地方の課題とは?――「東北の春」に向けて(26)
二年前、『若者たちはヤマガタで何を企てているか? ~ポスト3・11の小さな革命者たちの記録~』(書肆犀、2018年)という小著を出版した。山形県内の各地でユニークな活動にとりくむ若い世代50人を取材し、彼(女)らが産み育てた現場発の言葉たちをもとに、地域の未来を社会学的に展望したもので、2014~17年の『山形新聞』紙上での連載「ヤマガタ青春群像」がもととなっている。その続編の出版を「よりみち文庫」で準備中である。
今回の本もまた『山形新聞』紙上での連載(2018~20年)をまとめたものだが、もととなる連載のコンセプトが前著とは異なる。「多文化ヤマガタ探訪記」と題されたそれは、前著が「やまがたの若者活動」をテーマとしていたのに対し、「若者」に限らず、老若男女、さまざまな世代のユニークなとりくみを対象としてとりあげている。結果、前著以上に多様で、彩りゆたかな活動とそれを担う人びとの群像を可視化することができた。
その続編『地方の思考:ヤマガタの〈市民社会〉実践30の現場をめぐる2018~2020(仮)』は、県内各地の活動者30人の記事からなる。自宅の蔵を開放し人びとを迎える居場所づくりやローカル線の列車でプロレスイベントを行う活動、大学の知的資源とともに地域課題にとりくむ子育て支援NPO、まちの「絶滅危惧」文化を記録した雑誌を発行するとりくみなど、多彩な実践がとりあげられ、それらをもとに地域の将来が展望されている。
これら30人の実践の多様性を、本書では六つの柱に整理して提示している。すなわち、①まもる、②あそぶ、③いかす、④つなぐ、⑤つたえる、⑥のこす、というもので、それぞれ、①価値の源泉となる生命・生活を守り支えること、②遊びから価値をつくりだすこと、②眠っている資源を活かして価値をつくること、④資源どうしをつないで価値をつくりだすこと、⑤新たに生み出した価値を人びとに伝えること、⑥受け継がれてきた価値を次の世代に残すこと、を意味する。
上記に通底するのは、その場所からどのように独自の価値を生み出し、それを人びとの間で育み、続く世代に手渡していくか、というテーマである。そうしたことが可能となるためには、そこに多様性のあるアクティヴな〈市民社会〉が息づいていることが不可欠だ。都市部であれ農山村であれ、おそらくはどんな場所であっても抱えているであろうその課題に、やまがた各地のさまざまな世代の人びとがどんなふうにとりくみ、その人びとなりの答えをだしてきたか。
地方でいかに〈市民社会〉を達成するかというこの問いは、新型コロナウィルス禍の現在、改めて注目されるべきものでもある。感染症禍は東京のような過密都市のリスクを明らかにした。大地変動や気候災害も勘案するなら、これまでのように大都市圏に人口を集中させるのではなく、各地に分散させ、それぞれの圏域に適正規模の生活圏を成立させていくことこそが持続可能といえる。
そうなると問題は、地方・地域の社会の側が、従来より抱えてきた閉鎖性や保守性をどうするかに帰着する。どうやって風通しのよい〈市民社会〉を地方・地域に生み出し、根づかせていくか。それができなければ、都市圏から回帰する人びとを地方・地域の側は受けとめることができないだろう。この問いに確定した解はない。現時点では、先行するさまざまな試行錯誤に学ぶしかない。本書の事例群は、その答え探しにも参考例としてきっと役に立つはずだ。ぜひ手にとっていただけたらありがたい。
(『みちのく春秋』2021年春号 所収)