラの公的保障」が不可欠だ。それが欠けていたからこそ、コロナ禍でケア労働に従事する女性たちの多くが苦境に陥ることとなった。
そうした貧困の極北に位置しているのが「ホームレス」という存在である。本書には、著者が横浜の路上で出会い交流を重ねた野宿生活女性タネさんのエピソードとともに、横浜という都市の来歴――それはこの都市がなぜ数多くの「ホームレス」を抱えることになったかの謎ときでもある――、そしてそれが彼(女)らを「浄化」=排除していくジェントリフィケーションの現在地が描き出される。都市開発とはもちろん、資本主義の作動そのもの。家父長制と資本主義、その両者が交差するところで「女性ホームレス」という最も脆弱な存在が誕生するというわけである。
しかし、「ホームレス女性」タネさんは本書では、排除する社会に一方的に蹂躙される受動的存在として描かれてはいない。彼女は路上の思考や方法を駆使しながらしたたかに生き延びる抵抗者、「無駄」かつ「役立たず」な存在のまま居続けることで開発に抗い続ける「現代の魔女」のひとりである。本書では、彼女のほかにも、ジェントリフィケーションに抗いそれぞれの場所で「日常の抵抗運動」を行う人びとのさまざまな実践――スクウォット(占拠闘争)、コミュニティ・ガーデン、セーファースペースなど――が紹介される。きっとそれらは、資本主義が昂進し続けるこの社会のなかで、私たちがそれに抗い「魔女」=フェミニストとして生きていくことを支えてくれるツールとなることだろう。(了:2024/10/04)
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